(記/minaco.)
ルートの完全復活を待ちつつ、思い出話をするシリーズ。
今回お送りするのは、
【マンチェスター居酒屋対談】です。
時は2006年、春。
カーリングカップ決勝を機にスタメンを外され、ファーギーとの確執が噂されたルート。勿論当人は真相に口を閉ざし、ただ途中出場を甘んじて受け入れていたけれど。
オランダメディアでも、Voetbal Magazine誌が逸早く現地へと飛んだ。そして芝居掛かった「潜入取材」を試みる。ラウオル・ヘーチェ記者とピエール・ファン・ホーイドンク選手(2人揃って自称H&H)が渦中のルートを直撃するというもの。
まあ、マンチェスターの居酒屋で呑みながら雑談するだけなんだけど、記事は大仰なストーリー仕立てになっている。例えばこんな感じ。
ウォーターゲート事件を暴いたウッドワードとバーンスタインはもういない。だが今、有名なジャーナリストコンビがルートに迫る!独裁者ファーガソンによってベンチへ追いやられた彼の真実とは如何に?!
そんなネタ企画にもかかわらず、ガチは思い切りガチだった。以下、その暴走ぶりをたっぷりと振り返ります。
ピエール・ファン・ホーイドンクさん
【試合開始】
マンチェスターのとあるパブでルートと密会した、「潜入記者H&H」。少々のワインなどを酌み交わしつつ、話を切り出す。
──(H&H) 訊いてもいいかなルート。ベンチに座ってるのは解せない?
ルート(以下R) 別に。監督がする事は解ってるよ。サハはよくやってるし、俺はいつかチャンスを掴むつもりさ。
──君はVan The Benchmanとしてマンチェスターに来たんじゃないぞ。
R 監督が決める事だよ。
──誰がボスか君に示してるんだと我々は思うが。
R そんな風には思ってない。監督が俺だけをそう扱ってるんじゃないし、他の選手に対してもそうだよ。
──サハは良いよ。でも、君はもっと良い。
R トップクラブじゃ時々、他の選手の為にスペースを作らなきゃないのさ。
──我々は君をどう捉えればいいんだい?
R 俺はチームのすべての事が頭に入ってるんだ。皆が何試合プレイしたか、何得点したか、サブは…って、
いつもかなり正確に覚えてる。
俺の夢は200ゴールする事だった。もう既に148点獲ってるから、それは可能だよ。150点以上得点したのは過去7人しかいないんだ。俺は歴史を作るのが好きってゆうか、歴史の一頁になるのが好き。ここには凄い歴史がある…。先週、今はもうゴールするチャンスは少ないって気付いたんだけどね。
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【夢はまだ生き続ける】
──何が君を良いストライカーにさせたのかな?
R 状況を判断するのが得意なんだ。どこに誰がいるか周りを見続けて、原則的にベストな動きを決める事が出来る。それに、俺は右足をよく使うだろ。凄く簡単に聞こえるかもしれないけど、良いシュートを打てるって事。すべての選手に良いシュートを期待しても、多くにそれがある訳じゃないよ。
アルコールが回ってきたのか、次第にルートは饒舌となる。
R オランダで俺はそれ程良い選手だと思われてなかったと思う。もっと若い子が沢山ゴールしてたし。よく解んないけど、でもそう感じてたんだ。
俺はだんだん悪くなっていきそうで怖かった。股抜き合戦や引き篭もりフットボールがすっかり嫌になりそうだった。っつうか嫌だったんだ。
トータルフットボールの絶滅だよ。フットボールに“トータル”なんて何も無くなっちまう。
フットボールは細かいトリックがすべてだと思う選手が次々に出てきやがる。そいつらがもし股抜きでプレイ出来るってんなら、そりゃもうシアワセだろ。
フ ッ ト ボ ー ル の 恥 だ ね !
どんどん怒り出す。こいつをどうやったら静かにベンチに座らせておけるというのだろう。
股抜きという言葉が彼をここまで極端に怒らせるのか?
R アフェライ(当時PSV)とかが気になるんだ。常にフリーでいて、でもって常にボールを持てるってんなら良い選手だよな。ジダンはフットボールに至高をもたらしたね。彼の動き、バランス、洞察力、俺はその凄さを享受できる。それがフットボールってモンだよ。
──アーティストみたいに感じるのかい?
R それどうゆう意味?
──誰でも基本や経験を高いレヴェルで持ってる。アンタッチャブルなものにさせるには、何が違うんだろ?広告的価値はクリエイティヴィティかな。ピカソは彼が最高の時に何をすべきか知らなかっただろ。
R もし正しい方法、相応しいタイミングでボールに触れれば、それは凄く美しいんだ…相応しいスピードや場所でさ…。多分、画家や作家によくそんな時があるのと、自分の感じる瞬間は似てるんじゃないかな。ボールが来た瞬間、瞬時に感覚で何でも解るんだ…何も考えずに、同時に高い集中力で。
── いいね、全く芸術的な資質だよ。でもレアル・マドリーは芸術家が沢山居るけど、結果は最高傑作じゃない。
R (落ち着き払って)
多分、赤ばっかり、とか間違った絵筆なんだろ。
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〜後編に続く〜