(記/なるほ堂、絵と監修/minaco.)
【#36 Man Utd 3 - 1 Spurs】
マンチェスターの太陽よりも、どんよりした男
──CSIチーフ、ポール・スコールズ
スコットランドが生んだホットガイ。球際のエキスパート
──ダレン・フレッチャー
もう経験不足とは言わせない。若き野心家
──ダロン・ギブソン
キャリック砲のスペシャリスト。クールビューティー
──マイケル・キャリック
最新科学でピッチ上の凶悪事件を究明する
『CSI:マンチェスター』!
【テーマ曲】
※CSI=Centar harf(センターハーフ) Science Investigation
01
「採取した嘔吐物の検査結果は出たのか、フレッチャー?」
未だ事件の余韻残る犯行現場に佇みながら、男は傍らの部下より「いいえ。ラボからは何も」と、返答を受けた。彼こそ、マンチェスター赤悪魔署構内の「2列目中央」に位置する科学捜査班、
『CSI(センターハーフ・サイエンス・インベスティゲーション)』の主任、ポール・スコールズ警部補(声:石塚運昇)。激しく悪を憎む余り、時には違法行為も厭わぬ捜査手法で、FA規律委員会に幾度と無く睨まれながらも、しかし数多くの無法者たちを鉄格子の中に送ってきた敏腕捜査官である。
「容疑者を署で絞り上げて、自供させましょうか?」
信頼厚い部下のフレッチャー捜査官が耳の横で訊ねた。だが、ポール主任は答えた。傷つき易い瞳をレイバンで隠しながら──
「必要ない。この現場が語ってくれる」
……2時間前。
ボスより下された出動命令により、刑事たちの姿は、欧州随一の繁華街と呼ばれる
「プレミアシップ・ビッグ4商店街」の一角にあった。カルト教団ベニテス教信者たちの経営するスペイン雑貨の店『リーガプール』が、業績悪化により立ち退いた空き店舗。だが、そこには
コンビニエンスストア『ホットスパー・トッテナム』という真新しい看板が。
「お前か、ハリー・レドナップ。商売を拡げるつもりの様だな」
「これはこれは、ポール警部補──それに、お仲間の刑事さんたちも」
「先週は、逃亡犯のチェルスキーを足止めしてくれたそうだな。感謝状は届いたか」
「いえ、礼には及びません。御覧の通り、おかげ様で我々もいよいよビッグ4商店街に名を連ねる事になりましたよ。ははは──」
だが、そんな強気を装う店長に、ポール主任は言った。
「こっちもいいこと教えてやろう。お前は終わりだ。失せろ、蛆虫」
折角リーガプール駆除で街が「浄化」されたというのに、また目障りな奴らを蔓延らせる訳にはいかない──それが赤悪魔署の司法判断だった。そもそもこのプレミアの街には、我々「ビッグ1」だけで充分なのだ。
無論、それで引き下がる様なスパーズたちでは無かった。レドナップ店長の呼び出しに、奥から現れたアルバイト店員たち。それを見て、ポール主任は言った。
「抵抗されちゃ、こうするしかない。お 仕 置 き だ」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
02
強制捜査が始まった。店内に突入する赤悪魔署──ポール主任率いるCSI捜査官たちの前列には、警察用語で「アタッカー」と呼ばれる、即ち「第一線クラス」の
殺人課刑事たち。また背後には「ディフェンス」と呼ばれる、
生活安全課刑事たち。
「私を敵にしない方が良い。お前のサッカー人生を滅茶苦茶にしてやってもいいんだぞ」
そんなポール主任の圧力に怯え、幾度もボールを明け渡す容疑者たち。しかし、捜査は思うように捗らなかった。
「ところで、ルーニー刑事の姿が見えないが──」と、非番の刑事長ギャリーに代わって指揮を執る胸毛警部に訊ねるポール主任。この日、捜査の最前線に立っていたのは、その英国最優秀捜査官ではなく、アンディ・ガルシア刑事だった。
かつて
「一日警察署長」としてハリウッドより招かれて以来、この赤悪魔署物語にて助演俳優を勤めて来たガルシア刑事。不慣れな主演への配置転換に奮闘を見せるも、しかし彼はゴールハンターでは無い──ラブハンター、愛の狩人である。加えて今日は、裏番組の
フジTV土曜プレミアム『オーシャンズ13』と掛け持ちで出演中。言わば、プレミアのダブルブッキングだ。ルーニー刑事は一体何処へ──しかし、その行方は、意外な所からもたらされた。
「イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
ザ・フーの着信音と共に届いたEメール、送信主は署の映像分析室に待機していたギブソン捜査官。「チーフ──この映像を見て下さい」というメッセージと共に、そこに添付されていたのは、現在生放送中のサッカー中継にインサートされ、全国に流されたという映像だった。ポール主任は言った。
「これは誘拐……監禁だ」
そこには、防弾ガラス張りの部屋に閉じ込められた、ルーニー刑事一家の姿が。
「ハリー・レドナップ。お前は、私を怒らせた」
「違う、我々じゃない! こんな大胆な犯行声明を流すなんて、我々の流儀では──」
「残念だが、お前のことなど信じない」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
03
捜査は後半半ばを迎えていた。スコアは1対0。だが、その殊勲のPKを奪取した生活安全課刑事エヴラの姿は、既に現場には無かった。赤悪魔署を襲った第二の事件。ポール主任率いるCSIチームは、殉職者のダイイングメッセージである、芝に残された嘔吐痕を調べていた。
「アーモンド臭……」
そう主任が呟くと、
「チーフ、もしかして青酸カリでは?」と、途中から現場に投入されたキャリック捜査官が。だが主任は「慌てるな。ホットスパー店内の全ての弁当を調べるんだ。
DNAは嘘をつかない」と指示した後、スパーズベンチを視線に捉えて言った。
「またやりましたね、ハリー・レドナップ。この国の騎士道は滅びた……」
「待ってくれ! これも、ルーニーの誘拐も、我々の仕組んだ事では無い」
「だが、私は心が読める。言葉と裏腹に、お前の心は笑っている」
「そりゃまあ、これで同点逆転の芽が出てきた訳ですから──」
そんな店主の言葉を遮って、ポール主任は言った。
「お前は人の死を楽しんだ。今度は自分の死を楽しむことだな」
だが、これで捜査の歯車が狂ったのは確かだった。スパーズの用心棒、レドリー・キング容疑者の一撃が、赤悪魔署のネットに突き刺さる。同点……しかし、その大男にポール主任は言った。
「私にとって、キングは一人だ。お前じゃない」
やがて捜査現場に、ラボから同点弾の弾道分析結果が届いた。原因はすぐに判明した。電話連絡を受けた主任は、双子刑事訓練生に言った。
「ニュース速報だ。お前は交替だ」
「は……はい」
「覚えとけ。人生に失望はつきものなんだよ」
「……次回こそ、頑張ります」
「状況がわかってないようだな。お前は刑務所行きだ」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
04
「燃えろ、全部燃えちまえ!」
捜査開始から90分後、闘いは終わっていた。開店間近だったコンビニ『ホットスパー・トッテナム店』は炎上し、彼らのCL圏内確定の目論見は、灰に帰した。
「キャリック、検死官に連絡しておけ。大きな解剖台を用意しておけとな」
刑事たちの足下には、焼け跡から搬出された遺体──途中からバイトシフトに組まれたクラウチ容疑者の亡骸が横たわっていた。
「キスはしないよ。ギグシー」
主任は、この日冷静に2点を決めた盟友に言った。彼の前に、手錠をかけられてCL圏外へと護送される、ハリー・レドナップ容疑者が運ばれてきた。
「俺たちは何もやっていない! このビッグ4商店街に出店したのも、より巨大な欧州市場進出への、足掛りが欲しかっただけだ!」
だが、ポール主任は言った。
「お前たちも欧州の舞台に行けるさ──但し、一つ下のカテゴリーにな」
そして最期に、こう言った。
「さ・よ・な・ら、名将ハリー・レドナップ。輝かしい経歴に『10 - 11シーズン、ヨーロッパリーグ出場』と付け足すがいい」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
05
犯人確保──だが、ポール主任の気掛かりは別にあった。未だ掴めぬルーニー一家の行方、そして二人目の毒物の犠牲者となり、病院へと搬送されたナニ刑事。すると、
「ナニから検出された毒物は、エヴラのものと同一でしたよ」
その声に振り向く、CSIメンバーたち。彼らは見た、そこにもう一人のメンバーの姿を。駆け寄るメンバーたち。そして直属上司であるポール主任の言葉が、彼を迎える。
「お か え り、オーウェン・ハーグリーブス──いや、ハグレ刑事」
「すいません。随分とハグレっぱなしで、ご迷惑をおかけしました」
「で、撃たれた両膝は、もう大丈夫なのかな?」
帰還を果たしたハグレ刑事。だが、未だ彼はベンチの椅子に。その姿に、CSIメンバーたちは以前、彼の静養先であった
アルムの森のお爺さんが教えてくれた事を思い出した。曰く「医学的には、もう足は治ったはずなんじゃが……」。そして彼らは、叫んだ。
「ハグレのばか!」「意気地なし!」「給料泥棒!」
だが、その時だった。奇跡が起こった。仲間たちの声に負けまいと、懸命にその両足で立ちあがるハグレ刑事──
「ハグレが立った、ハグレが立ったわ! わーい!」
そんな、粗雑な
『アルプスの少女コント』を眺めながら、ポール主任は思った。
「これでセンターハーフ──CSI、全員揃ったな」
彼らは、ブラジルから派遣されていたCSIメンバー、故障中のアンデルソン刑事の事などすっかり忘れ、再会を祝した。
「ところでチーフ。ホットスパー店内の弁当からは、毒物は検出されませんでした。ルーニーの行方に繋がりそうな手掛りも……。もしかして、誤認逮捕だったのでは?」
だが、ポール主任は悪びれもせず、答えた。
「昔も今も、これからも──決して変わらないものがある。善と悪、その違いは変わらない。ハグレ刑事、我々に歯向かったスパーズはどっちだ?」
「悪です」
「そう俺は悪を始末する。それが俺の仕事だ」
「でも、真犯人は──?」
「もう、目星はついている。我々CSIは決して……そう、決してあきらめない」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
Epilogue
「おやおや、今日はお休みでしたか──ジョン・テリーさん」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
ロンドン郊外の大邸宅の庭。前触れ無く現れた赤毛の男に、家主テリーは声を失った。
「おっと失敬、また乱暴なタックルで出場停止中でしたね」
「お前に言われたくない、ポール・スコールズ……」
「それにしても、よく手入れが行き届いた庭だ。芸術的な庭──さて芸術といえば、君とベネッサ・ペロンセル嬢のロマンスも、名作といってもいい出来栄えだ」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
「お、大きな声を出すな、折角修復した嫁との関係が──」
「思い知ったかね。真実とは不思議なもので、隠してもいつか必ず明るみに出る。君は親友の恋人ともセクスできるようだが、他には何ができるのか大いに気になるところだ」
「俺が何かしたとでも言うのか?」
「毒──君の飼い主の国では、政敵に毒を盛るのが流行っている様だが?」
「俺がそんなことするか」
「さあ。君は不祥事の総合商社と、もっぱらの噂だ。ところであの現場に漂っていたアーモンド臭、あれは青酸の臭いではなかった。だが、その臭いで私は思い出した。君をだ」
「アーモンドと俺が、どういう繋がりがあるんだ?」
「あの臭いは毒からでは無く、毒の混じった食品からだとしたら、どうだろう。ところで君にプレゼントだ。チェルシーの、そう……『アーモンド味』だ」
「コジツケだろ!」
「毒入り危険、食べたら死ぬで……聞き覚えはないかな?」
「それは『グ◯コ・森◯事件』で、チェルシーは明治製菓だ! 言い掛かりも程々にしてくれ。大方、お前の仲間たちは、腐った飯でも喰って腹を壊したんだろう!」
「おやおや。臭い飯を喰っているのは、君のお父上じゃないかね?」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
「イエーじゃねえよ! 一体さっきから叫んでるのは誰なんだよ! おい、そこまで言うのなら、俺が毒を盛ったという証拠があるんだろうな」
「それは今にわかる。お楽しみに」
「じゃあ帰れ」
「その前にもう一つ、姿を消したルーニー一家。あの犯行は、最近家庭内がギスギスして、幸福な家庭に妬みを持つ者の仕業と見ているが、君には心当たりがありそうだ」
「ねえよ! うちはもう夫婦円満だよ!」
「私が法が破らないうちに、全てを白状してお縄に掛かったらどうだ? さあて、どうする?──すんなりか、じたばたか?」
「お前に、何も言う事は無いね」
「残念だ、お前はチャンスを逃した。それにしてもこれだけの財産、素晴らしい家庭を築きながら、それでも君ら一家はこぞって、麻薬売買や窃盗、不義密通などの違法行為を止めようとしない。そこまでして君らが得ようとしたものは何だ?」
「……スリルさ。ふん、どんなに名誉や財産を得ても、満たされないものがあるんだよ。お前の様な退屈な男には、判らないだろうがな」
「スリル……。お前みたいな蛆虫を、一生ユナイテッドより下の順位にぶちこんでやること、それが俺の究極のスリルだ」
「聞いてねえよ! おいちょっと待て、ポール警部補。俺もお前に訊こうじゃないか。お前をそこまで駆り立てるものは、一体何なんだ? もう現場への情熱も失せて、引退してもいい年齢だろう。赤い悪魔への、ファーガソンへの忠誠心か?」
「さあ、考えた事も無いな。ただ言えるのは、悪党どもが大手を振って街を歩いている姿を想像すると、頭が痒くて、痒くてたまらない──ただ、それだけだ」
「いつもじゃねえか! もう帰ってくれ、俺も次節には復帰するんだ」
「では、最期に言っておこう……俺は決してお前を許さない。お前とチェルシーを必ず、破滅させてやる。これは脅しじゃない、────── 約束だ」
イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
to be continued...
次回、第三十七話『ハグレ刑事、現場復帰スペシャル!』。
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)
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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在する『CSI:マイアミ』とは一切関係ありません。
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