人気ブログランキング | 話題のタグを見る
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
XML | ATOM

skin by なるほ堂

by tototitta
ABOUT CONTACT BLOG LINK
“Van The Man” <其の8>
(記/minaco.)
ようやく最終回です。

08
マンチェスター・ユナイテッドは、ホームで毎試合およそ7万人を集める。そして、その中にはいつもレオンティンがいる。ルートは後半残り20分で出場した。試合は0−0に終わった。
“Van The Man” <其の8>_d0031385_20564317.jpg
    【オールドトラッフォードのトンネルから程近くの席で、レオンティンが観戦しているところ。チャンスが来れば立ち上がり、クリアされると溜息をついてまた座る。周りのユナイテッドファンと同じように。
    試合が終わり、選手達がトンネルを引き揚げて行く。彼女は黙ってそれを見つめている。
    試合後、選手駐車場には大勢のファンが待ち構えている。いつものようにルートは彼らにサインし、自分の車へ向かう。】
“Van The Man” <其の8>_d0031385_20572811.jpg

◆          ◆
0−0。スコアレスドロー。タイトルは不可能。そして、物事が悪くなった時の事に思いを巡らす。ファーガソンは彼の最高のストライカーをカーリングカップ決勝のベンチに追いやり、プレイさせなかった。
    【帰途に就く車の中。ルートは夜のマンチェスター市街を運転しながら、インタビュウに答える。】
“Van The Man” <其の8>_d0031385_20581156.jpg

「あれは本当に傷ついた」

── 君は説明を求めなかったの?
「うん。何をしたって気持ちは晴れないさ。起きた事が事実で、それが現実。その後…何を訊けっていうんだ。答えは……もう、済んだ事だよ」

──元には戻せないのかい?
「(首を振って)…ああ」

── 来年もマンチェスターでプレイする?
「答えるのは無理だよ。俺はいつだってここに戻りたいさ。何も問題がなけりゃ。
俺のファンやクラブへの気持ちを変えるものなんかない。永遠にそんなものはない。
永遠にね。どうやっても
“Van The Man” <其の8>_d0031385_2101498.jpg
    【前を見つめ言葉に詰まりながら、唇を噛む。オレンジ色の街灯のせいか、涙目なのか、目が赤い。
    車は住宅街にある自宅に到着。カメラは中まで入らない。煉瓦造りで英国風2階建ての家は、暗く静まり返っている。車から荷物を降ろし、ルートは玄関を開ける。】
「ただいま」
“Van The Man” <其の8>_d0031385_211295.jpg

◆          ◆

ファーガソンが事態を悪化させた。プレミアリーグ最終戦の直前、彼はルートに荷物をまとめろと言った。もはや、ベンチにさえ彼の居場所はなかった。その瞬間ストライカーは混乱し、激怒した。
彼はどんなプレスとも接触を避けた。話す事が全部間違って取られた。
2週間後、スイスでのトレーニング・キャンプでルートは少しだけ話してくれた。

    【オランニェの練習場にて。ルートが答える。】
「俺はクラブでベストシーズンの一つを過ごしてたんだ」

── でも、ファーガソンによって追い出された。それとも、君が出て行ったの?
「彼に“出て行け”って言われた」

── その時の君の立場を我々はどう書けばいい?
「あの時、俺は1人ぼっちだって気がしたよ」
マンチェスターに戻っても、何ともならないようである。彼は他のチームでプレイしようとしている。誰もが今、ストライカーの後を追いかける。
「ああ、有り得る。それは有り得るな」

── この5年間の終わり方としては、相応しくない結末だ。
「これが俺を強くさせるんだ。選手としても、人間としてもね」

ルートの将来はイングランドにはない。しかし、すべては不確かだ。彼自身にさえも。彼はそれについて考えたくない。ワールドカップが終わるまで。
キャリアのクライマックスであるワールドカップが終わるまでは。
“Van The Man” <其の8>_d0031385_2142160.jpg

〜完〜


─────────────────────────────

【付記】

未だに、当時の事をワタシはよく憶えています。

ユナイテッドでの最終シーズン(2005-06)、ルートはリーグで21点を挙げ2度目の得点王も狙えたけれど、チームはチェルシーに大差を付けられてタイトルを逃しました。

フレッチはキーンに公然と叱責され、ロンは悩みの種で、フィルがそれを叱咤し、ギグスはCHをこなし、ルーたんはしばしば退場し、リオは時々ポカをやり、スミシーが大怪我を負い、ブラウンは相変わらずで、ポールさんは目の病気で離脱し、オーレは長いリハビリに耐え、キーンが突然退団し、ギャリーが新主将となり、グレイザー一家がクラブを買収した後ファンは懐疑心に揺れ、ファーギーは批判され、おシェイはおシェイでした。そして、ジョージ・ベストがこの世を去りました。

何もかも激動した時代の変わり目であり、我々にとって近年で最も辛い時期でした。信仰を試されたかもしれない。けれど、そんな中でもユナイテッドがホームのチェルシー戦でファンのプライドを満たした最高の勝利は、モスクワでのCL決勝以上に忘れられません。

そのゴールを挙げたのは、フレッチ。
その時、キャプテンバンドを巻いたのがルートでした。

すべて終わってしまった事。そもそもルートが初めての殉職ではないし、最後でもない。だけど、このドキュメンタリーは、その後ずっとワタシの心の支えになりました。

事実において、ルートの5年間がユナイテッドファンにどれ程の価値があるのか解らない。ただ、彼がクラブの歴史を悉く勉強し、チームのデータをすべて憶え、ファーギーに手紙を書き、どん底の時期に5試合キャプテンバンドを任されファンに誠意を示し、キーノの引退試合に立ち合わせてもらえず酷く悔やんだ事。数字や記録には一切残らないけど、それこそがワタシにとっての真実なのです。

ああ、今更未練がましくてすみません。
こんな真夏に暑苦しくてすみません。
長々と痛くてすみません。
でもお盆だし、ユナイテッドの新シーズンが始まる前に、オールドトラッフォードを彷徨う殉職馬の魂を供養しておこうと思って…(嘘)
by tototitta | 2010-08-20 21:05 | Ruud van Nistelrooy | ▲ TOP
LINKS
・ Mercedes's Diary
・ おかず横町
・ デジカメのいろいろ
・ 今さらながらの○○修行
・ 春巻雑記帳
・ 塔とゆりかご

映画
・ NAWOWOW
  NAWOKO KAWAMURA'S PORTFOLIO

 Football
 ・ CALCIO馬鹿のたわ言。
 ・ 【別館】Black Swan of Ukraine
 ・ ファーポコ
 ・ A.C.MILANを斜め読み

 鹿島アントラーズ
 ・ オフィシャルサイト
 ・ Red-Deer's Diary
 ・ My Soccer Diary
 ・ やわらかな風に包まれて
 ・ はいっ、おばさんは遠隔地鹿島サポです!

 レノヴェンスオガサFC
 ・ オフィシャルサイト


OTHER ROOMS
WEBSITE SPIN-OFF

・ ABOUT US
・ CONTACT