(記/minaco.)
事件だ。
その日オールドトラッフォード所轄管内にて、身の毛もよだつほど恐ろしい同点事件が起きたのである。早速事件現場の検証を始めたのは、CSI:マンチェスターのラボに所属する若手達だった。
交通事故のトラウマを抱える、アンデルソン捜査官。
かつての魔法使いキャリーこと、マイケル・キャリック捜査官。
そして急遽駆り出された若き野心家、ダレン・ギブソン捜査官。
お馴染み
「悪は絶対許さない、球際のエキスパート」ことフレッチ捜査官はあいにく欠勤だが、やがて
「マンチェスターの太陽よりどんよりした男」ことポール主任も現場に現れた。若手がせっせと物証を集める中、悠々と重役出勤するのがホレイショ…の常である。
ゆっくりと立ち入り禁止のテープを潜り、凄惨な事件の痕が残る現場に足を踏み入れるポール主任。辺りを見渡し、勿体ぶるようにサングラスを外すと一言。
「何か解ったか…」
「ガイシャは2名です。1人は小柄なフランス人のパトリス・エヴラ。もう1人は長身のオランダ人、ファン・デル・サールです。短時間でこれほどの犯行が出来るとは、ホシは単独犯じゃないでしょうね」
ギブソン捜査官の説明を聞くと、ポール主任はまた勿体ぶるようにサングラスを掛けた。
「犯行当時お前は何をしてた…?」
「え、勿論僕はオールドトラッフォードを巡回してましたよ。それが何か?」
「お前はミドルシュートが出来るようだな、ギブソン。
他 に は 何 が で き る の か 大 い に 気 に な る と こ ろ だ …」
そう言って、ポール主任は「ミドルしか能が無い」ギブソン捜査官を尋問した。ラボの同僚にまで執拗な追及を怠らない、それが今回の捜査の鍵を握っていたのである。
クールビューティな検死官、通称リオ姐さんはガイシャの遺体を調べていた。
「見て、エヴラのこの足にボールの痕跡があるわ。自らゴールを入れたのよ…きっと自殺ね」
そこへポール主任。
「…待て。このエヴラという男、顔を良く観察してみるんだ」
「あら、ホントだ。良く見ると満男にそっくり」
「そう…こいつは自殺点なんか与える男じゃない。鹿島でキャプテンとして湘南相手に戦っていたんだからな」
「ああ、そうだわ。鹿島も同じ週に同じようにリードしてたのを同じように追いつかれたのよね」
「…覚えとけ。
人生 に 失 望 は つ き も の な ん だ よ 」
鹿島とユナイテッドに何の関連があるのか不明だが、ポール主任は赤毛を一層赤くして断言した。
「ファン・デル・サールについて何か解ったか…」
相変わらず雑務はすべて若手に任せきりなホレイショ…ポール主任は、下働きするキャリック捜査官に尋ねた。
「はい。もうすぐ40歳、経験豊富なGKです。まさかガイシャがこのような事件に巻き込まれるとは、誰も思ってなかったそうです。しかし、事件当日は日差しが強く、日陰に移動した後も紫外線の影響が残っていたのではないかと」
「それで、ポロリか…」
「関係者のヴィダにも当たりましたが、こんな事は初めてだそうで、とても信じられないと」
「お前はどこにいたんだ、キャリック…」
「僕ですか?中盤辺りで縦パスを使って応戦しました」
「その中盤が不甲斐無い守備をしてるからじゃないのか…」
ポール主任はサングラス越しに一瞥した。
「
サールも木から落ちる…。だが、これは犯罪だ。つまりお前は必死で守るGKを見捨てたわけだな。
騎 士 道 は 滅 び た …」
ポール主任が頭を掻きながらそう吐き捨てると、キャリック捜査官はうな垂れる他なかった。
ポール主任は事件の目撃者、重要参考人を1人ずつ取り調べる事にした。ベルバことアンディ・ガルシアは泣きそうな顔で訴える。
「決めるべき時に決められませんでした」
「ベルバ…1つだけ言いたいことがある。
もうこれからあなたは演技する必要はない」
「ゴールはしたけど、後半は消えました」
「ニャニ…
懺悔の準備をしろ」
「ハムストリングを痛めてしまいました」
「ギグシー…
悪魔の邪魔をしたのは、神だ」
「自分の仕事はしたつもりですが、コイントスで混乱を招きました」
「ヴィダ…肝に銘じておけ、
リオを傷つけたらお前を殺してやる」
「途中から参戦したけど、心の怪我がまだ治りません」
「ルーニー…
抜 け ろ 、全 部 抜 け ち ま え ! 」
残酷すぎるポール主任のタックル(言い掛かり)である。だが彼らは容疑者ではない。じゃあ怪しいのはアリバイのないワンダーか?いや、ワンダーはただ呼ばれなかっただけだ。そう、真犯人は他にいた。オールドトラッフォード管内へ侵入し、2点差にも怯まず、2名を殺害し貴重な勝ち点1を奪い去ったウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンという組織。
ポール主任はマンチェスターの西日を背に受けて、勿体ぶるかのようにまたサングラスを掛けた。思えば、昨年から追い続けるロシアンマフィアの尻尾を捕まえようという時に、この有様。タブロイドが我らの失態を嘲るのはもう許せない、と誰もが憤った。だが、ポール主任はサングラスの奥のつぶらな瞳を輝かせて不敵に呟くのであった。
「待ってろよ、これから面白くなる」
「我々CSI:マンチェスターは決して…
そう、決 し て あ き ら め な い 」
Yeah-----------------------!!!!!!
─────────────────────────────
如何にしょっぱい試合だろうが、そうゆう時こそ妄想力の発揮しどころ。
こんな時こそ現実逃避を…。