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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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skin by なるほ堂

by tototitta
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20 years later…
(記/minaco.)


2031年5月。

ウェンブリー・スタジアムで20年振りに開催されるチャンピオンズリーグ決勝は、初のマンチェスター・ダービーとなった。一方は勿論ユナイテッドだが、もう一方はシティではなく、オールダム・アスレティックAFC。10年前プレミアリーグへ昇格して以来、ビッグクラブを脅かす存在として着実に成長を遂げたオールダムは、ユナイテッドにとっても決して容易い相手ではない。何しろチームを率いるのは元赤悪魔の伝説、赤毛ことポール・スコールズ監督である。

その日、ユナイテッドのロッカールームへひょっこり現れた赤毛が、未だ現役のまま出場を控えるサー・ライアン・ギグスに迎えられた。相変わらず言葉少なな赤毛と今や胸毛少ななサー・ライアンは、ちょっとしたジョークに笑いながら、オールドトラッフォードでの幸福な日々に思いを馳せる。
「あの時まだやれたのに、いくら説得してもお前はちっとも聞きやしなかった」
サー・ライアンがからかうと、赤毛はふてぶてしく切り返した。
「お前こそ、あのシーズンオフにゃ色々揉めて大変だったろう」
「それを言うな。やっとほとぼりが醒めたってのに」
サー・ライアンは、昔も今も女性たちからハンサム・デヴィルと呼ばれている。


20年前、ギャリー・ネヴィルの功労記念試合で再結成した雛鳥たち。ニッキー・バットは香港で現役を退いた後、代表監督としてアジア各国を指導していた。フィル・ネヴィルはマンチェスターの再開発に関わり、不動産で築いた巨万の富でオールドトラッフォードの拡張工事を進めていた。サー・ディヴィッド・ベッカムは衰えぬ美貌のままアルマーニのシニア向けモデルを務めながら、会長としてユナイテッドを毎試合観戦に訪れていた。ハリウッドからのオファーを待ち続ける妻ヴィクトリアとは、今も円満だという。ポール・スコールズはチーム全員を赤毛で固めたオールダムを成功に導きつつ、相変わらずメディアを避け、全英赤毛連盟からのサーの授与も頑なに固辞し続けていた。そして、ギャリー・ネヴィルはファーギーの後任に就任し早15年。先頃、著書『A Will to Win: The Manager's Diary ~新・監督の日記』を出版したばかりであった。

その名匠ギャリー・ネヴィルが、ロッカールームの扉を開ける。かつてのヘアドライヤーに代わり、今ではギャズ監督の延々と続くクドい説教がユナイテッド選手たちを震え上がらせていた。ひっそりと部屋の隅に佇む赤毛の姿に気付くと、ギャリーは一目散に駆け寄った。きっと若い選手たちは、以前この2人が公衆の面前で熱い接吻を交わした事件など知る由もないだろう。変わらず暑苦しいハグをしてくるギャリーに、赤毛は少々困った顔で応えた。

「どうだい、ギグシーの調子は」
「先週もシーズン連続得点記録を更新したのを知っとるだろう」
「まあ、俺様の切れ味が鈍らないのはヨガのおかげでな。ほら、新しいDVDだ」
サー・ライアンは絶賛発売中の「あなたも20歳若返る!秘密のヨガ・パワー」を赤毛に薦めた。だが赤毛には、ヨガよりも日曜の特売スーパーとミートパイの方が魅力的だった。

「今日はロイも来ると聞いてるが…」
「ああ。ロイのセルティックは準々決勝でうちに敗退したがな。監督が犬を嗾けて退場になっちゃ仕方あるめえ」
3人は大声で笑った。実は赤毛も何度かベンチ入り停止処分を受けた事があったが、それが在りし日のサー・アレックスの面影と重ねられたものだった。赤悪魔魂はすべての赤悪魔者に受け継がれている。

その時、一際長身のGKが歩み寄って赤毛に握手を求めてきた。ジョー・ファン・デル・サール。彼が父の後を継ぐまで、ユナイテッドは再び苦難のGK暗黒時代と呼ばれていた。
「久しぶりだな。親父さんは元気か?」
「父はオランダの田舎で趣味の乗馬をしてましてね、今ではすっかり悠々自適ですよ。ところで、我がチームの18番を知ってますか?貴方の再来と言われてるんです」

ふと見ると、人参色の頭を恥ずかしそうに掻く小さな選手がそこに居た。これまで幾多の若者が第2の赤毛を目指し、そしてその偉大さに及ばぬまま終わっただろうか。ボール扱いの巧い選手や強烈なミドルを放つ選手はいくらでも居た。だが、赤毛の赤毛たる所以は技術ばかりではなく、ましてや赤毛ばかりでもない。他の雛鳥と同様、赤い生きものとしか形容し難い野生の衝動を持つ選手はどこを探しても見つからなかった。その度、往年の赤悪魔ファンは“赤毛の前に赤毛なし、赤毛の後に赤毛なし”と言い聞かせたものである。
「おいおい、まさか赤毛のタックルまで真似するなよ。それだけは勘弁してくれ!」
ギャズ監督に釘を刺され、また頭を掻く18番はどことなく若き日の赤毛の姿を思わせた。

「じゃあ、試合後に会おう。どっちが勝っても恨みっこ無しだ」
「負けた方が奢る約束だぞ。忘れるな」
こうして、試合前の和やかな時間は終わりを告げた。

サー・ライアンは今宵も左サイドで奴らを切り裂くだろう。ギャズ監督はベンチでマッチデイ・プログラムにサインをせがまれ、赤毛監督はジャージ姿で物言わずオールダムの赤毛選手を動かすだろう。そしてそれが終われば一目散に家に帰るだろう。ウェンブリーでは俳優、モデル、タトゥアーティストである3人の息子を連れたベックスが見守るだろう。遠い場所から、かつての雛鳥たちや元赤悪魔たちがTVに釘付けとなるだろう。どこかのパブでは、馬主仲間のワンダー氏が競馬新聞とビール片手にチャントを歌うだろう。VIP席では植毛を無事終えた頭に毛皮の帽子を載せたウェイン・ルーニー氏が、キャプテンバンドを巻くカイ・ウェインに声援を送るだろう。

記憶の彼方から、古き善き時代が甦る。20年前と変わったのは彼らなのか、それともフットボールなのか。集まったファンたちは、夢の対戦にそれぞれのロマンティックな郷愁を重ねるのだろうか。

やがて、ピッチでは大舞台に華を添えるリオ姐さま社中のライヴ・パフォーマンスが始まろうとしている。トンネルで待つ2人の監督は、それぞれの選手たちに向かい、大きく手を叩いた。
「カモン、ラッズ!」

~to be 2041…
by tototitta | 2011-06-13 01:00 | Manchester United | ▲ TOP
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