(記&絵/minaco.)
ナイキのCMでもすっかりお馴染みですが、引退後のカントナはビーチフットボールの普及にいそしみつつ、俳優業に精を出してました。
選手として以外は興味なし、というファンもいるでしょうが、当然私は、日本公開された出演映画を全部劇場で観ました。何故なら、カントナは何をやっても同じカントナだからです。
今回はそんな俳優・カントナを振り返ってみようと思います。
初出演は現役中の'95年、エティエンヌ・シャテリエーズ監督の
『しあわせはどこに』。
疲れたオッサンがTVの人探し番組で人違いされたまま、他人に成り代わって南仏の田舎へ移り住み、新たな人生を発見するお話。ハートウォーミング路線かと思いきや、妙に毒が効いてるところがさすがフランス映画。
カントナは、主人公が住み着いた家の長女の恋人役。フットボールじゃなくてどうもラグビー選手らしい(「久々の名選手だね!」と言われてる)。プレイするシーンはないものの、言われてみればラグビー選手でも通用しそう。
名優ミシェル・セローと共演といってもシロウトの域を出ず、サービス程度の演技。それでも国内で大ヒットとの触れ込みは、カントナの話題性もあったかもしれぬ。
ちなみに、弟ジョエル・カントナもまんま弟役で出演。似てます。ジョエルも一応俳優として仕事してるみたいで(モニカ・ベルッチ様の『ミッション・クレオパトラ』とか)、BICのCMでも兄弟共演してる。
次に観たのはいきなりメジャー大作、かのケイト・ブランシェットの出世作
『エリザベス』('98)!
ヴァージン・クイーン誕生秘話を描いたドロドロ歴史絵巻だが、何でも「フランス語訛りの英語」を話せるからキャスティングされたんだとか。しかし、ヴィニー・ジョーンズが当初無口で台詞なしの役柄で売り出し成功したのに比べると、いきなりハードル高すぎ。
コスチューム・プレイだけでもアレなのに、カントナの役柄がエリザベスに縁談を迫るフランス大使とは。ふざけた王子(らっきょ顔のヴァンサン・カッセル)のお供で(腰の低いカントナなんて!)、世界の大物俳優に混じって健気に演技するカントナ様を観るのは、ハラハラして妙に居心地が悪かった。(実はこの映画、続編が製作中とのこと。果たしてカントナの出演は・・・)
俳優カントナとして一番の当たり役だったのが、ジャン・ベッケル監督(父はジャック・ベッケル)の
『クリクリのいた夏』('99)である。
古き良きフランスの原風景を回想したこの映画は、一見子供が主人公のほのぼの映画かと思うが、実は失われたものへのノスタルジーを痛切に訴える、大人の為の映画だった。日本での昭和ブーム映画 『ALWAYS 3丁目の夕日』なんかより、ずっとずっと重い。これはオススメです。
ボクシングのチャンプとして、正にカントナのキング振りが観られるのも嬉しい。白のスーツに葉巻姿、子分を従えて登場し、キレて暴れてタイトルマッチの前に留置所にブチ込まれるという、そのまんまのキャラ。でも根は繊細で寂しがりやさん、本当はイイ奴じゃん、という見せ場もある。おすぎがこの映画でカントナを絶賛してたくらいの好演(ってゆうか地だから)。
これら以外にも本国で何本もの映画に出演したのだけど、残念ながら日本未公開。
初めの頃は色モノ的にチンパンジーと共演した
『Mookie』('98)など、マスイメージに沿ったコメディ中心だった。それが悪徳警官を演じたシリアス作品
『L'Outremangeur』('03)では、ファット・スーツ(撮影用肉襦袢)で役作りした甲斐あって本格俳優並みの好評価を受けるまでに。
そして次回作ではベルッチ様やダニエル・オートゥイユと共演ですよ!公開望ム!(M.セローといい、J.ヴィルレといい、共演者がみんな繋がっている・・・)
更には何と監督にまで手を染めた(フットボールより映画の監督をする方が先だった訳だ)。短編映画 『Apporte-moi ton amour』('02)は、チャールズ・ブコウスキー原作というのが何ともカントナらしい!(
IMDbにも載ってます)
でも、カントナはいつだってカントナ自身を演じるのが一番巧かった。それこそが彼の人生だ。
生まれた時から襟を立て、気に入らない奴はブン殴ってみせ、ポエムをしたため、自分の描いた舞台に立ち、人はそれに喝采を贈った。
カントナはいつでも全身キングで、下々の者の為に尽くすのだった。そのギミックをどこまでも貫いて。
真の愛に対しては決して裏切らず、過剰なまで熱烈に応えようとするカントナ。フットボーラーでいても俳優でいても、それは同じ。実は人一倍神経の細やかな、気配りの人だと思う。
だからこそ、カントナはユナイテッドでの最後を汚さぬよう気遣って、早すぎる引退をしたのじゃないかと。彼は死をもって美しいラブストーリーを永遠のものにしたかったのだ。
「俺様の墓石には、どんな言葉も刻んで欲しくない。まっさらな石のままでいい。俺様という人間をいつまでも大きな謎につつんでおきたいのだ」 (byカントナ)
その繊細さが愛らしい男なのです。