(記/なるほ堂、絵/Minaco)
気弱な僕にとってイライジャ・ウッドは、かの
『シン・シティ』での怪演以来全く苦手であり(トラウマ)、彼の主演作
『僕の大事なコレクション』は録画したまま棚に放っておいたままだった。邦題にも全く惹かれるものが無いし。でも先日、ぎっくり腰の気紛らわしに、横たわり乍ら作品を見た。
初っ端、彼の『シン・シティ』同様の無表情が怖かったが──傑作。いやはや、数少ない
「見ないまま死んだら後悔する映画」の一本だった(ちなみに、最近では
「ライフ・アクアティック」もそういう一本)。
静かに眠る死者たちを表す、ひまわり畑の映像の美しさ。
そして何より映画の構成が素晴らしい。キーワードは
「シャツの表と裏」。
(以下、ネタバレアリだが、未見の方は是非ご覧になって、その上でまた読んで欲しい。)
<物語>
アメリカの「リトルオ・デッサ」に住む、変わり者のユダヤ人青年ジョナサン(イライジャ・ウッド)。彼は、臨終の祖母から一枚の古ぼけた写真を預かる。「トラキムブロド」という街で撮られたその写真には、若き日の祖父と共に「アウグスチーネ」という女性の姿。青年は自身のルーツであるウクライナに赴き、拙い英語の現地ガイド、ウクライナ人青年アレックス(ユージーン・ハッツ)と、その祖父(ボリス・レスキン)の手を借りながら、トラキムブロドとアウグスチーネを探す旅に出る──
といった感じの、まあ一見良くある風な「自分探し」みたいな話なのだが、物語が進むにつれ暴かれていくシャツの裏側(=「もう一つの真実」の暗喩)が、まるで極上の推理小説の頁が一枚一枚捲られていくかのように露になっていく演出には圧倒される。この映画の原題は、原作小説と同じく
『Everything Is Illuminated』(=全ては照らされる)──まさにその通り。原作者(
ジョナサン・サフラン・フォア)、監督(
リーブ・シュライバー)とも、物凄い才能だと思う。
完全ネタバレだが、作中の「シャツの裏表」を列挙すると、
表:ジョナサン青年の部屋の壁一面のコレクションは、一見無意味な収集癖。
↓
裏:リスタ(アウグスチーネの姉)の部屋の遺物の山。それは死に往くもの達が、
自分が存在した事実を遺したもの。
表:ユダヤ嫌いの祖父。戦中に迫害に加担?
↓
裏:過去を捨てた後悔を持つ、実は隠れユダヤ人。
表:アメリカ人青年が自分のルーツを“探す”旅。
↓
裏:ウクライナ人青年が自分のルーツを“知る”旅。
表:ウクライナの工事現場の人たち、いたずら少年、食堂のおばさん。
↓
裏:アメリカの空港の人たち、少年、おばさん(同キャスト!)。
そして最後、
テキストを綴る手の主が明かされた場面には、『ユージュアル・サスペクツ』以来の「ひっくりかえるほど」の驚きだった。
つまり、
・我々の知る事実(悲しいもの、意味の無いもの)にも、必ずその裏側には
「真実」がある。
・我々個々が居る現実には、必ずそれに付随する
「もう一つの現実」がある。
──シャツの裏側として。
良くある「自分探しモノ」の結末は「自分の中に、自分を見つける」という「はいはい〜」な答えだが、今作は内面でも、パラレルワールドでも無い、確実に同じ世界に存在するもう一人の自分の存在を発見するのだ。
見終わった後、僕は「裏側」に居る自分の片割れに手紙を出す。
──やあ、初めまして。いや初めてじゃない。僕は君を、そして君は僕を知っているから。
──君はどうだい? 上手くやっているかい?
──ああ、上手く行かない事も多いけど、ぼちぼちさ。映画は見た?
──うん、僕の国でも見れたよ。だから「裏側」の君に宛ててるんだ。君を「裏」って、拙い
かい?
──僕の方が裏でいいよ。いつも僕はシャツの裏表を間違えるんだ。
──それは僕もさ。
──僕の評、ちょっと理屈っぽかったかな。何も構成が素晴らしいから、映画が素晴らしいと
言っているんじゃないけれど、理屈で表す癖はどうも治らなくて(笑)。
──僕ら、子供の頃によく玩具を分解して「仕組み」を解き明かしたがったじゃないか。実際
には良く分からないんだけどね(笑)。それと一緒だよ。感性を刺激されると、次にはそ
こに発見の喜びを求めたくなる……みたいな。
──そうそう。初めにワクワクする様な玩具、映画があるんだよね。
──ともあれ、こうして思いを分かち合える者の存在を教えてくれた、それがこの映画の一番
だね。
──じゃあ、また手紙を書くよ。何処に居るか知らない、でも必ず僕の「裏側」に居る君に宛
てて。
そんな風なやり取り。
これまでは、こう思っていた。例えば僕の不幸も、誰かにとって「幸福の種」ならば大抵の事は我慢できる。ちょっと
「マイライフ アズ ア ドッグ」的だけど、世界中の不幸が無くなるならば、その分を僕が引き受けても構わない、と。でも、それは自分の不幸を安易に許容してしまう、言わば不幸に立ち向かわない自分への誤摩化しだ。
だが、僕は人工衛星に乗ったライカ犬の替わりに、僕の現実を照らす対象を見つけた。
それは親友以上の存在、現実に何処かに居るはずのもう一人の自分。これからは彼とちょくちょく話し合い、励ましあいながら、もっと上手く人生をやるコツを掴んでいこうと思う。彼が僕を導いてくれる、彼は僕の弱さもズルさも全て判っている、何せ彼は僕自身なのだから。
* * * * * * * * * * * * * * * 最後に、原作本へのロンドン・タイムズの書評があまりに素晴らしかったので紹介しておく。
“この小説の評判は無視しなくてはならない。やれ、『エブリシング イズ イルミネイテッド』は天才の作品だの、著者は24歳にして文豪となる資格を得ただの、これは新種の小説だの、この作品は時代を変えただの。そんな話は信じられるものではなく、読む気をなくすのが普通だろう。そうなったら災難だ。なぜならどれも本当のことだから。”