(記/なるほ堂)
▼「勝利のカッパ」も登場
遠野応援席に存在感たっぷりの「あいつ」が帰ってきた。スタンドで一言も話さないのが伝統というカッパの「カリンちゃん」だ。遠野高生も
「池で捕獲してつれてきた」
「太平洋を泳いで駆けつけたのではないか」
と詳細は知らない様子。昨年11月の県大会決勝以来の登場だが、水野梓真君(2年)は「今日のカッパはいつもより動きがいい。心強い応援要員だ」と歓迎する──
【2008年1月3日付け『岩手日報』紙面より】(赤字/なるほ堂)
上は、緒戦に勝利した時の地元紙記事。恐らく河童を
「実在するもの」という前提で書く新聞は東京スポーツと岩手日報くらいだろう。勿論僕もその存在、信じて疑わない。例えかつてこれと同じ外見の物の中に自分が……うわ何をqあwせdrftgyふじこlp。
失礼。では、今日の試合。
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1月5日(土) 第87回全国高校サッカー選手権 準々決勝
遠野高校 0 - 2 高川学園
前半30分 村上(高川) 後半23分 金城(高川)
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●河童、故郷へ帰る──
河童のカリンちゃんの帰る場所が、池なのか太平洋の向こうかは判らないが、遠野高校イレブンは今日、故郷の岩手・遠野への帰路についた。3年連続の国立はならなかったが、岩手県勢としては
「4年連続の8強」という立派な結果を残して。
サイドを簡単に割られ、何度も決定的なピンチを迎える──それはいつもの事。正直、遠野のサッカーにはこの舞台に立つチームとして足りないものが沢山あるが、しかしそれを埋めるものもちゃんとある。だが、この日ピッチ上にあった「差」は、それでは埋まらなかった。
高川学園は「ポゼッションサッカー」を唱えるだけあって、選手のボールの持ち方が実に「安定」していた。それが遠野側に「いつもなら中盤で奪えるボールが、奪えない」という戸惑いを生んでいた様にも見えた。奪いに行ってはかわされ、その度に攻守全体が不安定な状態に陥った。また、これは遠野のいつもの弱点なのだが、ファールトラブル(累積警告)で重要な選手を欠き、それで守備ブロックが崩れてしまう現象が一昨年に引き続き繰り返された。売りである「激しい当たり」故に仕方ないかもしれないが、そこはやはり今後「全国で最後まで勝ち残るチーム」になる為には埋めなくてはならぬ点だろう。
●「勝者は常に諦めない」──
それは毎試合、遠野高校控え室のホワイトボードに書かれる言葉。高川高校の監督にも「遠野の方が走りで勝っていた」という言葉を頂き、その姿勢は最後まで貫いたと思う。けれど、今彼らが置かれているのは「諦めなかったのに、敗れた」という現実……。
だが、「勝者は常に諦めない」──それはこの1試合の為の言葉ではない。確かに今日は敗者、しかしそれは負けた今こそ心に刻む言葉だろう。そうやって、もっと強くなっていけばいい。
そう思う反面、やはり僕は盛岡人。県央の民として県南のライバルが今、次に繋がる「教訓」を得たことに怖れもある。全国の皆さんはテレビで岩手の冬の風物詩「わんこそば大会」の映像をご覧になった事もあるだろうが、実はあれは県央と県南で、別々に年一度開催されている。
「全日本わんこそば選手権」(県央/盛岡市開催)
「わんこそば全日本大会」(県南/遠野市に隣接する花巻市開催)
共に「全日本」を冠し、共にルーツを譲らない。その思いは、「サッカーが強いのはどっち?」という問いに於いても一緒だ。県代表としての遠野高校は勿論応援するが、こうしてリセットされた以上、僕は盛岡商業高校の勝利こそを祈る。
何より警戒は、今回敗れた遠野高校には1、2年生が多い事。
MF吉田吏玖選手とFW川原峻選手は共に1年生ながら、発揮したその能力の高さには驚いた。また、再三堅守を見せたGK植松健太郎選手と、この日出場停止によりスタンドから悔しい思いで敗戦を見つめた浦田祐輔選手も未だ2年生。共に来年、盛商の前に大きく立ちはだかるだろう。
更に、その向こうにはもっと強力なライバルたちが居る。今回遠野高校が対戦したチームのレベルは、皆一様に高かった。昨年の盛商のサッカーではもう全国では通用しない。無名校も含め、高校サッカーはどんどん成長している。時が立つのは速い。だけじゃないテイジンのカトリーヌも一年見ぬ間に随分と大きくなった。だが、我々は信じてる。我々がまだ貪欲に夢を抱いている以上、夢は叶うはずだ。
●「全国大会へ出て、優勝旗を全員で返しにいこう」──
その言葉で始まった今年度の盛岡商業高校の戦いは県予選決勝で終わった。開会式での前年度優勝校による優勝旗返還。3人だけの寂し気な赤白ジャージに涙が滲んだ。その後、主将としての最後の役割を立派に果たした諸橋遼亮選手はこう言った。
「優勝旗を返して、これで終わったんだなと実感した」
その傍ら、林勇介選手は悔しさを滲ませて言った。
「国立は戦う人が来る所で、試合に出られない自分たちが来る場所ではない」
そして──
その姿を見送ると、齋藤重信先生はすぐに1、2年生の待つ関東の合宿地へ飛び、いつもの表情でこう仰った。
「負けた後こそ、鍛えがいがあるってもんだろう?」
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また始まる、彼らの新しい戦いを見守っていこうと思う。
とりあえず今日、ようやく僕の「2007サッカーカレンダー」は終わった。