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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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『(500)日のサマー』におけるThe Smithsと『卒業』
(記&画/minaco.)

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The Smithsを愛聴するアメリカ人とは、きっと相当に根暗な少数派に違いない。もしティーンエイジャーの部屋にThe SmithsやThe Cureのポスターが貼られてるのを親が見たら、ウチの子が遂に道を踏み外したかと危ぶむだろう。

当時、花束を振り回しクネクネと身を捩りヨーデルを歌ったモリッシー。その歌詞は「君と10tトラックに轢かれて死ねたら最高〜♪」とか、「仕事なんかないよ〜♪」とか、「アンハッピーバースデイ〜♪」とか、「女王は死んだ〜♪」とか、およそ引きこもりの惨めったらしい恨み節。良い子はこんなバンドに思春期を捧げちゃいかん。


『(500)日のサマー』('09)の主人公トム君は、少年時代にThe SmithsやJoy Divisionの洗礼を受けてしまった哀れな優男。運命の女性サマーとの馴れ初めも、名曲『There is a light that never goes out』。こんな設定を堂々持って来るとは、何て痛いボーイ・ミーツ・ガールの物語よ。

どこが面白いと訊かれても、ツボを突くネタやギミックが盛り沢山すぎて困る。ランダムな(500)日、ミュージカル、ブルーのグラデーション、ベルイマンごっこにも笑った。いや、そもそもThe Smithsを愛しJoy DivisionのTシャツを着る男をワタシが他人事と思えようか!更にBelle & Sebastianまで出てくるんだから、そりゃもう勝手に歌い、ずっとニヤニヤしっ放し。

ところがThe Smithsで意気投合した2人とはいえ、実際その依存度はかなり違うんだ。即ち愛に飢えた男と、愛に満たされない女のギャップ。そこでもう一つ、重要な鍵となるのがニューシネマ時代の名作『卒業』('67)だった。トム君は「過剰に素直に受け取って」しまうけど、サマーは現実を見る。

ダスティン・ホフマン扮するベンが花嫁姿のエレーンを教会からさらって、バスに乗り込む有名なラストシーン。実はちっともハッピーエンドじゃない。後部座席の2人が微笑からやがて虚を見つめる、その奇妙な間と戸惑いの表情よ。“駆け落ちしたはいいけれど、さてどうしようか…てゆうか、勢いで行動しちゃったけど良いのかしら…”と微妙な空気が流れつつ、ジ・エンド。若さ故の過ち、先の無い不安。真実の愛を得たはずの2人は、その愛を信じられない。正にLove will tear us apart again♪

多分トム君とサマーの愛の不毛に通じるものがあるんだろう。トム君が回想して「あのクソ女!」と吐き捨てるように、『卒業』のベンも「失敗した!」と後悔するのかもしれない。

しかし、海に魚は沢山居る。結局「夏」を乗り越えたトム君が堅気になっちゃうのが切ない。モリッシーは未だジョニー・マーを引きずってるというのに。

演じるジョセフ・ゴードン=レヴィットは良かった。顔のパーツが故ヒース・レジャーにそっくり、でも身のこなしや佇まいが軽やか。ズーイー・デシャネルは野暮ったくてどうも好きじゃないけど、2人並ぶとお似合いとゆうか、トム君が引き立つ。

何となく、この映画は既に思春期が過去となった人にとって、よりリアルに楽しめるような気がした。そしてThe Smiths者としては、まるでモリッシーとジョニー・マーのすれ違いを観てるかのようではないか。違うか。

「(500)日のサマー」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
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by tototitta | 2010-05-31 20:11 | 映画 | Comments(8) | ▲ TOP
I know it's over〜後編〜
(記/minaco.)


さて、発表から早半月余。一応それぞれの出来事を振り返っておきたい。

【監督は語る】

その際ファン・マルワイク監督は、恐らく最も通りの良い理由で説明した。
君の事はちゃんと見て来たし、その実績やW杯への貢献にも感心していると、ルートには話した。私は彼がフィットすると信じるが、膝の怪我で長い間離れた後、元のレヴェルまで戻るには時間が足りないと思われる。

その後、今度は「まだバカンスに行くなよ」とのお達しが。代表に何かアクシデントが起きた場合、ルートがその代役を務める可能性もあると言う。日本代表での満男と同じ扱いである。何を今更。

*          *

【エドさんは語る】

「ルートを外したのは罪だ」
と、voetbal internationalにてエドさんは言った。

ルートはまだベストでやれると思うよ。でも幸運な事に俺は監督じゃない。俺が選べるなら、違う30人の選手を連れて行くかもしれない。

何かコメントするだろうとは思ってたけど、ズバッっと言っちゃったな…。但し、エドさんは大人なんで別に代表に喧嘩売るつもりはなく、ただ相棒を思いやってくれたのだろう。こんな時、エドさんだけはいつも庇ってくれる。さすがGK、本当に心強い味方。エドさんの居ないオランニェも想像出来ないし、例えルートが復帰しても後見人無しでは心許ないかも。

*          *

【オランダのファンは行動する】

一方、オランダ人はどう反応したかとゆうと、早速有志がサイトを立ち上げ、「ルートを代表に!」と嘆願する署名運動を始めた。コチラ

現在のところ、20.909名の署名が集まっている。今更どうなる訳でもないが、気持だけで有り難い。中にはEdwinとかJaapなんて名前があって、もしかしてガチで本人じゃないのかと思ってしまう。

そして先日、代表者のKeea Jansma君がこれら署名を携え、KNVB(オランダ・フットボール協会)と、ルート本人に直接手渡してきた。一応ここにはワタシの名前もある。




すると翌日、サイトを通じてお礼のmailが届いたではないか。それによるとルートは大変感激したようで、我々1人1人に対し「君の声に感謝を伝えたい。多大なサポートをありがとう!」とのこと。うわわ、こちらこそ有難う。相変わらず何てマメな、何て律儀な!

*          *

【ルートは語る】

代表発表から数日後。オランダNOS Studio Sportがルートに電話で直撃し、コメントを取った。(コチラ で蘭語音声が聞けます)

2週間前にファン・マルワイク監督と話した時にもう、代表復帰するチャンスはかなり少ないって知ってたんだ。これでハッキリした。
そりゃ個人的には、召集されるんじゃないかって期待する良い理由も僅かにあると思ってたよ。自分のフォームはどんどんシャープに良くなってた。HSVでかなり良い感じにシーズンを終えて、ワールドカップへの準備が整いつつあった。ホントに代表入りの希望を持ってたんだ。

けど、残念ながら監督は違う考えだったらしい。俺がどんなに出たいと言っても叫んでも、決めるのは監督だけさ。俺がチームに何かしてやれるんだと彼は信じなきゃないが、これはそうゆうケースじゃない。
先月俺のパフォーマンスは予想以上だったけど、運悪くワールドカップ本番は俺には早すぎる。

勿論、物凄くガッカリしたよ。俺は自分がチームの助けになれると思ってるのに。
でも今、ワールドカップの夢は閉ざされちまった。代表キャリアは終わったと思う。7月で34歳になるんだ。

それにしても、このインタビュウ。電話口から子供の声がギャーギャーギャーギャー聞こえてくる。Moaちゃん(3つ)かLiam君(2つ)か、時折「パパ〜〜!」と叫んだりして。やがてルートも吹き出して笑う始末である。どんだけ狭い家に住んでんの、とゆうか、深刻な話なのにすっかり和んでしまうじゃないか。

つまり、こうして元気な子供達に囲まれ、充分幸せそうな暮らしを垣間見ると、もうワールドカップなんかどうでもよくね?とゆう気もしてくるんだった。ねえ。
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by tototitta | 2010-05-28 14:15 | Ruud van Nistelrooy | Comments(2) | ▲ TOP
I know it's over〜前編〜
(記/minaco.)


その夜、激しい雨が降ったモリオカ。先に満男の件だけで充分なダメージだったけど、オランニェ発表でトドメを刺され……せめてどっちか良い知らせが欲しかった。ちょうどジロ・デ・イタリア真っ最中であり、自転車レースに例えれば鳩を轢いたり犬を轢いたり未舗装のぬかるみや水溜りで落車したりして、ワタシの心はリタイアです。

それでも、もう落ち込んでる場合じゃございません。だって、
    ・何も知らずに宇宙に飛ばされたライカ犬よりはマシさ(@『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』)。
    ・ワールドカップなんてどうせ酸っぱい葡萄に違いない(@イソップ寓話)。
    ・6月はツールもウィンブルドンも全英ゴルフもある。プロレスリングNoahのKENTA選手の復帰も6月だ。楽しみだなあ6月!

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さて、これにてルートの代表キャリアは完全に終しまい。オランニェでの通算得点は64試合で33点、クライファートに次ぐ歴代4位。けれど、輝かしい記録より辛い記憶の方が強く甦る。ご存じない方も多いと思うので、ざっと振り返ってみます。

【2000年】PSVからユナイテッドへ移籍が決まった直後、彼は右膝十字靭帯断裂の大怪我を負い、移籍も地元開催のユーロも棒に振る。尤も当時はクライファートがエースだったので、代表入りしてもルートの出番は少なかったと思われる。

【2002年】日韓W杯にはオランニェが出場を逃す。クライファートとルート、生年月日が同じでも全く対照的な2人のコンビネーションは機能しなかった模様。

【2004年】ポルトガルで開催されたユーロには、堂々エースとして出場を果たす。オランニェの鬼門とされたPK戦で見事スウェーデンを破り、エドさんの神懸かりなセーブとルートのゴールによりベスト4へ進出。この大会では4得点を挙げる。準決勝でポルトガルに敗れたものの、公私共に最も充実した年。(ちなみに、多分この頃からエドさんと親密に)

【2006年】ファーギーとやらかしした後ドン底のままドイツW杯に希望を託したが、やがて憧れのファン・バステン監督とも衝突。決勝Tではベンチに置かれたままプレイする事を許されず、オランニェはベスト16で敗退。ワールドカップでは通算1得点に終わる。

【2008年】ファン・バステン監督との仲はこじれ、なかなか折り合いが付かなかったものの、ユーロ08本大会までには何とか和解。フランス、イタリアを撃破し期待は膨らむが、ベスト8でロシアとの延長戦に散る。チームで最初と最後のゴールを挙げたのは、ルートだった。この後一旦代表を引退し、また膝の手術を経て復帰を目指し……そんな訳で現在に至る。

☆オランニェの思い出ダイジェスト映像はこちらに。

〜後編に続く〜
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by tototitta | 2010-05-26 13:01 | Ruud van Nistelrooy | Comments(0) | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第四編(最終回後半)
前半のエントリーより続く】

"これこそ ただ一つのもの"
──The Stone Roses


06

2040年、5月──30年後の未来。

マンチェスター・ユナイテッドのオーナー、故デイヴィッド・ベッカム氏の葬列は、彼の愛したオールド・トラッフォードに到着した。スタンド席、そしてストレットフォード・エンドを埋めた参列者たちは、静寂と共にそれを迎えた。

列の先導を務めるのは、サー・アレックスの後任に就いて以来、もう何十回目かのシーズンを迎える名将、ギャリー・ネヴィル監督。その手には、在りし日の親友の遺影、横田基地に降り立った際の、ベックス奇跡の一枚があった。

カイ・ルーニー主将ら、選手らの担ぐ棺は、故人の永眠地に相応しい、ピッチ上「右サイド」に掘られた穴へと降ろされた。亡父を悼む実業家ブルクッリン・ベッカム氏の言葉とともに、棺は静かに埋葬された。次期オーナーと目される氏だが、幼少時にチェルシーのユニフォームを着ていた問題が発覚し、どうやら一筋縄ではいかない模様だ。

スタジアムに歌が流れた。約40年ぶりに再結成された「The Stone Roses」の生演奏だった。その「THIS IS THE ONE」は、メンバーの年齢故かヨレヨレだったが、思えば当時もそうであったので、誰も気にならなかった。

その間ピッチの上では、引き続いてのプレミア最終節、ベックス追悼と冠された試合の準備が始まっていた。それは、今は亡きチェルスキィ教授に阻まれて以来続く、プレミアリーグ30連覇を賭けた試合だった。気を締め直すネヴィル監督。すると彼に、それまで傍らで参列していたスコールジーは言った。

「90分後に、また」

スコールジーは葬列を離れ、アウェイチームのベンチに向かった。今日の対戦相手、選手全員を赤毛で固めた、オールダムFCの監督として。この試合、勝った方が優勝だ。

ネヴィル監督は、満員のスタンドを見上げた。彼はそこに、ベックスが愛した人々、スパイスガールズ、元秘書、NBAのチアガール、そして今やスタンドの半分を占めるターバン軍団を見た。更にその向こうには、沢山の懐かしい顔があった。

バット、サヴェイジ、フィルら、かつての雛鳥たち。そして現スコットランド代表監督のフレッチャー。その傍らには、音楽業界で成功を納めたリオが、今も舎弟としてブラウンを従えている。

ジョン・オシェイは引退後にプロゴルファーに転向した。キャディに先輩D・アーウィンを従えて、今年、何度目かの全英オープンを制覇した。

ベルバトフはユナイテッドで引退後、本名のアンディ・ガルシアとしてハリウッドに戻った。念願のオスカー獲得を目指し、今は最新作『オーシャンズ34』の撮影中。

なお、そんな彼の受賞を、いつもその目前で阻んでいるのが、今やオスカー常連の名優エリック・カントナ氏である。

引退後、ヴィディッチは戦乱の母国へと戻った。今はセルヴィア共和国大統領として、バルカン半島の防衛に目を光らせている。

クリスチャーノ・ヒルトン・ロナウド氏は、婿養子として嫁いだ先で、有り余る財産とパパラッチに囲まれ乍ら、仕合せとも不仕合わせとも言えない日々を過ごしているらしい。

ルート・ファン・ニステルローイエドウィン・ファン・デルサール。面長と長身、字面も長い二人は今、南オランダで共同で牧場を経営し、夏の余暇には二人でブロークバック・マウンテンまで釣りに出向くという。そこで彼らが何をしているのか、誰も知らない。

更にスタンドには、過去のライバルたちの姿も。

今は落ちぶれて、しかし、なけなしの金を叩いて今日に参列した彼らを、オールド・トラフォードは温かく迎えた。繁栄しか知らない我々には想像もつかぬ苦労が、彼らの表情に沢山の皺を刻み、その殆どが判別不可能だった。

その中に、S・ジェラードの姿があった。当最終章第一編で、死体を探しに行った少年たちが、「ヒルズボロ」の地で出会った少年、「僕の従兄弟が犠牲になったんだ」と言っていた少年である。

傍らには、ワンダー・オーウェンが居た。三部へ降格したリヴァプールを救う為、故郷に舞い戻った彼は、今は再びマージーサイドの英雄に君臨している。なおその甲斐無く、クラブは現在、四部以下のローカルリーグに所属している。

今現在のライヴァルたちの姿も、そこに。

ロイ・キーンは愛犬と共に、ピッチに向けて目を血走らせていた。彼は今、この試合の後に控えるCL決勝の対戦相手、セルティックを率いている。彼らは、バルセロナもRマドリーもバイエルンも凋落した今、この欧州で唯一ユナイテッドに対抗し得る敵である。

その横には、かつて「日本のロイ・キーン」と呼ばれた男の姿が。今から30年前、日本代表──否、岡田選抜から外れたお陰で、南アに於ける災禍から間逃れた彼は、その後主将としてレオナルド・ジャパンをアジア勢初の優勝に導き、現在は故郷のビッグクラブで監督を務めている。なお、彼率いる「オガサFC」は、先日盛岡南公園球技場(約20万人収容)で行われたACL決勝で、鹿島アントラーズのアジア29連覇を阻んだ。クラブWCでのユナイテッドとの対戦が、今から楽しみでならない。

さて、最後に紹介しそびれた三人を──

ルーニー。現在クラブのアンバサダーを務める彼は、かつてのサー・ボビーの席から、我が子が主将を務めるユナイテッドの全試合を見守っている。サー・ボビーから譲られた帽子の下が、今どうなっているかについては、現在様々な論争が起きている。

ギグシー。いよいよ始まる2040年シーズン最終節、30連覇を賭けたオールダムFCとの試合を前に、彼は監督にこう訊ねた。

「ギャリー、今日の俺のポジションは何処だ?」

彼は今も毎日、スタジアムの控え室からピッチへと続く緑芝の回廊、別名《グリーンマイル》を歩き続けている。「W杯に出場するまで、現役を辞めない」と、毎年契約を更新している彼だが、今以て辞めさせる理由も無いのが現状。今季早々に決めた「50シーズン連続ゴール」では、ゴールパフォーマンスにて、その胸毛の健在ぶりを示した。

そしてハーグリーヴスは現在もピッチサイドで、復帰に向けてのトレーニングに励んでいる。

*          *


それがユナイテッドの2040年──僕らが未来に浮かべる、美しい物語だ。

勿論この物語は、ただの個人的な妄想かもしれない。それは、ストレットフォード・エンドからテレビ桟敷まで、世界中で僕らに声援を送るサポーターたち各々が浮かべる、それぞれの未来予想図と同様に。

しかし確かに言えるのは、夢見る限り、未来は確かに存在するという事だ。この0910シーズンの最終節、例え運命がチェルスキィ教授への鉄槌を拒んでも、だからといって何も終わらない。今日という日は、皆と共に歩む、美しい未来へと続く。

だから今日、試合に敗れても、タイトルを失っても──
そしてかつての飛行機事故のように、この先、二階建てバス10トントラックが、僕らを押し潰そうとしても、ここには、決して消えない灯りが、点り続けている。

マンチェスターには、決して消えない灯りがある
"There Is A Light That Never Goes"




──君の忠実なる友、マンチェスター・ユナイテッド


07

物語は再び2010年の現在に戻る。

この連載ブログ『ストレットフォード〜』の筆者、そして忠実な記録者である私は、今季のユナイテッドが没したライヘンバッハの滝のほとりで、彼らから宛てられた手紙を読み終え、暗い山道を帰路についた。駅までの峠の道すがら、私はこの『恐怖の5月』に経験した数々の悲しみについて、母校の先輩、宮沢賢治の一節を思い起こしていた。

「本当にどんな辛い事でも、それが正しい道を進む中での出来事なら、峠の上りも下りも皆、本当の幸福に近づく一足ずつです」

ライヘンバッハ駅に着いた私は、この場所、即ち今日の最終回の地まで、私を運んでくれた汽車に乗った。それはかつて、亡友を悼んだ賢治が空想の中で走らせた汽車だった。目に見えない真実を求めたい時、そして目に見える真実から逃れたい時、岩手県民はその汽車に乗る。やがてそれは、盛岡駅に着いた。私はホームに降り立ち、その二度と乗車する事の無いだろう汽車を見送った。

赤悪魔署は、私の心の中にだけいる空想。
赤悪魔署は、私の少年の日の心の中にいた、青春の幻影。
今、万感の思いを込めて汽笛が鳴る。今、万感の思いを込めて汽車がゆく。
一つのシーズン、一つの連載が終わり、また新しい仕事が始まる。
相方と共に、リアルで、ほんの少しながらユナイテッドに関係する仕事も始まる。

さらば 赤悪魔署
さらば ストレットフォード・エンドに吠えろ!
さらば イングランドプレミアリーグ 09 - 10シーズンの日よ


【完】


─────────────────────────────

ENDING

「ね、正しく彼の最後の原稿ですよ」

最終回と銘打たれた原稿を読み終えて、フレッド・ザ・レッド君は言った。確かにその物語の結末は、この架空世界に生きた著者の死、妄想との永訣を示唆していた。しかしボス、サー・アレックスは言った。フレッド、お前は騙されている、と。

「これは奴の仕掛けたトリックだ。ライヘンバッハの滝──なぜ奴がこの最終回にそこへ赴き、名探偵ホームズの『最後の事件』を引用したか。それはその『最後の事件』が、実は『最後』ではなかったかからだ。ホームズは後に『帰還』したのだよ!」
「何だって……そ、そんな! 俺は騙されてたのか!」
「なぜ奴が、お前の様な着ぐるみを巻き込んだか、判るか?」
「ネタに困ったからじゃないのか──」
「それはお前が、人を信じやすい純真な心を持ったマスコットだからだ」

よろめきながら、フレッド君は彼のオフィスを出て行った。俺はバカだから、奴に利用されたんだ……そんな言葉を漏らしながら。

そんな哀れな着ぐるみを見送りながら、ボスは思った。必ずこの筆者を捕えて、斯くも毎週に読者を混乱せしめた罪を償わせてやる。奴はもう、幻じゃない。それも我々の、すぐ近くに居る気がする……。

すると、立ち上がったボスは、何かに蹴つまずいた。それは空っぽの植木鉢だった。もう少し整理整頓を──そう思ったボスだったが、その瞬間、ある言葉を思い出した。

"長年育てたサボテンが枯れ……"

ボスの手からコーヒーカップが滑り落ち、割れた。

ボスはオフィスを見渡した。散らかった机には、キング全集、ホームズシリーズ全巻、モルダーのUFOポスター、寝違え再発防止枕、DVD棚にはCSIマイアミ、はぐれ刑事純情派ほか……それは総てマスコットには不要な筈の、まるで今日までの長期に渡り、何かを書くために集められた資料の様相。

"とっくにお前は、お喋りじゃないか……"

お喋り、ヴァーヴァル、カイザー・ソゼ、ジョン・ドゥ、なるほ・ドゥ……なるほ堂!

ボスは署を駆け出て、表の「バスビー通り」の往来に、彼の姿を探した。だが、そこはいつもの光景、ユナイテッドのサポーターたちが歩いているだけだった。まだ俯き加減の彼らは、その路上につい先程あった光景に、誰も気付くことは無かった。

煙草に火をつけながら歩くフレッド君。そして、そのフレッド君の被りものを一つ一つ脱ぎ捨てて、やがてその《パートナー》であるイラストレーターの車中に消えた男。

奴の凄い所は、自分の存在を謎にした事だ……
彼を直接知っていたり、会った人間は一人も居ない……
奴は……それらを毎回ブログにアップして、そして……

フッ、消えた。

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by tototitta | 2010-05-23 15:50 | Manchester United | Comments(12) | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第四編(最終回前半)

"悪魔を見た 悪魔と目を合わせた"
──ヴァーヴァル・キント

01

「一体なぜ、こうなってしまったのか……」

赤悪魔署のボス、サー・アレックスはそう呟いた。指で覗いたブラインドの先には、オールド・トラッフォードの無人の芝生が映った。既にシーズンオフである。彼の悔恨は、プレミア4連覇を逸したことでは無かった。敗北は勝負の世界の習いとして、これまで幾度も受け入れてきた。勝利だろうと、敗戦だろうと、我が人生に悔いは無い、それがボスのモットーである。彼の思いは別にあった。

昨年8月、プレミア開幕と共に始まった連載ブログ「ストレットフォード・エンドに吠えろ!」。当初はプレミアリーグの治安を守る警察組織、「赤悪魔署」を舞台とした刑事ドラマであったはずだ。なのに、

「途中から設定が変わり過ぎだ……」

映画、漫画、聖書、ホラー小説、歌謡曲、Xファイル、スターウォーズ、ガンダム……筆者の偏向的知識による都合、というか趣味により、どれほどの読者が混乱に陥ったことだろう。例え途中にアクシデント、主役ワンダー刑事の殉職があったとしてもだ。

しかもこの最終章シリーズは、スティーブン・キング『恐怖の四季』(※)が原典であるという。そんなの誰が判るというのか。
(※「スタンド・バイ・ミー」「刑務所のリタ・ヘイワース」「ゴールデンボーイ」「マンハッタンの奇譚クラブ」の四編からなる短編集)

当初の人物設定も、ほぼ原型を止めていない。ギャリー・ネヴィルに至っては、開始時の刑事(デカ)長役から、ダーティー・ギャリー、ネヴィルマン、ネヴィル神拳伝承者、ゲイ・ネヴィル……番外編ではC3POと、もはや人ですら無い。一貫して変更の無いのはベルバトフだけか。アンディ・ガルシア(声・細川俊行)は、動かし様が無い。

しかし、その不逞を問い正そうにも、奴はもう死んだ──少なくとも調書の上では。この最終章第一編「スタンド・バイ・ミー」の序で、狂気に走った著者は、執筆中の山上ホテルの庭で、凍死体で発見されている。これまたスティーブン・キングの小説『シャイニング』であるが、そんなのにもう付き合ってられるか。

まあいい。これで二度と、奴に振り回されことも無いだろう。だが──

「本当に奴は死んだのだろうか?」

ボスの中に、受け入れ難い何かがあった。思えば今季、赤悪魔署の連覇を阻んだのは、獄中で一度死んだはずの凶悪犯チェルスキーだった。また、奴の遺体を検屍したポール・スコールズ警部補は、誤認逮捕、誤認タックルの名手だ。

きっちりと決着を付けなくては。愛する孫たちと、静かな休暇を迎える為にも。


02

既にオフに入った署内には、ボス以外に人影はなかった。W杯の準備に帰国した者、またはギグス主催の「W杯期間中・過ごし方教室」に向かった者。今年は参加者が多そうだ。

「だが、あいつは未だ居るはず──」

ボスは赤悪魔署のマスコット、フレッド・ザ・レッド君のオフィスルームに向かった。人気者の彼は、「部屋持ち待遇」だった。しかし、そこもまた無人だった。その部屋は随分と散らかっていた。困ったものだ。

やがて帰署したフレッド君。彼を迎えたのは、自分の椅子に座るボスの姿だった。ボスのコーヒーカップからは、香りと湯気が立ちこめていた。フレッド君は驚き、青ざめた。

ボスの尋問が始まった。

「お前は、奴と面識があるそうだな」
「奴とは?」
「作者……なるほ堂」
「ファック・オフ!」

どうしてその名前を……聞きたくなかった名前を持ち出されたフレッド君は、顔を真っ赤にして机を叩いた。まあ、著者名は毎回ちゃんと表記されているのだが。ともあれフレッド君の反応は、ボスが予期した通りだった。それは「作者オチに名作無し」という、この最終回の展開への憤りでは無く、恐怖だった。

「ぼ、僕は着ぐるみなので、何も喋りませんよ」
「とっくにお前は、お喋りじゃないか」

ボスの手にヘアドライヤーが握られているのを目にしたフレッド君は、諦めたように煙草に火をつけて、語り始めた。


03

「断っておくがボス、俺が会ったのは本人じゃない。その《代理人》を称する奴だ」

「構わん、続けろ」

「事件の始まりはこう。ある日俺は、フィッシュバーの店頭で誘拐された──。


監禁場所に現れたその《代理人》は、俺に向かって言った。

『物語に使いたい選手が、該当試合に招集外だった場合、着ぐるみの《中の人》として起用させて貰う。それに了承たまえ』

──と。それは奴の《パートナー》からの提案、いや命令だった」

「そんなマメな交渉を……ワシには何の断りも無かったぞ!」

「俺は従うより他無かった。俺は恐ろしかった。噂では、これまで奴はその妄想の中で、沢山のクラブ、選手を血祭りに上げてきたらしい。しかも、奴の応援するクラブや選手に逆らった者は、本人どころか、その家族までネタにされて……」

ジョン・テリーの事だな」

「しかも、奴の凄い所は、自分の存在を謎にした事だ。彼を直接知っていたり、会った人間は一人も居ない。噂なら幾らもある。ルーニーの自画像に似た、左半身に障害がある男だとか。いや、悪いのは腰だとか。風呂で読書が趣味だとか。だが、全て噂に過ぎない。奴はユナイテッドの試合がある度に、その鉄の意志で物語を紡ぎ出し、それらを毎回ブログにアップして、そして……フッ、消えた」

「ただの引き蘢りブロガーじゃないか」

「もう奴に触れるのは止した方がいい。第一、奴はもう死んだ」

「いや、奴は本当に死んだのだろうか。本当に今回で、この物語は最終回に……」

「でも、ボスも奴の検屍結果を見た筈だ。遺体に残った複数の銃弾……ユナイテッドのV逸、応援選手の軒並みのW杯代表落ち、鹿島のACL敗退、更には長年育てたサボテンが枯れ、その上ソファーで寝違えて首痛発症。こうも短期間に、これほど連続で痛手を受けて、それで生きているはずはない」

「サボテンと寝違えは知らなかったな」

そのままボスは押し黙った。フレッド君の証言にも、疑惑は逆に深まるばかりだった。彼の言う通り、これまで誰も作者近影を拝んでいないなら、例の遺体を「なるほ堂」と断定するのは不可能なはず。つまり替え玉、そしてまた何処かで悪巧みを……。

だが、そんなボスに呆れるように、フレッド君は一通の封筒を差し出した。

「いい加減ボスも、これを読めば判るでしょう。今回のエントリーが、奴の最期だと」

朱い「重要証拠」と捺された封筒には、数葉のタイプ用紙が入っていた。それは、例の遺体発見現場から押収された『ストレットフォード〜』の最終回、最終章の原稿だった。ボスはそれを眺めながら呟いた。

「やっと本編か……」


─────────────────────────────

04

最終回『マンチェスターの赤鬼譚クラブ』

記/なるほ堂、監修/minaco.




先ず始めに、筆者である私から感謝を。赤い悪魔の戦士たちが、かの名探偵ホームズならば、私はその記録者ワトソンであり、今私が一人立つ場所は、あのライヘンバッハの滝に例えるのが相応しいだろう。

1シーズンに渡る犯罪者たちとの戦いを経て、今、赤い悪魔たちは滝壺の中に消えた。眼前にあったはずの、彼ら勇者に相応しい栄光を手にする事叶わず。その断崖に残された痕跡が、宿敵──即ち、倫敦に巣食う犯罪王チェルスキィ教授との、プレミア終盤戦に於ける一騎打ちの結末を表わしていた。両者がもつれ合ったらしきそこからは、チェルスキィ教授の足跡だけが、スキップを踏むように倫敦の方角へと伸びていた。

私は腹這いになって、吹き上げてくるしぶきを全身に浴びながら、下を覗きおろした。

「ユナイテッドォ!……」

彼らの名前を喚いてみたが、耳に帰ってくるのはただ水勢の唸りばかりだった。

結局、私は受け入れるより他無かった。第一回『ワンダー刑事登場!』より記して来た当連載の最終回、即ち『赤い悪魔の最後の事件』を、悲劇として描かねばならぬ現実を。

しかしその時、私は滝壺に至る断崖の縁に、何やら光るものを発見した。それは今季のユナイテッドの唯一のタイトル、カーリングカップだった。そしてその下には、私に宛てられてた、小さな四角い紙切れが置かれていた──


05

親愛なる著者くん── 

僕らは今、この長かったシーズンの決着となる最終戦が始まる前に、僕らを待ってくれているストーク選手団の好意によって、この手紙を書く。

この90分を終えた時に、僕らと犯罪王チェルスキィ教授との闘争の結末がどうなっていようとも、彼らの害毒からプレミアリーグを守る為に戦った一年に悔いは無く、むしろそれは僕らの誇りだ。確かに、結果如何では色々と言いたい人も居るだろう。でも僕らは信じている。「ユナイテッド」とは、只のクラブ名では無い。それはクラブとサポーターとの「絆」を表す言葉だ。

僕らは今、この最終節に至るまでの道筋を、明白に振り返る事が出来る幸運に感謝している。君が、僕らの今シーズンを記録してくれたお陰だ。先ず特筆すべきは、遂に完全開花したルーニーの才能。ファーギー流に日記に書けば、こうだ。

「今振り返っても、今季開幕前に複数の攻撃選手を我々が売っ払った行動は、ウェイン・ルーニーを成長させたという一点のみで正当化されると確信している」

そして、ワンダーとスコールジーのロスタイム弾、ハグレの復活、ピッチ上で永遠の愛を誓い合ったベテラン二人など──今季ユナイテッドの残したドラマや奇跡は、連覇を果たした過去三年に劣らないと、自負して許されるだろう。

だからもし90分後、僕らの身がこのライヘンバッハの滝壺に消えていたとしても、思い出して欲しい。それは「0910シーズンのユナイテッド」に過ぎないってことを。人はフットボールに、四季の移ろいを見る。しかし、僕たちユナイテッドは、永遠の夏の中に在り続ける。

だが、フットボールにはもう一つの四季がある。それは、選手個人にとっての四季。そこに永遠は無い。新緑の春、眩しい日差し注ぐ夏、稲穂が頭を垂れる収穫の秋、そして木枯らし吹く晩秋から、冬へと。

ルート、満男、ロナウジーニョ、リケルメ、ラウル、トッティ──多くの人が、今日まで心の支えとしてきた選手のW杯代表漏れの報せに、その選手のキャリアが今、晩秋に差し掛かった現実を察しただろう。

しかし、落ち穂を拾う晩秋にこそ名画が生まれる事を、今シーズンのユナイテッドは示した。「サー」授与も目前、老獪どころか妖怪じみて来たギグシー。復活を遂げ、再びピッチに「腕章を巻く者」としての誇りを示したギャリー。長い放浪の途上で、一時帰郷したベックス。そして、全く不変のスコールズ

彼らの姿は、多くのフットボールファン、そして選手たちへの福音だ。その価値は、勝敗を越えたもの、これは強がりでも何でもない。スコールジーが、ギャリーが、それに最年長エドも、契約延長にサインした。もしユナイテッドがチェルスキィ教授を取り逃がしたとしても、それ以上の勝利を、君は既に手にしている筈だ。

今、この晩秋の素晴らしき蓄えは、やがて訪れる冬の糧となるだろう。物心つく頃から日常の「彼らの《プレー》を応援する喜び」は、いつしか消える。だがそれは、それだけのことだ。その先には更に長い「彼らと共に、《人生そのもの》を歩む喜び」がある。怖れるな。冬にこそ咲く花もあるのだ。

では、最後に君に贈り物だ。晩秋の翳りに怯える心を完全に葬り去る為にも、君が尻切れで終わらせた第一編『スタンド・バイ・ミー』の結末を見せてあげよう。冬の美しい物語を完成させよう。

後半へ続く】
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by tototitta | 2010-05-23 15:46 | Manchester United | Comments(0) | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第三編(全四編)
『ゴールデン・ボーイ』

記/なるほ堂、監修/minaco.



01

「ルーニーは申し分の無い、優秀な生徒です」

2002年、エバートンFCのトレーナーたちは口を揃えて言った。僅か16歳でプレミアデビューし、当時無敗記録更新中だったガナーズから決勝ゴールを上げた少年を、彼らはこぞってゴールデンボーイ、即ち「金の卵」と讃えた。

だが、ある老人との出会いから、少年の人生は一変する。サー・アレックス、その正体は赤い悪魔だった。最初の出会いは敵として。だが、やがて少年の純粋な心は、その邪悪な魂に魅入られていく。

悪魔もまた然り。サー・アレックスは、ルーニー少年の中に何を見たのか。オールド・トラッフォードでのスタッフ会議にて、彼を味方に勧誘するに至った心境の変化を、サーはこう明かした。

「ただ敵クラブを倒すだけでは、プレミアリーグの真の平和は得られないと悟ったのだ」
「なぜ?」
ニュータイプの発生だ」

(以下、『機動戦士ガンダム』ネタ)

「……ルーニーがニュータイプだから?」
「そうだ。ニュータイプとは、プレミアリーグ、ひいてはイングランドサッカー全体が変わるべき理想のプレーヤータイプだ

サーは確信していた。未だに電信柱の様なストライカーが君臨しているイングランドのストライカー像を、走力、ドリブル、パス、マルチポジションなど、あらゆる能力を装備したこの「ニュータイプ」の少年ならば、必ずや塗り替えるに違いないと。

04年、悪魔はトランクに3750万ユーロ(約50億円)の金塊を携えて、リヴァプールのエヴァートン地区に立つ、ルーニー家の扉を叩いた。シャア……もとい、サーは少年に言った。

「これからはニュータイプの時代だ。私の言うことがわかるのなら、私の同志になれ


02

──あの日から6シーズンの歳月が流れていた。宇宙世紀2010、かつてアムロ・レイと同じく16歳で戦場に立った少年は、今、24歳の青年に成長していた。数多くの戦果と数々のタイトル、そして幾つかの「若さゆえの過ち」を重ねながら、サー・アレックスの期待通り、今や赤い悪魔のエースストライカーに君臨するルーニー。かつての戦友、あのバロンドールを獲得したポルトガル人さえも、その「踏み台」に過ぎなかった。

ユナイテッドのFWは化け物か──ニュータイプとしての覚醒を果たした「機動戦士ルーニー」の前に、敵の敷く守備網など無力だった。得点レース首位をひた走る、充実した戦いの中で、彼は思った。

「生涯ユナイテッドでプレーして、ここで引退したい」

かつての言葉「Once a Blue, always a Blue(生涯、エバートン)」は、忘れた。

この年、ルーニーに一つの運命的な出逢いがあった。彼を更にニュータイプとして進化させる為に、サーが白羽の矢を立てた人物。戦死したポルトガル人と入れ替わり、新しく戦列に加わった仲間。その正体を、ゴールデンボーイは知っていた。

「こいつは、ワンダーボーイ!」

サーの目論見は、ニュータイプ同士の共振にあった。ワンダーもまた、ニュータイプだった。かつて敵陣を3倍速で駆け抜け、ゴール前で驚異的な先読み能力を見せた彼は、現在のルーニー同様、それまでのどのイングランド製FWとも違っていた。その才能は、例え場末のクラブに入り浸る今も、変わらないはず──そんなサーの深謀の正しさを、彼はシティ戦で証明して見せた。

サー・アレックスは未来を確信した。この2人の共闘が、今シーズン後半戦のユナイテッドを勝利に導くと。思えば今日この日迄、数多くの戦士たちが「ルーニーのベストパートナーは俺だ!」と、その寵愛と独占を争ってきた。だが、彼らはルーニーを激しく求めるがあまり、深く傷つき、悩み、結果その報われぬ愛ゆえに身を滅ぼした。

「違うわ、ルーニーは私たちとは違うのよ……」

一人、また一人と、彼らはルーニーの前から姿を消した。罪作りなルーニーは、彼らの思いなど判らぬままに、彼ら「哀・戦士」たちの背中を見送った。そこへ現れたのがワンダーだった。ワンダーは、これまでのどの選手とも違っていた。それは移籍金が0で、期待値も0とかいう問題ではなかった。ワンダーは言った、

「きれいな目をしているのね」

「……そ、そう?」

イングランドのニュータイプFW同士の、運命的な「めぐりあい」──しかし、それはやがて悲劇的な結末を迎えた。

2月28日、カーリング杯に途中出撃したワンダーは、二度と仲間の所へ帰る事は無かった。ワンダーは散った。自分が負傷退場したせいで、結果ワンダーを雨のぬかるんだピッチに送り出してしまったことを、ルーニーを悔やんだ。

「僕は……取り返しのつかないことをしてしまった……」

赤い悪魔は後々、そのツケを払わされる事となる。


03

「ち、ちくしょう、こ、ここまでか」

宇宙世紀2010、5月──プレミアリーグの戦局は最終節を迎えていた。赤悪魔連邦の「まだだ、まだ終わらんよ!」という思いとは裏腹に、スタンフォード・ブリッジ空域から報告されるアブラモビッチ公国軍の戦況は圧倒的だった。

ルーニーの肉体は限界に達していた。ニュータイプはその能力発現時、心身に強いストレスを受ける。ワンダーのハムストリング、ルーニーの足首、毛髪などがそれだ。更にそんな彼に追い打ちを掛ける様に、アブラモビッチ公国のモビルアーマー「ドログバ」の戦果報告が届いた。ルーニーは、得点王の座を失った。

「……ワンダーの所へ行くのか」

動かぬ脚に、もう得点など出来ない、役立たずな自分を悟ったルーニーは、既に遠い世界へ旅立った男に思いを手向けた。だがその時、彼の耳元に誰かの囁きが聞こえた。

「今、ワンダーが言った。ニュータイプは、点を取る道具ではないって……」

そしてルーニーは、オールド・トラッフォード上空に、ワンダーの幻影を見た。

「ワンダー、どうすればいい?」
「あなたなら見えるわ」
「あっ、見えるよ、みんなが──

ルーニーは知った。それはシーズン中に何点取ったとか、チームに何勝をもたらしたとかでは無い。ニュータイプとは、人と人が心で通じ合える能力だ。

敵や困難に苦しむ仲間の声を察知し、それがこの芝上の何処だろうと駆けつけて、彼らを助けるルーニー。

戦うことも、守ることも、決して諦めないルーニー。

仲間たちに感謝され、仲間たちに深く愛されるルーニー。

そんなウェイン・ルーニーのいつもの姿──そんな有り触れた日常こそが、彼がこのサッカー界に於ける「ニュータイプ」である証しなのだ。

─────────────────────────────

【挿入歌『めぐりあい』/井上大輔】
─────────────────────────────

エヴラさん、立って、立って下さい」
「……ルーニー?」

四連覇の夢が消え失せたオールド・トラッフォードで、意味のない残り時間に俯いていたユナイテッドの選手たちの心に、ルーニーの声が届いた。

……………
ベルバさん、いけない、そんな事を考えちゃ。もう一度自信を取り戻すんだ。
ヴィダ、君は最強のDFだ。リヴァプール戦も、こう戦えばいいんだよ。
エドさん、奥さんの病気は、もう大丈夫だ。だから、もう暫く僕たちと一緒に。
リオ、今は焦って無理しちゃ駄目だよ。リオとは、いつでも遊べるから。
ナニ、W杯で奴に逢ったら言ってくれ。前回の様なことは二度とないよってね。
ギグシー、みんな気付いてたんだよ、その増えた髪の毛。どうか僕にも、ね。
スコールジー、僕の大好きなスコールジー、もう無茶なタックルは駄目だから。
ギャリー、来季も君の腕章姿を見れて嬉しいよ。僕に譲るのは、少し先で平気さ。

さあ、未だ僕らのシーズンは、終わっていないよ。
皆、最後までユナイテッドらしい戦いを貫こうじゃないか。
そして試合終了の笛が聴こえた時、皆で一列に並んで、
ようやくこのタイトル通り、
ストレットフォード・エンドのサポーターたちに、吠えるんだ。

一年間、応援をありがとうって


04

やがて、オールド・トラッフォードに今シーズン最後の笛が響いた。

「ルーニーが思いを届けてくれなければ、我々は彼らに見捨てられていただろう」

健闘を讃える、惜しみないスタンドからの拍手を浴びながら、ギャリーはそう呟いた。

「じ、じゃあ、このピッチにルーニーはいないの?」

この試合中──いや、今日の試合だけでは無い、このシーズンを通して、ルーニーの声や姿、その闘志に励まされ続けた選手たちは、今、生き残ったイレブンの中にその姿を探した。だが、そこにルーニーは居なかった。

「脚が痛くて、自分が一番苦しいはずなのに、あれほどに……」

皆が涙に暮れた。選手も、スタッフも、サー・アレックスも、おまけにカペッロも。
だが、その時だった。

「……そう、ちょい右! はい、そこでまっすぐ!」

どこかで子供が叫んだ。

「ど、どうしたの?」

決して見えないはずの、人垣の先を指差す子供。心配そうに、その息子の指し示す方向へ目を移す母親。すると、その厚い人垣を掻き分けて、そこに向かい来る一つの輝きがあった。それは、この長く苦しい09 - 10シーズンを戦い終え、今ようやく全ての苦しみから脱出した父親の姿だった──

ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。
優勝よりも、得点王よりも、こんな嬉しいことはない。
わかってくれるよね?
ワンダーには、いつでも会いに行けるから……

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【エンディングテーマ『ビギニング』/井上大輔】

【ナレーション(声/永井一郎)】
宇宙世紀2010、この最終節の戦いのあと、
FAサッカー選手協会よりウェイン・ルーニーに年間最優秀選手賞が贈られた。


【FIN】


第三編『ゴールデン・ボーイ』了。
最終編『マンチェスターの赤鬼譚クラブ』へと続く(近日公開)。

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by tototitta | 2010-05-18 21:29 | Manchester United | Comments(0) | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第二編(全四編)
『刑務所のバネッサ・ペロンセル』
──もしくは『ストレットフォード・エンドの空に』

記/なるほ堂、監修/minaco.



2010年1月下旬。

愛称「ボス」で知られるサー・アレックスは上機嫌だった。彼率いる「赤悪魔署」の捜査の手、いわゆる「魔の手」が、遂に2ポイント差で逃走中のロシアンマフィア『チェルスキー』一味を捕えたのだ。

一味の若頭、表稼業ではイングランド代表主将を務めるエリートのジョン・テリー容疑者も、既に司法の掌中にあった。彼は友人ウェイン・ブリッジ氏の元カノに手を出した罪状で逮捕され、法廷で代表主将剥奪と終身刑を言い渡された後、オールドトラッフォード区内に立つ『ストレットフォード・エンド刑務所』に収監された。

「諦めろ。一旦ユナイテッドに勝ち点差で捕まったら、もう逃げるのは不可能だ」

古株の囚人たちは、新顔のテリーに言った。確かに過去3シーズン、赤い悪魔の追撃から逃げ遂せた者は居なかった。刑務所内のリヴァプール房マンシティ房ガナーズ少年受刑房……先にそこへ収監された連中は、せめて4位以内でのCL出場権の夢を見ながら、仮釈放の日を待つだけだった。

テリーの再審請求は全て却下された。両親も自分たちの公判で手一杯で、彼の独居房には明治製菓チェルシーの差し入れすら無かった。失意のテリーを、更に悲劇が襲った。2月27日のプレミア第28節シティ戦、被害者ウェイン・ブリッジ氏に指示された札付き二人組、エリート嫌いのテヴェス、ベラミー両受刑者らにより、彼は獄中でレイ-プされた。

彼の唯一の慰めは、囚人の中の「調達屋」から手に入れた一枚のポスターだった。独居房の壁から終身囚テリーを見守る女、「バネッサ・ペロンセル」なるフランス人下着モデルらしいが、そんな無名モデルのことなど、誰も知らなかった。
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しかしその調達屋は、テリーから他の囚人たちとは違う雰囲気を嗅ぎ取っていた。「こいつは、何かをやらかす気だ」と。調達屋のキャラガー、久しく日の目を見ていないリヴァプール房所属長期囚の一人。その囚人服の色と、すぐに紅潮する頬の色から、刑務所内では「レッド(赤)」と呼ばれて一目置かれている。

「テリー、今年もプレミアのタイトルレースは終わったな」

食堂、向い合うキャラガーの言葉に、しかしテリーは答えた。

「レッド、人の心には誰にも奪えないものがある。希望だ

希望──しかしキャラガーは同意しなかった。ベニテスに、トーレスに希望を見たばかりに、遂にはビッグ4の座からも追われたリヴァプール。噛み締めるように彼は言った。

「ひとつ言わせてくれ。希望は危険だ。希望はサッカークラブを狂わせる

食堂の片隅、その言葉にリーズ監房の囚人たちは、小さく頷いた。

◆          ◆


しかし、それは起こった。2010年4月4日、刑務所の廊下を慌ただしく走る看守たちに気付いたキャラガー。こういうのは大抵、受刑者の中に急病人か死者……赤い悪魔を敵にした事を後悔して、首を吊った自殺者が出たときだ。だが、テリーの独居房に看守たちが発見したのは、死体でも病人でもなく、ひとつの謎だった。テリーの姿はそこに無かった。

数時間の無駄な捜索の後、怒りに任せて刑務所長は、独居房の壁で微笑むバネッサ・ペロンセルのポスターを剥ぎ取った。すると、彼らがそこに見たのは、大きな穴だった。その穴は希望へと続いていた。翌日キャラガーは、「プレミア第33節、チェルシー首位再浮上」という新聞を眺めながら、静かに笑った。

「ジェイミー・キャラガー、釈放だ」

そんな思いもよらぬ報せを受けたのは、テリーが脱走に成功し、赤い悪魔の4連覇の野望を打ち砕いてから、暫く後だった。頼んでも居ないのに、イタリア人のカペッロなる弁護士が、仮保釈の請求を出していたらしい。

だが、今更自由を得たところで、彼が自分の居場所を娑婆に見つけるのは困難だった。来季のCLに出場出来る訳も無く、身売りされた故郷リヴァプールはガタガタだった。そこに希望など無かった。そんな時、彼はテリーのことを思い出した。獄中でテリーは、出所したら「ルステンブルク」に行くと言っていた。もし君も来れたら、一緒に──それが俺の「希望」だと。

キャラガーはバスに乗った。

「必死に生きるか、必死に死ぬか。どちらかだ」

それはかつて、獄中のテリーが口にした言葉だった。キャラガーを乗せたバスは、「ルステンブルク」に向かった。それはW杯南アフリカ大会、イングランド代表メンバーたちのキャンプ地。

どうか テリーがあそこにいますように
どうかうまく 国境を越えれますように
どうか親友に再会して やつと握手ができますように
どうかこれまで 当ブログで散々酷く扱われたチェルシー他のサポーターが
筆者を怒っていませんように
どうかイングランド代表が 夢の中と同じように W杯で優勝できますように

それが俺の、「希望」だ。


【FIN】



第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』了。
第三編『ゴールデン・ボーイ』へと続く(近日公開)。

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by tototitta | 2010-05-17 20:16 | Comments(0) | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第一編(全四編)
”乗り越えるには、小説を書けばいい”
──(500)日のサマー


はじめに

日本のキャッスル・ロックと呼ばれる岩手県。その地を見下ろす名峰・早池峰山に立つ白堊のホテルは、五月にして未だ雪深く閉鎖中であった。「彼」の遺体が発見されたのは、その中庭。早朝、迷路の様な生垣の中で、ここに赴任して間も無い管理人一家の夫、小説家志望だったというその男は、薄ら笑みと共に凍り付いていた。

まるで何か、得体の知れぬ力(Shining)に取り憑かれたように──豹変した男の斧から逃げ遂せた妻子の証言を、保安官はそう記している。僅かな実益と、或る長編小説の結末を仕上げる為、この五月にホテルに赴いた男。だが、丁度その五月に入った頃から、彼は激しい幻覚、恐怖に苛まれ始めたらしい。それはやがて、狂気へと。

「プレミア4連覇が……W杯代表メンバーが……通路の先にブラジル人の双子が!」

一見、遺体に外傷は無い。だが、鑑識を務めるCSI主任警部補の目は誤摩化されなかった。その遺体の心に空いた無数の穴、その全てが致命傷だった。プレミアリーグの最終結果、ACLの鹿島アントラーズ、W杯代表メンバー発表、満男は、馬は、ワンダーは……。

やがて、警部補の携帯電話が鳴った。電話の先で、気取ったイタリア人は言った、「南アフリカに一緒に来てくれないか」。だが、警部補は斧で壊された扉の先にある男の部屋を覗き込みながら、答えた。

「断る」

彼は、男のタイプライターに遺された原稿を見つけた。『恐怖の五月』と題された、短編集。

4人の少年の友情と死を描いた、第一編『スタンド・バイ・ミー』
脱獄に成功した男の話、第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』
赤い悪魔に魅入られた少年の話、第三編『ゴールデン・ボーイ』
第一編の続編を含む最終回、第四編『マンチェスターの赤鬼譚クラブ』

ポール警部補は、その原稿を手に、赤毛を掻きながら言った。

「遂に見つけたぞ、なるほ堂」



『スタンド・バイ・ミー』

記/なるほ堂、監修/minaco.

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2040年、5月──
最後にマンチェスター・ユナイテッドがプレミア優勝を逃したシーズンから、既に30年の歳月が流れていた。オールド・トラッフォード区に立つ教会。そこでは、しめやかに葬儀の仕度が整えられている。葬儀委員長を任された私──ギャリー・ネヴィルは、祭壇前に安置された棺の中に、彼の名前を呼んだ。

ベックス……

その死は突然だった。先日のCL準決勝、ユナイテッドはロスタイムのCKから大逆転勝利を納めた──そう、まるであの時の様に。ベックスはその様子を、スタンドのオーナー席から見守っていたが、その瞬間、かつて世界中の女性が射止めようとした彼のハートは小さな発作を起こし、そのまま彼は還らぬ人となった。享年65歳。傍らにいたブルックリン・ベッカム次期オーナーに依れば、彼の最期の言葉は愛する妻の名でも、息子たちの名前でもなく、「ユナイテッド……」だったと言う。

再び教会。棺の中に眠るベックスの胸には、誰が置いたのか、一枚の古い写真(↑)が置かれていた。

左からギグシー。まるで生き急ぐかの様に、無茶ばかりするスピード狂の少年。かつてラグビー界の英雄であった父親(彼もまた「ウィング」であった)を尊敬しているが、その家庭内暴力に悩まされていた。やがて両者は決別することになる。

その次がベックス。私たちのリーダー格。華やかな世界、外の世界に対する当時からの憧れは、私だけが知る彼の心の闇の裏返しだった。だがそれが、やがて熟年離婚する両親に吹く隙間風のせいだったのか、彼自身の酷いロンドン下町訛りのせいだったのか、今も私には判らない。

三人目が私、ギャリー。いつかユナイテッドのキャプテンになる事を夢見ながら、しかし自分の才能への疑心に揺れていた頃の。クリケット界の大物だった厳格な父ネヴィル・ネヴィルには、そんな不安な気持ちを打ち明ける事など出来なかった。

最後がスコールジー。当時の愛称は「太っちょ」。

私の思いは、その古い写真の時代へと吸い込まれた。スコールジーがある日、クリフの練習場裏にあったツリーハウスの梯子を、息を切らせて登ってきた。固い友情で結ばれていた私たち4人の「雛鳥」たちにとって、樹上のそこは恰好の「秘密の隠れ家」だった。練習後、こっそり煙草を吸ったり、下品な話に花を咲かせたり──スパイスガールズで誰がお気に入り?みたいな。そこへ遅れてきたスコールジーは、太っちょのせいか、持病の喘息のせいか、未だ整わない息で私たちに言った。

「死体を探しに行かないか?」

◆          ◆


1989年、5月──
こっそり家を出た私たち4人の少年は、線路の上を並んで歩いていた。

その後も私たちは、自分たちだけの小さな冒険旅行を経験している。「FAユース杯を取りに行こうぜ!」とか、「スパイスガールズに会いに行こうぜ!」とか。その折々に、他の悪友たち(サヴェイジニッキー、そして私の弟フィルら)を伴って。だが、この時の冒険ほど、今なお鮮明に残るものは無い。恐らく他の三人にとっても。

「本当だよ。不良たちの会話を盗み聞きしたんだ。死体があるって」

線路を平均台の様にして進みながらも、内心は半信半疑の私たちを見透かして、スコールジーは何度も言った。カントナ、キーン、インスら、街の札付きの不良グループが見たという死体は、この線路の先にあるらしい。やがて、私たちは河上の鉄橋にやってきた。怖れ知らずのギグシーが鉄橋を渡りだし、私たちもそれに続いた。すると、

「traaaaain!!(汽車だーっ)」

線路を震わす物音に気付き、私は皆に叫んだ。逃げ場の無い鉄橋を走る4人。ベックスとギグシーは走り抜け、私は足がもつれたスコールジーを押し乍ら、何とか難を逃れた。続いて沼地に迷い込んだ私たちを、今度は巨大なヒルが襲った。頭に吸い付かれたスコールジーは、それ以来、終世頭の痒みに悩まされる事になった。

夜になった。

焚火を囲む私たちの話題は、この旅が終わって、このアカデミー時代が終わって──その先の話に。ベックスは、将来広告塔となるペプシを飲みながら私に言った。

「お前は、いつかきっと素晴らしいキャプテンになる」

と。そして、こう続けた。

「お前が気転を利かせなきゃ、俺たちはあの鉄橋の上で全員お陀仏だった。お前ほど信頼出来る奴はいないさ。お前なら、俺の将来の嫁……ヴィクトリアと裸で二人きりにしても心配無いね

翌日、私たちは目的地へと辿り着いた。そこはシェフィールドのヒルズボロ・スタジアムだった。そこにあったはずの死体は既に片付けられ、彼らは手厚く葬られ、だが恐ろしいほどの圧力でねじ曲げられたらしい客席のフェンスが、つい先日あった事故「ヒルズボロの悲劇」の爪痕を残していた。

圧死した96人の霊を悼む人々の中に、リヴァプールFCのレプリカを着た、私たちより幼い少年が居た。「僕の従兄弟が犠牲になったんだ」と彼は言った。

翌朝、私たちは町に帰り着いた。一晩中歩き通したのだ。全員足にマメを作り、たまらなく腹が減っていたが、皆ただ黙って歩いた。その間、私たちは噛み締めていた──私たちがこれから生きていくだろうフットボール界は、いつも悲劇と隣り合わせなんだということを。私たちは大人になった。大抵の少年たちが大人になるきっかけは、「死体」や「死の現場」を見た時だ。

ギグシー、スコールジーと別れた後、マンチェスターの街を眺めながら、ベックスは疲れた声で私に言った。

「俺は、この街から出て行けないだろうな……」
「出て行きたいのかい?」
「いや、望む望まないに関係無く、俺はこの街、いやフットボール界に留まらない、もっと広い世界に行かなくちゃならないんだよ」

寂しさを隠して、私は答えた。「ベックスなら、きっと行けるよ」と。
すると彼は、私に右手を差し出して言った。

「握手しようぜ」

◆          ◆


再び2040年、5月──
葬儀は厳かに進んだ。「またワシより先に若い奴が……」というサー・ボビー・チャールトンのいつもの弔辞と、何十回目かの再結成も不発に終わったヴィクトリア未亡人率いるスパイス・ガールズの葬送歌が、弔問客の涙を誘った。

献花の長い列に、私はスコールジーサー・ギグシーの姿を見つけた。私がキャプテンという夢を叶え、ベックスもその大きな夢を叶えたように、彼らもまた、あの日の夢を叶えた。スコールジーは「太っちょ」の代わりに「赤毛」と呼ばれ、やんちゃだったギグシーは「胸毛」と呼ばれ、それぞれのポジションでサッカー史上最高の選手に成長した。

あの日以来、私たち4人の「雛鳥」が樹上の小屋に集まる事は減り、やがて絶えたが、しかし、掛け替えの無い友情は続いた。「STAND BY ME(僕を支えてくれ)」と声に出さなくても、互いに支え合い、互いに困難を乗り越えた。

例えば最期に我々がプレミアタイトルを逃した2010年。そうチェルスキーに優勝を奪われたあの年。限界が囁かれていた私を救ったのは、彼らとの友情だった。裏庭でベックスが教えてくれた右足のクロスボール。そしてスコールジーのロスタイムゴール。あの日の彼とのキスは、互いの夫婦関係に大きな溝を残したが、今でも私たちの誇りだ。

俺たちの親父、ファーギーがベンチで突然死した時もそうだった。動揺するユナイテッドを買収し、救ったのはベックスだった。「AC美蘭」とかいうホストクラブや、広告写真でパンツ一丁になってまで稼いだのも、全てはいつか危機に陥った際に、故郷ユナイテッドを救う為だった。

葬儀は終わった。

「監督、準備が整いました」

カイ・ウェイン・ルーニー主将の声に、私は少し気付かぬまま、やがて思い出すように振り返った。彼が呼んだのは、そう、私のことだ。この後はベックスの埋葬、そして引き続き彼の追悼試合、30連覇を賭けたプレミアリーグ最終節が控える。

教会の扉が開き、ユナイテッドの若き選手たちが棺を抱え上げた。マンチェスター・ユナイテッドFC第20代監督である私ギャリー・ネヴィルを先頭に、英雄ベックスの埋葬場所へ向かう行進が始まる。私に手渡された遺影、それには生前の彼の、「最も思い出深い一枚」が選ばれた。

さあ行こう、オールド・トラッフォードへ。

【FIN】

─────────────────────────────

【エンディングテーマ/『Stand by me』Ben E. King】



夜になって 地上が暗くなって
月だけが唯一の明かりとなっても
いや、僕は恐れないよ そう、僕は恐れない
君がそばに、僕のそばにいる限り

だから、ダーリン、ダーリン
そばにいて ねえ、そばにいて
僕のそばで支えて 僕のそばにいて

もし僕らが代表の座や タイトルを失って 
プレミア4連覇の夢が崩れ落ちても
でも、僕は泣かないよ そう、僕は泣かない
絶対、一滴の涙も流さないよ
ギグシー、スコールジー、ベックスがそばに、
ギャリーのそばにいる限り
だから、ダーリン、ダーリン……

─────────────────────────────
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【遺影】
─────────────────────────────


第一編『スタンド・バイ・ミー』了。
第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』へと続く(近日公開)。

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by tototitta | 2010-05-16 17:01 | Manchester United | Comments(2) | ▲ TOP
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(記&画/minaco.)

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『Stretford Endにほえろ!』最終回、いよいよ近日公開!
お見逃しなく!

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by tototitta | 2010-05-14 19:29 | Manchester United | Comments(0) | ▲ TOP
オレンジの血
(記/minaco.)



“BLOED ORANJE”ー『ルートは準備OK』(どアップですみません)
俺にはオレンジの血が流れてる。
もし南アフリカで優勝したら、その時は……普通じゃいられないだろうね。

NIKEのワールドカップ向けキャンペーンCMにて、大体こんな事を語ってる所だけは解った。ロッカーに貼ったメモは目標と実現のチェックリスト。“トップクラブ=イングランド、トップスコアラー=イングランド”などはチェック済み、残るのはドイツ得点王と世界チャンピオンだけ。これがフラグにならなきゃいいが…

現時点でまだ何も決まってないし、決して楽観は出来ないけど悲観する訳にも…。
果たして、ルートは南アフリカへ行けるだろうか。


ファン・マルワイク監督が来週行われる代表合宿の召集選手を発表したのは、5月3日のこと。その中にルートの名前が無いので、一旦は「ワールドカップ出場ならず」と報道される。もしそうならワタシの6月は半分終了。とはいえ、ああそうですか、と受け入れられるものじゃない。

ところがその翌日監督のコメントが出て、まだ何も決まってないと説明された。
オランダのファン・マルワイク監督、V・ニステルローイのW杯出場に含み (スポーツナビ)

曰く、ルートが代表復帰するか否かの最終決定は5月11日(現地時間)にする、との事である。今回の代表合宿には参加の必要無いってだけで、現時点ではW杯出場に関して何も確定していないと言う。
「ルートがW杯の一員となるのに充分シャープだと納得させる日まで、私は彼を保留する」(ファン・マルワイク監督)
何だかややこしい。

要するにsky sportsがまとめた記事によれば、
「ワールドカップ行きのドアは、その飛行機のシートを追いかけて来るどんな者にも開かれ続けている」らしい。勿論、ルートにも。

すると5日、今度はルートのコメントが出る。これが本当なら、監督と月曜に話したらしい。
監督は俺をワールドカップに連れてかないとは言ってなかった。ただ2度の合宿に来る必要はないってだけ言われたんだ。

そうだとしたら、喜ぶべきだろか。但し「連れてく」とも言われてないので、心配した方が良いんだろか。でもルート自身は選ばれなかった場合のプランなど考えてないようで、やはり「駄目」と言われない限り“ルートは準備OK”のつもりなのだ。

─────────────────────────────

【#34 / Werder Buremen × HSV 1-1】



ブンデス最終節。今更だけど、ルートはそのゴールで監督を納得させようと試みたのかもしれない。

1−0でリードされた後半82分、ゼ・ホベルトからのパスを中央でトラップすると右足で一振り。試合をドローに持ち込んだのは彼らしい得点だった。勝てなかったのは本当に勿体無いし、結局7位のままEL出場権も逃したけれど、HSVサポはチームMOMに選んでくれた。今やれる事はやり遂げたと思う。

もし夢が見られるのなら、叶えさせておくれ。
    “While I can dream, please let my dream
     Come true, right now
     Let it come true right now”
    (♪『If I can dream』Elvis Presley)


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5.12 00:54 追記

駄目でした……
http://www.knvb.nl/node/5454
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by tototitta | 2010-05-11 16:35 | Ruud van Nistelrooy | Comments(2) | ▲ TOP
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