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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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緊急妄想特番『暴れん坊主将(キャプテン)』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

【Stoke City 1 - 2 Man Utd】

1

「……ヴィダ様は何処(いずこ)に?」

先にスコットランド帝(のみかど)より、右大臣たる先君ギャリー公からの腕章禅譲の勅旨を賜り、いよいよ天下人、即ち赤悪魔幕府の征英大将軍の座に上り詰めたネマニャ・塞爾維亞守(せるびあのかみ)・ヴィディッチ公。だが、米将軍ならぬ「鼻将軍」の姿は、その守護すべき住まい「エド城(=エドウィン・ファン・デル・サール城)」に無く、

「またマークに引き摺られ、お城を抜け出されてしまったか……」

と、今節もまた肩を落とす御側御用取次、ジョン・愛蘭守・おシェイであった。

時、正に幕府一大事の折である。天下騒擾の「ルーニーの乱(註1)、その元凶と囁かれる「グレイザー一族の陰謀(註2)、今季相次ぐ「年貢のお取りこぼし(註3)、新参召し抱えに於ける「倹約令(註4)、意味不明な「オーウェン憐れみの令(註5)、そして先の「エド城雨漏り事件(註6)などなど……。「太陽(サン)」や「日々是鏡(デイリーミラー)」といった瓦版は、連日それらを面白気に書き立て、目安箱には領民の不満が溢れ、南部藩ならば既に一揆の二回や三回は起きていても不思議で無い様相である。

    ─────────────────────────────────────
    註1:ルーニーの乱
    故あって若年より剃髪出家したルーニー大僧正(諡号「悪童大師」)が起こした謀反。真に脱藩を謀ったか、単に脱藩を仄めかして帝に諫言する一人一揆か、次期将軍の座を蹴られた腹いせか、それとも浮気騒動から衆目を反らすのが目的か──その判断は後世の歴史家に委ねよう。なお、その後和睦に至った僧正は切腹を逃れ、暫く一家水入らずで「ドバイへ所払い」の沙汰が下った。

    註2:グレイザー一族の陰謀
    帝に取り入ったマルコム・猶太守(ゆだやのかみ)・グレイザー一族による、幕府公金横領の陰謀。深作欣二監督作品『柳生一族の陰謀』のリメイク。

    註3:年貢のお取りこぼし
    ここまで敵地での勝ち星無く、依て諸藩領地からの年貢(勝ち点)も三分の一以下に。2ちゃん河原の落書曰く、「此頃マンUに流行る物、怪我人、引分け、ヘアドライヤー」。

    註4:倹約令
    「移籍市場にて華美な補強を禁ず」という御触れ。だがそれ故に「小粒補強」が横行し、果ては浮浪の浪人者まで召し抱える始末となり、結果、領民たちから多くの不満を生むことに。ルーニーの乱の原因の一つとされる。

    註5:オーウェン憐れみの令
    「可哀想なオーウェンを大切にせよ」という庶民たちへの御触れ。御触れに反し、迂闊に「マイケル・オーウェンは、もうワンダーじゃない」とか「オーウェン・ハーグリーブスはもう再起不能だろ」などと言うと、厳しい御咎めを受ける。

    註6:エド城雨漏り事件
    2mの大天守閣を誇るエド城も、いよいよ老朽化で雨漏りし、先般みすみす勝ち点を失ってしまった事件。とはいえ、「エドを斬る」放送は勘弁よ。
    ─────────────────────────────────────



2

閑話休題。ともあれ、今は斯様な大事の折。加えて本日はストーカー集団・ストーク党詮議の為、名奉行パトリス・仏国守(ふらんすのかみ)・エヴラ公が左町奉行所を空け、更には、わざわざ隠居中の大御所様、即ち先君ギャリー公(現在は闇将軍)に御出座頂いた折である。

にも関わらず、相変わらずヴィダ様が新将軍の威光を示すのは「コイントスの儀」のみ。さすれば若き日より若年寄と呼ばれ、マルチポジションの智慧者として代々将軍家に仕えてきた「おシェイ爺」も、ほとほと困り果てるは詮無きこと。爺曰く──

「天下人の勤めは、エド城前の最終ライン、引いては赤悪魔幕府全体を統率する政(まつりごと)に有る筈。にも関わらずヴィダ様は、相変わらず目先の敵に釣られてばかり。嗚呼、暴れん坊主将様、今日も市井で喧嘩流血沙汰であろうか……」

するとそこへ御正室、リオの政所(まんどころ)の御姿。一介の舞娘より身を立てて、今や大奥の主となられたお方様曰く、

「スタメンなう。爺、殿は何処じゃ」
「それがまた何処かへ……」
「もうわらわに飽いて、おエヴァの方(側室)の寝所にでも参ったか?」
「そう、お拗ねあそばされても……」
「ああつまらん。帝もいっそ、わらわに腕章を預けて下されば良かったのにのう」

嗚呼、この人も面倒くさい。

その様子、決して見逃す「ストーク党」ではなかった。いざ始まった合戦の最中、彼奴ら申して曰く、

「今の赤悪魔幕府の体たらくならば、引分けに持ち込むのは容易なことよ!」

だが、そう宣って屋敷前を固めるストーク党たちの耳に響く声が。

「その企み、果たして上手くゆくかな?」

「貴様は天下の風来坊……セルビアのヴィダーミネーターでは?」
「それは悪党どもを欺く仮の姿。その方ら、余の顔を見忘れたか」
「余の顔だと? はっ、松平健……いや、ヴィダ様!」
「ご禁制のデラップ砲密造、しかと見届けた。その方らの悪事、許すわけにはいかぬ」
「……いや、ヴィダ様が斯様なゴール前に居られるはずが無い!」
「たわけめ。セットプレイである……成敗!



3

仕留めを下々の者(攻撃陣)に任されるのは、さすがに天下人。CKをファーサイドより折り返し、南蛮渡来のルチャドール、ルチャリート(小粒補強)に成敗を任された。されど、そこで終わらぬのが今の天下の御常道。何より、番組の尺がまだまだ余っておった。

「先生、御願いします」

と、ストーク党はトゥンジャイなる素浪人を投入して曰く、

「しょせんヴィダ様は、サポも未だ認めぬ暫定将軍では無いか、斬れ斬れ!」

と、痛い所をついてきた。

対して幕府も策を練る。久しぶりの市中に興奮されて、御戯れに辻斬りあそばす大御所様にどうにか退出願い、リオの政所の付き女中である茶々局(ブラウンのつぼね)を右町奉行に登用し、更にエド城門前にキャリック砲を配置して万全を期した。

気付けば、合戦終了に僅かを残して2対1。されど果たして城を守りきれるか、不安がよぎる時間帯である。ギャリー公と並ぶ赤悪魔藩の「自爆装置」こと、御乱心の風情漂うポール師匠の様子も気掛かりだ。するとヴィダ様、皆を鼓舞して申された。

「我慢だ、我慢だ、我慢坂!

その声に呼ばれたか、城下の火消しに現れたのは、「め組」ならぬ「ベンチ組」のサブメンバー、即ち、

サブちゃん。

して、今宵のサブちゃんは、お抱え力士スモウリング(土俵)か、分身の術操るブラジル忍者か、いや、それは久しく土蔵で埃を被っていたカラクリ人形、おベルたんであった。

「俺がやらなきゃ、誰がやる」

さすがはリアルでキャリントン花壇の水やり係を務める、天下の御庭番。CSI主任ポール師匠に代わって入ったおベルたんは、見事にサブちゃんとしてのお役目、即ち乱戦の露払いを勤めた。

合戦は終わった。焼け落ちたストーク党の隠れ屋敷には、公儀隠密ショウクロスの屍が。隠密としてストーク党に潜入し乍ら、昨年はベンゲル少年使節団の小姓ラムジーを暗殺するなど暗躍して参ったが、今となっては死して屍拾うもの無し。

─────────────────────────────

所変わって、エド城。

そこには見事に新主将としての勤めを果たしたヴィダ様の姿が。

「やはりヴィダ様は只の暴れん坊ではござらぬと、爺は信じておりましたぞ!」
「爺、それよりも途中で戦場を退くとは、老いたのう」
「そう申されますな、爺とてまだまだこの通り……アイタタタッ」
「爺が元気なのは、ゴルフ場だけじゃのう。はっはっは」

………
辛抱の木に花を咲かせて勝ち点3。
されど未だ天下太平の世は遠く、
それよりルーニーが帰ってきたら如何しよう、
やっぱり領民の手前、示しを付ける為に一発かました方が良いのだろうかと、
新主将として迷いの消えないヴィディッチであった。(ナレーター/若山弦蔵)

【エンディングテーマ】


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by tototitta | 2010-10-27 21:14 | Manchester United | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第四編(最終回後半)
前半のエントリーより続く】

"これこそ ただ一つのもの"
──The Stone Roses


06

2040年、5月──30年後の未来。

マンチェスター・ユナイテッドのオーナー、故デイヴィッド・ベッカム氏の葬列は、彼の愛したオールド・トラッフォードに到着した。スタンド席、そしてストレットフォード・エンドを埋めた参列者たちは、静寂と共にそれを迎えた。

列の先導を務めるのは、サー・アレックスの後任に就いて以来、もう何十回目かのシーズンを迎える名将、ギャリー・ネヴィル監督。その手には、在りし日の親友の遺影、横田基地に降り立った際の、ベックス奇跡の一枚があった。

カイ・ルーニー主将ら、選手らの担ぐ棺は、故人の永眠地に相応しい、ピッチ上「右サイド」に掘られた穴へと降ろされた。亡父を悼む実業家ブルクッリン・ベッカム氏の言葉とともに、棺は静かに埋葬された。次期オーナーと目される氏だが、幼少時にチェルシーのユニフォームを着ていた問題が発覚し、どうやら一筋縄ではいかない模様だ。

スタジアムに歌が流れた。約40年ぶりに再結成された「The Stone Roses」の生演奏だった。その「THIS IS THE ONE」は、メンバーの年齢故かヨレヨレだったが、思えば当時もそうであったので、誰も気にならなかった。

その間ピッチの上では、引き続いてのプレミア最終節、ベックス追悼と冠された試合の準備が始まっていた。それは、今は亡きチェルスキィ教授に阻まれて以来続く、プレミアリーグ30連覇を賭けた試合だった。気を締め直すネヴィル監督。すると彼に、それまで傍らで参列していたスコールジーは言った。

「90分後に、また」

スコールジーは葬列を離れ、アウェイチームのベンチに向かった。今日の対戦相手、選手全員を赤毛で固めた、オールダムFCの監督として。この試合、勝った方が優勝だ。

ネヴィル監督は、満員のスタンドを見上げた。彼はそこに、ベックスが愛した人々、スパイスガールズ、元秘書、NBAのチアガール、そして今やスタンドの半分を占めるターバン軍団を見た。更にその向こうには、沢山の懐かしい顔があった。

バット、サヴェイジ、フィルら、かつての雛鳥たち。そして現スコットランド代表監督のフレッチャー。その傍らには、音楽業界で成功を納めたリオが、今も舎弟としてブラウンを従えている。

ジョン・オシェイは引退後にプロゴルファーに転向した。キャディに先輩D・アーウィンを従えて、今年、何度目かの全英オープンを制覇した。

ベルバトフはユナイテッドで引退後、本名のアンディ・ガルシアとしてハリウッドに戻った。念願のオスカー獲得を目指し、今は最新作『オーシャンズ34』の撮影中。

なお、そんな彼の受賞を、いつもその目前で阻んでいるのが、今やオスカー常連の名優エリック・カントナ氏である。

引退後、ヴィディッチは戦乱の母国へと戻った。今はセルヴィア共和国大統領として、バルカン半島の防衛に目を光らせている。

クリスチャーノ・ヒルトン・ロナウド氏は、婿養子として嫁いだ先で、有り余る財産とパパラッチに囲まれ乍ら、仕合せとも不仕合わせとも言えない日々を過ごしているらしい。

ルート・ファン・ニステルローイエドウィン・ファン・デルサール。面長と長身、字面も長い二人は今、南オランダで共同で牧場を経営し、夏の余暇には二人でブロークバック・マウンテンまで釣りに出向くという。そこで彼らが何をしているのか、誰も知らない。

更にスタンドには、過去のライバルたちの姿も。

今は落ちぶれて、しかし、なけなしの金を叩いて今日に参列した彼らを、オールド・トラフォードは温かく迎えた。繁栄しか知らない我々には想像もつかぬ苦労が、彼らの表情に沢山の皺を刻み、その殆どが判別不可能だった。

その中に、S・ジェラードの姿があった。当最終章第一編で、死体を探しに行った少年たちが、「ヒルズボロ」の地で出会った少年、「僕の従兄弟が犠牲になったんだ」と言っていた少年である。

傍らには、ワンダー・オーウェンが居た。三部へ降格したリヴァプールを救う為、故郷に舞い戻った彼は、今は再びマージーサイドの英雄に君臨している。なおその甲斐無く、クラブは現在、四部以下のローカルリーグに所属している。

今現在のライヴァルたちの姿も、そこに。

ロイ・キーンは愛犬と共に、ピッチに向けて目を血走らせていた。彼は今、この試合の後に控えるCL決勝の対戦相手、セルティックを率いている。彼らは、バルセロナもRマドリーもバイエルンも凋落した今、この欧州で唯一ユナイテッドに対抗し得る敵である。

その横には、かつて「日本のロイ・キーン」と呼ばれた男の姿が。今から30年前、日本代表──否、岡田選抜から外れたお陰で、南アに於ける災禍から間逃れた彼は、その後主将としてレオナルド・ジャパンをアジア勢初の優勝に導き、現在は故郷のビッグクラブで監督を務めている。なお、彼率いる「オガサFC」は、先日盛岡南公園球技場(約20万人収容)で行われたACL決勝で、鹿島アントラーズのアジア29連覇を阻んだ。クラブWCでのユナイテッドとの対戦が、今から楽しみでならない。

さて、最後に紹介しそびれた三人を──

ルーニー。現在クラブのアンバサダーを務める彼は、かつてのサー・ボビーの席から、我が子が主将を務めるユナイテッドの全試合を見守っている。サー・ボビーから譲られた帽子の下が、今どうなっているかについては、現在様々な論争が起きている。

ギグシー。いよいよ始まる2040年シーズン最終節、30連覇を賭けたオールダムFCとの試合を前に、彼は監督にこう訊ねた。

「ギャリー、今日の俺のポジションは何処だ?」

彼は今も毎日、スタジアムの控え室からピッチへと続く緑芝の回廊、別名《グリーンマイル》を歩き続けている。「W杯に出場するまで、現役を辞めない」と、毎年契約を更新している彼だが、今以て辞めさせる理由も無いのが現状。今季早々に決めた「50シーズン連続ゴール」では、ゴールパフォーマンスにて、その胸毛の健在ぶりを示した。

そしてハーグリーヴスは現在もピッチサイドで、復帰に向けてのトレーニングに励んでいる。

*          *


それがユナイテッドの2040年──僕らが未来に浮かべる、美しい物語だ。

勿論この物語は、ただの個人的な妄想かもしれない。それは、ストレットフォード・エンドからテレビ桟敷まで、世界中で僕らに声援を送るサポーターたち各々が浮かべる、それぞれの未来予想図と同様に。

しかし確かに言えるのは、夢見る限り、未来は確かに存在するという事だ。この0910シーズンの最終節、例え運命がチェルスキィ教授への鉄槌を拒んでも、だからといって何も終わらない。今日という日は、皆と共に歩む、美しい未来へと続く。

だから今日、試合に敗れても、タイトルを失っても──
そしてかつての飛行機事故のように、この先、二階建てバス10トントラックが、僕らを押し潰そうとしても、ここには、決して消えない灯りが、点り続けている。

マンチェスターには、決して消えない灯りがある
"There Is A Light That Never Goes"




──君の忠実なる友、マンチェスター・ユナイテッド


07

物語は再び2010年の現在に戻る。

この連載ブログ『ストレットフォード〜』の筆者、そして忠実な記録者である私は、今季のユナイテッドが没したライヘンバッハの滝のほとりで、彼らから宛てられた手紙を読み終え、暗い山道を帰路についた。駅までの峠の道すがら、私はこの『恐怖の5月』に経験した数々の悲しみについて、母校の先輩、宮沢賢治の一節を思い起こしていた。

「本当にどんな辛い事でも、それが正しい道を進む中での出来事なら、峠の上りも下りも皆、本当の幸福に近づく一足ずつです」

ライヘンバッハ駅に着いた私は、この場所、即ち今日の最終回の地まで、私を運んでくれた汽車に乗った。それはかつて、亡友を悼んだ賢治が空想の中で走らせた汽車だった。目に見えない真実を求めたい時、そして目に見える真実から逃れたい時、岩手県民はその汽車に乗る。やがてそれは、盛岡駅に着いた。私はホームに降り立ち、その二度と乗車する事の無いだろう汽車を見送った。

赤悪魔署は、私の心の中にだけいる空想。
赤悪魔署は、私の少年の日の心の中にいた、青春の幻影。
今、万感の思いを込めて汽笛が鳴る。今、万感の思いを込めて汽車がゆく。
一つのシーズン、一つの連載が終わり、また新しい仕事が始まる。
相方と共に、リアルで、ほんの少しながらユナイテッドに関係する仕事も始まる。

さらば 赤悪魔署
さらば ストレットフォード・エンドに吠えろ!
さらば イングランドプレミアリーグ 09 - 10シーズンの日よ


【完】


─────────────────────────────

ENDING

「ね、正しく彼の最後の原稿ですよ」

最終回と銘打たれた原稿を読み終えて、フレッド・ザ・レッド君は言った。確かにその物語の結末は、この架空世界に生きた著者の死、妄想との永訣を示唆していた。しかしボス、サー・アレックスは言った。フレッド、お前は騙されている、と。

「これは奴の仕掛けたトリックだ。ライヘンバッハの滝──なぜ奴がこの最終回にそこへ赴き、名探偵ホームズの『最後の事件』を引用したか。それはその『最後の事件』が、実は『最後』ではなかったかからだ。ホームズは後に『帰還』したのだよ!」
「何だって……そ、そんな! 俺は騙されてたのか!」
「なぜ奴が、お前の様な着ぐるみを巻き込んだか、判るか?」
「ネタに困ったからじゃないのか──」
「それはお前が、人を信じやすい純真な心を持ったマスコットだからだ」

よろめきながら、フレッド君は彼のオフィスを出て行った。俺はバカだから、奴に利用されたんだ……そんな言葉を漏らしながら。

そんな哀れな着ぐるみを見送りながら、ボスは思った。必ずこの筆者を捕えて、斯くも毎週に読者を混乱せしめた罪を償わせてやる。奴はもう、幻じゃない。それも我々の、すぐ近くに居る気がする……。

すると、立ち上がったボスは、何かに蹴つまずいた。それは空っぽの植木鉢だった。もう少し整理整頓を──そう思ったボスだったが、その瞬間、ある言葉を思い出した。

"長年育てたサボテンが枯れ……"

ボスの手からコーヒーカップが滑り落ち、割れた。

ボスはオフィスを見渡した。散らかった机には、キング全集、ホームズシリーズ全巻、モルダーのUFOポスター、寝違え再発防止枕、DVD棚にはCSIマイアミ、はぐれ刑事純情派ほか……それは総てマスコットには不要な筈の、まるで今日までの長期に渡り、何かを書くために集められた資料の様相。

"とっくにお前は、お喋りじゃないか……"

お喋り、ヴァーヴァル、カイザー・ソゼ、ジョン・ドゥ、なるほ・ドゥ……なるほ堂!

ボスは署を駆け出て、表の「バスビー通り」の往来に、彼の姿を探した。だが、そこはいつもの光景、ユナイテッドのサポーターたちが歩いているだけだった。まだ俯き加減の彼らは、その路上につい先程あった光景に、誰も気付くことは無かった。

煙草に火をつけながら歩くフレッド君。そして、そのフレッド君の被りものを一つ一つ脱ぎ捨てて、やがてその《パートナー》であるイラストレーターの車中に消えた男。

奴の凄い所は、自分の存在を謎にした事だ……
彼を直接知っていたり、会った人間は一人も居ない……
奴は……それらを毎回ブログにアップして、そして……

フッ、消えた。

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by tototitta | 2010-05-23 15:50 | Manchester United | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第四編(最終回前半)

"悪魔を見た 悪魔と目を合わせた"
──ヴァーヴァル・キント

01

「一体なぜ、こうなってしまったのか……」

赤悪魔署のボス、サー・アレックスはそう呟いた。指で覗いたブラインドの先には、オールド・トラッフォードの無人の芝生が映った。既にシーズンオフである。彼の悔恨は、プレミア4連覇を逸したことでは無かった。敗北は勝負の世界の習いとして、これまで幾度も受け入れてきた。勝利だろうと、敗戦だろうと、我が人生に悔いは無い、それがボスのモットーである。彼の思いは別にあった。

昨年8月、プレミア開幕と共に始まった連載ブログ「ストレットフォード・エンドに吠えろ!」。当初はプレミアリーグの治安を守る警察組織、「赤悪魔署」を舞台とした刑事ドラマであったはずだ。なのに、

「途中から設定が変わり過ぎだ……」

映画、漫画、聖書、ホラー小説、歌謡曲、Xファイル、スターウォーズ、ガンダム……筆者の偏向的知識による都合、というか趣味により、どれほどの読者が混乱に陥ったことだろう。例え途中にアクシデント、主役ワンダー刑事の殉職があったとしてもだ。

しかもこの最終章シリーズは、スティーブン・キング『恐怖の四季』(※)が原典であるという。そんなの誰が判るというのか。
(※「スタンド・バイ・ミー」「刑務所のリタ・ヘイワース」「ゴールデンボーイ」「マンハッタンの奇譚クラブ」の四編からなる短編集)

当初の人物設定も、ほぼ原型を止めていない。ギャリー・ネヴィルに至っては、開始時の刑事(デカ)長役から、ダーティー・ギャリー、ネヴィルマン、ネヴィル神拳伝承者、ゲイ・ネヴィル……番外編ではC3POと、もはや人ですら無い。一貫して変更の無いのはベルバトフだけか。アンディ・ガルシア(声・細川俊行)は、動かし様が無い。

しかし、その不逞を問い正そうにも、奴はもう死んだ──少なくとも調書の上では。この最終章第一編「スタンド・バイ・ミー」の序で、狂気に走った著者は、執筆中の山上ホテルの庭で、凍死体で発見されている。これまたスティーブン・キングの小説『シャイニング』であるが、そんなのにもう付き合ってられるか。

まあいい。これで二度と、奴に振り回されことも無いだろう。だが──

「本当に奴は死んだのだろうか?」

ボスの中に、受け入れ難い何かがあった。思えば今季、赤悪魔署の連覇を阻んだのは、獄中で一度死んだはずの凶悪犯チェルスキーだった。また、奴の遺体を検屍したポール・スコールズ警部補は、誤認逮捕、誤認タックルの名手だ。

きっちりと決着を付けなくては。愛する孫たちと、静かな休暇を迎える為にも。


02

既にオフに入った署内には、ボス以外に人影はなかった。W杯の準備に帰国した者、またはギグス主催の「W杯期間中・過ごし方教室」に向かった者。今年は参加者が多そうだ。

「だが、あいつは未だ居るはず──」

ボスは赤悪魔署のマスコット、フレッド・ザ・レッド君のオフィスルームに向かった。人気者の彼は、「部屋持ち待遇」だった。しかし、そこもまた無人だった。その部屋は随分と散らかっていた。困ったものだ。

やがて帰署したフレッド君。彼を迎えたのは、自分の椅子に座るボスの姿だった。ボスのコーヒーカップからは、香りと湯気が立ちこめていた。フレッド君は驚き、青ざめた。

ボスの尋問が始まった。

「お前は、奴と面識があるそうだな」
「奴とは?」
「作者……なるほ堂」
「ファック・オフ!」

どうしてその名前を……聞きたくなかった名前を持ち出されたフレッド君は、顔を真っ赤にして机を叩いた。まあ、著者名は毎回ちゃんと表記されているのだが。ともあれフレッド君の反応は、ボスが予期した通りだった。それは「作者オチに名作無し」という、この最終回の展開への憤りでは無く、恐怖だった。

「ぼ、僕は着ぐるみなので、何も喋りませんよ」
「とっくにお前は、お喋りじゃないか」

ボスの手にヘアドライヤーが握られているのを目にしたフレッド君は、諦めたように煙草に火をつけて、語り始めた。


03

「断っておくがボス、俺が会ったのは本人じゃない。その《代理人》を称する奴だ」

「構わん、続けろ」

「事件の始まりはこう。ある日俺は、フィッシュバーの店頭で誘拐された──。


監禁場所に現れたその《代理人》は、俺に向かって言った。

『物語に使いたい選手が、該当試合に招集外だった場合、着ぐるみの《中の人》として起用させて貰う。それに了承たまえ』

──と。それは奴の《パートナー》からの提案、いや命令だった」

「そんなマメな交渉を……ワシには何の断りも無かったぞ!」

「俺は従うより他無かった。俺は恐ろしかった。噂では、これまで奴はその妄想の中で、沢山のクラブ、選手を血祭りに上げてきたらしい。しかも、奴の応援するクラブや選手に逆らった者は、本人どころか、その家族までネタにされて……」

ジョン・テリーの事だな」

「しかも、奴の凄い所は、自分の存在を謎にした事だ。彼を直接知っていたり、会った人間は一人も居ない。噂なら幾らもある。ルーニーの自画像に似た、左半身に障害がある男だとか。いや、悪いのは腰だとか。風呂で読書が趣味だとか。だが、全て噂に過ぎない。奴はユナイテッドの試合がある度に、その鉄の意志で物語を紡ぎ出し、それらを毎回ブログにアップして、そして……フッ、消えた」

「ただの引き蘢りブロガーじゃないか」

「もう奴に触れるのは止した方がいい。第一、奴はもう死んだ」

「いや、奴は本当に死んだのだろうか。本当に今回で、この物語は最終回に……」

「でも、ボスも奴の検屍結果を見た筈だ。遺体に残った複数の銃弾……ユナイテッドのV逸、応援選手の軒並みのW杯代表落ち、鹿島のACL敗退、更には長年育てたサボテンが枯れ、その上ソファーで寝違えて首痛発症。こうも短期間に、これほど連続で痛手を受けて、それで生きているはずはない」

「サボテンと寝違えは知らなかったな」

そのままボスは押し黙った。フレッド君の証言にも、疑惑は逆に深まるばかりだった。彼の言う通り、これまで誰も作者近影を拝んでいないなら、例の遺体を「なるほ堂」と断定するのは不可能なはず。つまり替え玉、そしてまた何処かで悪巧みを……。

だが、そんなボスに呆れるように、フレッド君は一通の封筒を差し出した。

「いい加減ボスも、これを読めば判るでしょう。今回のエントリーが、奴の最期だと」

朱い「重要証拠」と捺された封筒には、数葉のタイプ用紙が入っていた。それは、例の遺体発見現場から押収された『ストレットフォード〜』の最終回、最終章の原稿だった。ボスはそれを眺めながら呟いた。

「やっと本編か……」


─────────────────────────────

04

最終回『マンチェスターの赤鬼譚クラブ』

記/なるほ堂、監修/minaco.




先ず始めに、筆者である私から感謝を。赤い悪魔の戦士たちが、かの名探偵ホームズならば、私はその記録者ワトソンであり、今私が一人立つ場所は、あのライヘンバッハの滝に例えるのが相応しいだろう。

1シーズンに渡る犯罪者たちとの戦いを経て、今、赤い悪魔たちは滝壺の中に消えた。眼前にあったはずの、彼ら勇者に相応しい栄光を手にする事叶わず。その断崖に残された痕跡が、宿敵──即ち、倫敦に巣食う犯罪王チェルスキィ教授との、プレミア終盤戦に於ける一騎打ちの結末を表わしていた。両者がもつれ合ったらしきそこからは、チェルスキィ教授の足跡だけが、スキップを踏むように倫敦の方角へと伸びていた。

私は腹這いになって、吹き上げてくるしぶきを全身に浴びながら、下を覗きおろした。

「ユナイテッドォ!……」

彼らの名前を喚いてみたが、耳に帰ってくるのはただ水勢の唸りばかりだった。

結局、私は受け入れるより他無かった。第一回『ワンダー刑事登場!』より記して来た当連載の最終回、即ち『赤い悪魔の最後の事件』を、悲劇として描かねばならぬ現実を。

しかしその時、私は滝壺に至る断崖の縁に、何やら光るものを発見した。それは今季のユナイテッドの唯一のタイトル、カーリングカップだった。そしてその下には、私に宛てられてた、小さな四角い紙切れが置かれていた──


05

親愛なる著者くん── 

僕らは今、この長かったシーズンの決着となる最終戦が始まる前に、僕らを待ってくれているストーク選手団の好意によって、この手紙を書く。

この90分を終えた時に、僕らと犯罪王チェルスキィ教授との闘争の結末がどうなっていようとも、彼らの害毒からプレミアリーグを守る為に戦った一年に悔いは無く、むしろそれは僕らの誇りだ。確かに、結果如何では色々と言いたい人も居るだろう。でも僕らは信じている。「ユナイテッド」とは、只のクラブ名では無い。それはクラブとサポーターとの「絆」を表す言葉だ。

僕らは今、この最終節に至るまでの道筋を、明白に振り返る事が出来る幸運に感謝している。君が、僕らの今シーズンを記録してくれたお陰だ。先ず特筆すべきは、遂に完全開花したルーニーの才能。ファーギー流に日記に書けば、こうだ。

「今振り返っても、今季開幕前に複数の攻撃選手を我々が売っ払った行動は、ウェイン・ルーニーを成長させたという一点のみで正当化されると確信している」

そして、ワンダーとスコールジーのロスタイム弾、ハグレの復活、ピッチ上で永遠の愛を誓い合ったベテラン二人など──今季ユナイテッドの残したドラマや奇跡は、連覇を果たした過去三年に劣らないと、自負して許されるだろう。

だからもし90分後、僕らの身がこのライヘンバッハの滝壺に消えていたとしても、思い出して欲しい。それは「0910シーズンのユナイテッド」に過ぎないってことを。人はフットボールに、四季の移ろいを見る。しかし、僕たちユナイテッドは、永遠の夏の中に在り続ける。

だが、フットボールにはもう一つの四季がある。それは、選手個人にとっての四季。そこに永遠は無い。新緑の春、眩しい日差し注ぐ夏、稲穂が頭を垂れる収穫の秋、そして木枯らし吹く晩秋から、冬へと。

ルート、満男、ロナウジーニョ、リケルメ、ラウル、トッティ──多くの人が、今日まで心の支えとしてきた選手のW杯代表漏れの報せに、その選手のキャリアが今、晩秋に差し掛かった現実を察しただろう。

しかし、落ち穂を拾う晩秋にこそ名画が生まれる事を、今シーズンのユナイテッドは示した。「サー」授与も目前、老獪どころか妖怪じみて来たギグシー。復活を遂げ、再びピッチに「腕章を巻く者」としての誇りを示したギャリー。長い放浪の途上で、一時帰郷したベックス。そして、全く不変のスコールズ

彼らの姿は、多くのフットボールファン、そして選手たちへの福音だ。その価値は、勝敗を越えたもの、これは強がりでも何でもない。スコールジーが、ギャリーが、それに最年長エドも、契約延長にサインした。もしユナイテッドがチェルスキィ教授を取り逃がしたとしても、それ以上の勝利を、君は既に手にしている筈だ。

今、この晩秋の素晴らしき蓄えは、やがて訪れる冬の糧となるだろう。物心つく頃から日常の「彼らの《プレー》を応援する喜び」は、いつしか消える。だがそれは、それだけのことだ。その先には更に長い「彼らと共に、《人生そのもの》を歩む喜び」がある。怖れるな。冬にこそ咲く花もあるのだ。

では、最後に君に贈り物だ。晩秋の翳りに怯える心を完全に葬り去る為にも、君が尻切れで終わらせた第一編『スタンド・バイ・ミー』の結末を見せてあげよう。冬の美しい物語を完成させよう。

後半へ続く】
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by tototitta | 2010-05-23 15:46 | Manchester United | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第二編(全四編)
『刑務所のバネッサ・ペロンセル』
──もしくは『ストレットフォード・エンドの空に』

記/なるほ堂、監修/minaco.



2010年1月下旬。

愛称「ボス」で知られるサー・アレックスは上機嫌だった。彼率いる「赤悪魔署」の捜査の手、いわゆる「魔の手」が、遂に2ポイント差で逃走中のロシアンマフィア『チェルスキー』一味を捕えたのだ。

一味の若頭、表稼業ではイングランド代表主将を務めるエリートのジョン・テリー容疑者も、既に司法の掌中にあった。彼は友人ウェイン・ブリッジ氏の元カノに手を出した罪状で逮捕され、法廷で代表主将剥奪と終身刑を言い渡された後、オールドトラッフォード区内に立つ『ストレットフォード・エンド刑務所』に収監された。

「諦めろ。一旦ユナイテッドに勝ち点差で捕まったら、もう逃げるのは不可能だ」

古株の囚人たちは、新顔のテリーに言った。確かに過去3シーズン、赤い悪魔の追撃から逃げ遂せた者は居なかった。刑務所内のリヴァプール房マンシティ房ガナーズ少年受刑房……先にそこへ収監された連中は、せめて4位以内でのCL出場権の夢を見ながら、仮釈放の日を待つだけだった。

テリーの再審請求は全て却下された。両親も自分たちの公判で手一杯で、彼の独居房には明治製菓チェルシーの差し入れすら無かった。失意のテリーを、更に悲劇が襲った。2月27日のプレミア第28節シティ戦、被害者ウェイン・ブリッジ氏に指示された札付き二人組、エリート嫌いのテヴェス、ベラミー両受刑者らにより、彼は獄中でレイ-プされた。

彼の唯一の慰めは、囚人の中の「調達屋」から手に入れた一枚のポスターだった。独居房の壁から終身囚テリーを見守る女、「バネッサ・ペロンセル」なるフランス人下着モデルらしいが、そんな無名モデルのことなど、誰も知らなかった。
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しかしその調達屋は、テリーから他の囚人たちとは違う雰囲気を嗅ぎ取っていた。「こいつは、何かをやらかす気だ」と。調達屋のキャラガー、久しく日の目を見ていないリヴァプール房所属長期囚の一人。その囚人服の色と、すぐに紅潮する頬の色から、刑務所内では「レッド(赤)」と呼ばれて一目置かれている。

「テリー、今年もプレミアのタイトルレースは終わったな」

食堂、向い合うキャラガーの言葉に、しかしテリーは答えた。

「レッド、人の心には誰にも奪えないものがある。希望だ

希望──しかしキャラガーは同意しなかった。ベニテスに、トーレスに希望を見たばかりに、遂にはビッグ4の座からも追われたリヴァプール。噛み締めるように彼は言った。

「ひとつ言わせてくれ。希望は危険だ。希望はサッカークラブを狂わせる

食堂の片隅、その言葉にリーズ監房の囚人たちは、小さく頷いた。

◆          ◆


しかし、それは起こった。2010年4月4日、刑務所の廊下を慌ただしく走る看守たちに気付いたキャラガー。こういうのは大抵、受刑者の中に急病人か死者……赤い悪魔を敵にした事を後悔して、首を吊った自殺者が出たときだ。だが、テリーの独居房に看守たちが発見したのは、死体でも病人でもなく、ひとつの謎だった。テリーの姿はそこに無かった。

数時間の無駄な捜索の後、怒りに任せて刑務所長は、独居房の壁で微笑むバネッサ・ペロンセルのポスターを剥ぎ取った。すると、彼らがそこに見たのは、大きな穴だった。その穴は希望へと続いていた。翌日キャラガーは、「プレミア第33節、チェルシー首位再浮上」という新聞を眺めながら、静かに笑った。

「ジェイミー・キャラガー、釈放だ」

そんな思いもよらぬ報せを受けたのは、テリーが脱走に成功し、赤い悪魔の4連覇の野望を打ち砕いてから、暫く後だった。頼んでも居ないのに、イタリア人のカペッロなる弁護士が、仮保釈の請求を出していたらしい。

だが、今更自由を得たところで、彼が自分の居場所を娑婆に見つけるのは困難だった。来季のCLに出場出来る訳も無く、身売りされた故郷リヴァプールはガタガタだった。そこに希望など無かった。そんな時、彼はテリーのことを思い出した。獄中でテリーは、出所したら「ルステンブルク」に行くと言っていた。もし君も来れたら、一緒に──それが俺の「希望」だと。

キャラガーはバスに乗った。

「必死に生きるか、必死に死ぬか。どちらかだ」

それはかつて、獄中のテリーが口にした言葉だった。キャラガーを乗せたバスは、「ルステンブルク」に向かった。それはW杯南アフリカ大会、イングランド代表メンバーたちのキャンプ地。

どうか テリーがあそこにいますように
どうかうまく 国境を越えれますように
どうか親友に再会して やつと握手ができますように
どうかこれまで 当ブログで散々酷く扱われたチェルシー他のサポーターが
筆者を怒っていませんように
どうかイングランド代表が 夢の中と同じように W杯で優勝できますように

それが俺の、「希望」だ。


【FIN】



第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』了。
第三編『ゴールデン・ボーイ』へと続く(近日公開)。

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by tototitta | 2010-05-17 20:16 | ▲ TOP
最終章『恐怖の五月』第一編(全四編)
”乗り越えるには、小説を書けばいい”
──(500)日のサマー


はじめに

日本のキャッスル・ロックと呼ばれる岩手県。その地を見下ろす名峰・早池峰山に立つ白堊のホテルは、五月にして未だ雪深く閉鎖中であった。「彼」の遺体が発見されたのは、その中庭。早朝、迷路の様な生垣の中で、ここに赴任して間も無い管理人一家の夫、小説家志望だったというその男は、薄ら笑みと共に凍り付いていた。

まるで何か、得体の知れぬ力(Shining)に取り憑かれたように──豹変した男の斧から逃げ遂せた妻子の証言を、保安官はそう記している。僅かな実益と、或る長編小説の結末を仕上げる為、この五月にホテルに赴いた男。だが、丁度その五月に入った頃から、彼は激しい幻覚、恐怖に苛まれ始めたらしい。それはやがて、狂気へと。

「プレミア4連覇が……W杯代表メンバーが……通路の先にブラジル人の双子が!」

一見、遺体に外傷は無い。だが、鑑識を務めるCSI主任警部補の目は誤摩化されなかった。その遺体の心に空いた無数の穴、その全てが致命傷だった。プレミアリーグの最終結果、ACLの鹿島アントラーズ、W杯代表メンバー発表、満男は、馬は、ワンダーは……。

やがて、警部補の携帯電話が鳴った。電話の先で、気取ったイタリア人は言った、「南アフリカに一緒に来てくれないか」。だが、警部補は斧で壊された扉の先にある男の部屋を覗き込みながら、答えた。

「断る」

彼は、男のタイプライターに遺された原稿を見つけた。『恐怖の五月』と題された、短編集。

4人の少年の友情と死を描いた、第一編『スタンド・バイ・ミー』
脱獄に成功した男の話、第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』
赤い悪魔に魅入られた少年の話、第三編『ゴールデン・ボーイ』
第一編の続編を含む最終回、第四編『マンチェスターの赤鬼譚クラブ』

ポール警部補は、その原稿を手に、赤毛を掻きながら言った。

「遂に見つけたぞ、なるほ堂」



『スタンド・バイ・ミー』

記/なるほ堂、監修/minaco.

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2040年、5月──
最後にマンチェスター・ユナイテッドがプレミア優勝を逃したシーズンから、既に30年の歳月が流れていた。オールド・トラッフォード区に立つ教会。そこでは、しめやかに葬儀の仕度が整えられている。葬儀委員長を任された私──ギャリー・ネヴィルは、祭壇前に安置された棺の中に、彼の名前を呼んだ。

ベックス……

その死は突然だった。先日のCL準決勝、ユナイテッドはロスタイムのCKから大逆転勝利を納めた──そう、まるであの時の様に。ベックスはその様子を、スタンドのオーナー席から見守っていたが、その瞬間、かつて世界中の女性が射止めようとした彼のハートは小さな発作を起こし、そのまま彼は還らぬ人となった。享年65歳。傍らにいたブルックリン・ベッカム次期オーナーに依れば、彼の最期の言葉は愛する妻の名でも、息子たちの名前でもなく、「ユナイテッド……」だったと言う。

再び教会。棺の中に眠るベックスの胸には、誰が置いたのか、一枚の古い写真(↑)が置かれていた。

左からギグシー。まるで生き急ぐかの様に、無茶ばかりするスピード狂の少年。かつてラグビー界の英雄であった父親(彼もまた「ウィング」であった)を尊敬しているが、その家庭内暴力に悩まされていた。やがて両者は決別することになる。

その次がベックス。私たちのリーダー格。華やかな世界、外の世界に対する当時からの憧れは、私だけが知る彼の心の闇の裏返しだった。だがそれが、やがて熟年離婚する両親に吹く隙間風のせいだったのか、彼自身の酷いロンドン下町訛りのせいだったのか、今も私には判らない。

三人目が私、ギャリー。いつかユナイテッドのキャプテンになる事を夢見ながら、しかし自分の才能への疑心に揺れていた頃の。クリケット界の大物だった厳格な父ネヴィル・ネヴィルには、そんな不安な気持ちを打ち明ける事など出来なかった。

最後がスコールジー。当時の愛称は「太っちょ」。

私の思いは、その古い写真の時代へと吸い込まれた。スコールジーがある日、クリフの練習場裏にあったツリーハウスの梯子を、息を切らせて登ってきた。固い友情で結ばれていた私たち4人の「雛鳥」たちにとって、樹上のそこは恰好の「秘密の隠れ家」だった。練習後、こっそり煙草を吸ったり、下品な話に花を咲かせたり──スパイスガールズで誰がお気に入り?みたいな。そこへ遅れてきたスコールジーは、太っちょのせいか、持病の喘息のせいか、未だ整わない息で私たちに言った。

「死体を探しに行かないか?」

◆          ◆


1989年、5月──
こっそり家を出た私たち4人の少年は、線路の上を並んで歩いていた。

その後も私たちは、自分たちだけの小さな冒険旅行を経験している。「FAユース杯を取りに行こうぜ!」とか、「スパイスガールズに会いに行こうぜ!」とか。その折々に、他の悪友たち(サヴェイジニッキー、そして私の弟フィルら)を伴って。だが、この時の冒険ほど、今なお鮮明に残るものは無い。恐らく他の三人にとっても。

「本当だよ。不良たちの会話を盗み聞きしたんだ。死体があるって」

線路を平均台の様にして進みながらも、内心は半信半疑の私たちを見透かして、スコールジーは何度も言った。カントナ、キーン、インスら、街の札付きの不良グループが見たという死体は、この線路の先にあるらしい。やがて、私たちは河上の鉄橋にやってきた。怖れ知らずのギグシーが鉄橋を渡りだし、私たちもそれに続いた。すると、

「traaaaain!!(汽車だーっ)」

線路を震わす物音に気付き、私は皆に叫んだ。逃げ場の無い鉄橋を走る4人。ベックスとギグシーは走り抜け、私は足がもつれたスコールジーを押し乍ら、何とか難を逃れた。続いて沼地に迷い込んだ私たちを、今度は巨大なヒルが襲った。頭に吸い付かれたスコールジーは、それ以来、終世頭の痒みに悩まされる事になった。

夜になった。

焚火を囲む私たちの話題は、この旅が終わって、このアカデミー時代が終わって──その先の話に。ベックスは、将来広告塔となるペプシを飲みながら私に言った。

「お前は、いつかきっと素晴らしいキャプテンになる」

と。そして、こう続けた。

「お前が気転を利かせなきゃ、俺たちはあの鉄橋の上で全員お陀仏だった。お前ほど信頼出来る奴はいないさ。お前なら、俺の将来の嫁……ヴィクトリアと裸で二人きりにしても心配無いね

翌日、私たちは目的地へと辿り着いた。そこはシェフィールドのヒルズボロ・スタジアムだった。そこにあったはずの死体は既に片付けられ、彼らは手厚く葬られ、だが恐ろしいほどの圧力でねじ曲げられたらしい客席のフェンスが、つい先日あった事故「ヒルズボロの悲劇」の爪痕を残していた。

圧死した96人の霊を悼む人々の中に、リヴァプールFCのレプリカを着た、私たちより幼い少年が居た。「僕の従兄弟が犠牲になったんだ」と彼は言った。

翌朝、私たちは町に帰り着いた。一晩中歩き通したのだ。全員足にマメを作り、たまらなく腹が減っていたが、皆ただ黙って歩いた。その間、私たちは噛み締めていた──私たちがこれから生きていくだろうフットボール界は、いつも悲劇と隣り合わせなんだということを。私たちは大人になった。大抵の少年たちが大人になるきっかけは、「死体」や「死の現場」を見た時だ。

ギグシー、スコールジーと別れた後、マンチェスターの街を眺めながら、ベックスは疲れた声で私に言った。

「俺は、この街から出て行けないだろうな……」
「出て行きたいのかい?」
「いや、望む望まないに関係無く、俺はこの街、いやフットボール界に留まらない、もっと広い世界に行かなくちゃならないんだよ」

寂しさを隠して、私は答えた。「ベックスなら、きっと行けるよ」と。
すると彼は、私に右手を差し出して言った。

「握手しようぜ」

◆          ◆


再び2040年、5月──
葬儀は厳かに進んだ。「またワシより先に若い奴が……」というサー・ボビー・チャールトンのいつもの弔辞と、何十回目かの再結成も不発に終わったヴィクトリア未亡人率いるスパイス・ガールズの葬送歌が、弔問客の涙を誘った。

献花の長い列に、私はスコールジーサー・ギグシーの姿を見つけた。私がキャプテンという夢を叶え、ベックスもその大きな夢を叶えたように、彼らもまた、あの日の夢を叶えた。スコールジーは「太っちょ」の代わりに「赤毛」と呼ばれ、やんちゃだったギグシーは「胸毛」と呼ばれ、それぞれのポジションでサッカー史上最高の選手に成長した。

あの日以来、私たち4人の「雛鳥」が樹上の小屋に集まる事は減り、やがて絶えたが、しかし、掛け替えの無い友情は続いた。「STAND BY ME(僕を支えてくれ)」と声に出さなくても、互いに支え合い、互いに困難を乗り越えた。

例えば最期に我々がプレミアタイトルを逃した2010年。そうチェルスキーに優勝を奪われたあの年。限界が囁かれていた私を救ったのは、彼らとの友情だった。裏庭でベックスが教えてくれた右足のクロスボール。そしてスコールジーのロスタイムゴール。あの日の彼とのキスは、互いの夫婦関係に大きな溝を残したが、今でも私たちの誇りだ。

俺たちの親父、ファーギーがベンチで突然死した時もそうだった。動揺するユナイテッドを買収し、救ったのはベックスだった。「AC美蘭」とかいうホストクラブや、広告写真でパンツ一丁になってまで稼いだのも、全てはいつか危機に陥った際に、故郷ユナイテッドを救う為だった。

葬儀は終わった。

「監督、準備が整いました」

カイ・ウェイン・ルーニー主将の声に、私は少し気付かぬまま、やがて思い出すように振り返った。彼が呼んだのは、そう、私のことだ。この後はベックスの埋葬、そして引き続き彼の追悼試合、30連覇を賭けたプレミアリーグ最終節が控える。

教会の扉が開き、ユナイテッドの若き選手たちが棺を抱え上げた。マンチェスター・ユナイテッドFC第20代監督である私ギャリー・ネヴィルを先頭に、英雄ベックスの埋葬場所へ向かう行進が始まる。私に手渡された遺影、それには生前の彼の、「最も思い出深い一枚」が選ばれた。

さあ行こう、オールド・トラッフォードへ。

【FIN】

─────────────────────────────

【エンディングテーマ/『Stand by me』Ben E. King】



夜になって 地上が暗くなって
月だけが唯一の明かりとなっても
いや、僕は恐れないよ そう、僕は恐れない
君がそばに、僕のそばにいる限り

だから、ダーリン、ダーリン
そばにいて ねえ、そばにいて
僕のそばで支えて 僕のそばにいて

もし僕らが代表の座や タイトルを失って 
プレミア4連覇の夢が崩れ落ちても
でも、僕は泣かないよ そう、僕は泣かない
絶対、一滴の涙も流さないよ
ギグシー、スコールジー、ベックスがそばに、
ギャリーのそばにいる限り
だから、ダーリン、ダーリン……

─────────────────────────────
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【遺影】
─────────────────────────────


第一編『スタンド・バイ・ミー』了。
第二編『刑務所のバネッサ・ペロンセル』へと続く(近日公開)。

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by tototitta | 2010-05-16 17:01 | Manchester United | ▲ TOP
第三十七話『X-ファイル:ハーグリーヴスを求めて』
(記/なるほ堂、絵と監修/minaco.)

【#37 Sunderland 0 - 1 Man Utd】


01

── モルダー、あなた疲れてるのよ

いや、スカリー。疲れているのは僕じゃない、ユナイテッドだ。

僕はFBIで超常現象事件を扱う「X─ファイル課」のF・モルダー捜査官(声:風間杜夫)。僕は信じたい……我々には伺い知れない真実が、どこかに必ず存在するということを。イエティ、チュパカブラ、オベルタン、この世界には「UMA」と呼ばれる、未だ謎の怪生物たちがいる。僕が今、この管轄外の英国に逗留している理由もそれだ。

「ハーグリーヴス」

その名前、スカリーも一度くらいは耳にした事があるだろう? いや待って、最後まで話を聞いてくれ。

80年代の初頭、かの雪男「ビッグフット」で有名なカナダのカルガリーで最初に目撃されたハーグリーヴスは、その後、旧ナチスドイツ領のバイエルン地方に「大きな足跡」を残し、07年以降はネッシーやミステリーサークルといった超常怪奇現象の本場である英国で、ごく数回だけ目撃されている未確認生物だ。

「あれは想像上の生きものだよ」
「下水道の中で作業員が目撃したらしい」
「二足歩行するらしいね」
「いや、もう二足歩行は出来ないらしいよ」


あまりの目撃例の少なさに、半ば「都市伝説」化していたハーグリーヴスの存在。しかし僕は先日、約1年半ぶりにそれが英国マンチェスターのオールド・トラッフォードで目撃されたという情報を入手し、早速単身でこの地に乗り込んだわけだ。

オールド・トラッフォード──後に映画『アンブレイカブル』やTVドラマ『LOST』の原典となった、かの航空機事故より奇跡的生還を果たした人々(一説では、彼らは人では無く「悪魔」とも)が築いたとされるその建築物は、現在も英国蹴球界の治安を守る警察組織『赤悪魔署』として現役の傍ら、数々のオカルト超常現象の舞台とされている。

ロッカールームで頻発するポルターガイスト現象、人間を襲うサッカースパイク、ヘアドライヤー。シーズンオフの度に銀河系から飛来するUFO及びエイリアンによる「アブダクト(誘拐)」事件。時間軸が歪んで変化する、ロス・アラモスならぬ「ロス・タイムの謎」。影の政府の陰謀か、謎の念力「PK」の発現。著名なゴール狩人のワンダー・オーウェン氏が突如姿を消した、いわゆる「人体消失」現象。今も伝わる不老不死の胸毛人間の伝説。かつて、喋る馬が駆けたという緑のターフ。

中でも特筆すべき事件、05年にこのオールド・トラッフォードの地で起きた超常現象の体験者である、ロイ・キャロル氏との接触に僕は成功した。

「あれ、ゴールでねじゃ。オレよあん時、ゴールラインが曲がるのば見たんだず」

そう言って、彼は一枚の写真を見せた。
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よくある精巧な偽造写真だろうか。いや、違う。僕は答えた。

「んだな。んだがおめ、キャロルじゃねべ。やまがだ弁のダニエル・カールだべ」

その時だった。全面禁煙のオールド・トラッフォードに漂う紫煙。現れたな、スモーキングマン。通路の先の暗闇に立つ男に、僕は訊ねた。

「教えてくれ、ハーグリーヴスは実在するのか?

スモーキングマンは暫し後、言った。

「ハーグリーヴスは、実在する。人類はやがて、その存在を目の当たりにするだろう

不気味な予言と共に、スモーキングマンは再び闇に消えた。僕は奴の去った場所から、奴が落としていったらしい「マッチ箱」を拾い上げた。ハーグリーヴス発見の手掛りを得た興奮に、僕の耳には、遠くから響く「ここは禁煙ですから、我慢して下さいよ。ベルバトフさん」という係員の声など入らなかった。

僕は車を走らせて、マッチ箱が示す場所に向かった。待ち受けるのは政府の妨害、宇宙人の陰謀だろうか。でも止めないでくれスカリー、僕がやめたら、奴らの勝ちだ。そうだろう、スカリー?

── モルダー、あなた疲れてるのよ



02

「確かにこのマッチは、うちの店でお配りしている物ですけど──」

高級バー『さくら』の美人ママ(眞野あずさ)は答えた。しかし、未確認生物ハーグリーヴスに心当たりは無いと言う。すると、気転を利かせた店員の詩織ちゃんが言った、「もしかして、ハグレ刑事の事じゃないかしら?」。ハグレ刑事──その名前と、いつもハグレてばかりいる様からそう称される、復帰“慎重派”の赤悪魔署名物巡査長だ。

だが、ハグレ刑事は今年2月に惜しまれ乍ら亡くなられたはずでは? しかし、ママはボトル棚に彼愛飲の養命酒を指して言った、「やあねえ。ハグレさんは、今も毎日の様にいらしていますよ」。やはり僕は疲れているのだろうか。

ますます深まる、未確認生物ハーグリーヴスの謎。僕はママに供された「当たり前田のクラッカー」を養命酒で流し込みながら、カウンター越しのテレビを眺めた。何かのドタバタ系映画の「NG集」らしい。主演はアンディ・ガルシア。何処か、先程の「スモーキングマン」を思わせる姿。気のせいだろうか、スカリー。

僕はスポーツ新聞の番組欄に、映画の題名を求めた。今話題の『アリス イン ザ ワンダーランド』? ──いや、違う。そこにはこう記されていた。

『ギグス イン ザ サンダーランド』

アンディ・ガルシアの「NG集」というのは、僕の勘違いだったようだ。まあそう誤解しても仕方無い内容だったが、それは赤悪魔署刑事たちによるサンダーランド強制捜査の現地生中継だったのだ。

その画面に、僕は釘付けとなった。そこには様々な超常現象が網羅されていた。キャンベル、リッチー、バーズ──未だ現世を彷徨う、元赤悪魔署殉職刑事たちの霊。前述の不老不死の胸毛人間。ヴィディッチ捜査官の向こうには、そのドッペルゲンガーである敵将ブルース。

そして先週、事件の渦中にあった三人の刑事の姿も。警察はそれを敵対組織による陰謀事件として扱ったが、僕の目は誤摩化されない。あれは僕の専門である超常怪奇事件だ。エヴラの嘔吐は毒物が原因ではなく、彼は口から「エクトプラズム」を放出したのだ。ルーニー一家の件は、僕の妹同様、UFOに「アブダクション(誘拐)」されていたに間違いない。勿論、彼にその記憶は残っていないだろう。そしてナニ捜査官の体調急変、あれは宇宙人に仕組まれた「インセミノイド(異性種間妊娠)」の顕著な症状だ。スカリー、君なら判るはずだよね。

── モルダー、あなた疲れてるのよ



03

その時だった。画面の向こう、ウォーミングアップ中の背中が映った。その生物は、ボールパーソン宜しく、足下のボールを拾い上げて誰かに手渡した。

「ハーグリーヴスだ!」

僕は叫んだ。二足歩行のハーグリーヴスの映像は、いつ以来となるだろうか。血圧が上がり、酸素欠乏症に陥りながら、僕はバーのテレビを手繰り寄せ、画面に叫んだ。

「ええい、サンダーランドはいい、ハーグリーヴスを映すんだ!」

もう駄目か、僕は赤悪魔署の勝利そっちのけで、刻々と失われてゆく時間を惜しんだ。しかし、僕の念が通じたのだろうか──ピッチサイドに再び、ハーグリーヴスの姿が。すっかりヨゴレが入り、劣化したルックスにかつての美少年の面影は薄いが、あの天パ頭は、正しく彼に間違いない。

この瞬間、彼の「未確認生物」という肩書きは消えた。ハーグリーヴスは、全ての人々の前に姿を現した。影の政府、宇宙人、両膝の故障──それらが再び彼の存在を闇に葬ろうと謀っても、これほどの証人の口を封じる事は出来ない。たったヘディング一つ、たった1分25秒の、しかし貴重な映像。

僕は考えた、ハーグリーヴスは何故この世に存在するのか。僕ら人間のように、只の地上の一生物としてだろうか。いや、彼は何かもっと偉大な存在、例えば4連覇の希望を捨てないマンチェスター・ユナイテッドの一部として存在し、僕たちに何かを語りかけていると信じたい。そう、数々の「奇跡」を起こしてきた、全てのオールド・トラッフォードに於ける超常現象と同じく。

「Maybe there's hope(まだ希望はある……)」

FBIのオフィスに戻った僕がその声に振り向くと、湿った暗い物陰に、あの赤悪魔署パトリス“エクトプラズム”エヴラ捜査官の姿があった。

「モルダー捜査官、君は知っているかね? 07年のJリーグ最終節、既に降格が決定していた横浜FCが、キングカズの突破から首位浦和レッズを敗り、我ら鹿島アントラーズに優勝が転がりこんだことを……」

僕の答えを待たず、彼の姿は消えた。幻だろうか。いや、彼の去ったそこには、小学生の様な丸文字で「勝つ、全部勝つ。世界制服(原文ママ)、エイズ撲滅」と書かれた色紙が残っていた。

エヴラは暗闇がもたらした錯覚だった。僕は確信した。あれは現代のクローン技術の粋を集めて造られたエヴラのオリジナル、鹿島アントラーズの主将、その人だったと。誰もが奇跡を信じている。スカリー、科学者の君だって、本心ではそうだろう? プレミアリーグ最終節への願いを込めて、僕は壁に貼ったポスターの文字を読んだ。

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「I WANT TO BELIEVE(僕は信じたい)




Epilogue

「お出かけかな、スティービー・Gマドリッド、それともチェルシーへ?」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

リヴァプールの邸宅から車を走らせようとしたスティーブン・ジェラードの前に立ちはだかる、赤毛の男。彼こそ、赤悪魔署「CSI(センターハーフ・サイエンス・インベスティゲーション)」の主任、ポール・スコールズ警部補(声:石塚運昇)である。

「今時わざわざ何の用だ、ポール警部補!」

「最終節、チェルスキーとの決着の前に、一つ、解決しておかなくてはならない事件があってね。スティービー」

「俺には関係無いし、興味ないね。道を開けろ!」

「お急ぎの様子だな。まるでリヴァプールという名の沈没船から逃げ出す、ドブネズミのようだ」

「ただ、一杯引っ掛けにいくだけだよ!」

「ほう、また酒場で素人を暴行しに?」

「また古い話を……あれは不起訴になっただろう!」

「まあ喜べ、今日は君にプレゼントを持ってきた。とは言え、君はプレゼントを贈る方が専門のようだが──そう、逮捕状だ」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

「待てよ、一体俺が何をしたと言うんだ?」

「私はお前を誤解していた様だ。教祖ベニテス率いるリーガプール教の、少し頭の弱い暴れん坊に過ぎないと。しかし、君は素晴らしいテクニシャンだ。そう、あれは見事なスルーパスだった」

「あれはお前もよくやる、ただのミスパスだよ!」

「その見返りに、チェルスキーから幾ら貰ったのかな? 油田の一つでも譲り受けたか、それともただ、ユナイテッドに優勝回数記録を抜かれるのが嫌だったとか──」

「そこまで言うなら、何か証拠でもあるのか?」

「我々CSIを見くびらない方が良い。あの日アンフィールドで事件を目撃した数万人が証言している。このテープを聴きたまえ」



「これは我々のアンセム、『You'll Never Walk Alone』じゃないか?」

「そう、『あなたは一人ではない』だ。あの日、チェルスキー容疑者もまた、一人ではなかった。誰かが味方をして、ゴールを手引きした──それはお前だ。この蛆虫め

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

「無茶苦茶だ!」

「名門も今やチェルスキーの手先とは、堕ちる所まで堕ちたな。そうそう、ローマに住むリーセから連絡が来た。奴は喜んでいたよ。リヴァプールを出た自分は『勝ち組』だと。そしてお前は、負 け 組 だ」

「お前、リーセと知り合いなのか?」

「大英百科事典……『赤毛連盟』と言えば、お判りかな?」

「シャーロキアンしか判んねえ様なネタを使うな! そもそもこのブログ、毎度読者を置いてきぼりにする様なネタを使って、今時Xファイルなんて、一体誰が喜ぶんだよ。ただの自己満足じゃねえか!」

「私が満足するのはリヴァプールのような使えないクラブが、エバートンよりも下の順位が確定して涙目を晒す時だ」

「聞いてねえよ、縁起でもない事を言うな!」

「では、最期に言っておこう……ファーギーは決してお前を許さない。お前が来期何処のユニフォームを着ようとも、必ず破滅させてやる。これは約束だ。そして我々ユナイテッドは決して……そう、決して優勝を あ き ら め な い」」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
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to be continued...


次回、最終回『さらば、赤悪魔署! そして又、ボスと共に』。
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在する『Xファイル』とは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-05-06 17:14 | Manchester United | ▲ TOP
第三十六話『CSI:マンチェスター』
(記/なるほ堂、絵と監修/minaco.)

【#36 Man Utd 3 - 1 Spurs】

マンチェスターの太陽よりも、どんよりした男
──CSIチーフ、ポール・スコールズ

スコットランドが生んだホットガイ。球際のエキスパート
──ダレン・フレッチャー

もう経験不足とは言わせない。若き野心家
──ダロン・ギブソン

キャリック砲のスペシャリスト。クールビューティー
──マイケル・キャリック

最新科学でピッチ上の凶悪事件を究明する
『CSI:マンチェスター』!


【テーマ曲】
※CSI=Centar harf(センターハーフ) Science Investigation


01

「採取した嘔吐物の検査結果は出たのか、フレッチャー?」

未だ事件の余韻残る犯行現場に佇みながら、男は傍らの部下より「いいえ。ラボからは何も」と、返答を受けた。彼こそ、マンチェスター赤悪魔署構内の「2列目中央」に位置する科学捜査班、『CSI(センターハーフ・サイエンス・インベスティゲーション)』の主任、ポール・スコールズ警部補(声:石塚運昇)。激しく悪を憎む余り、時には違法行為も厭わぬ捜査手法で、FA規律委員会に幾度と無く睨まれながらも、しかし数多くの無法者たちを鉄格子の中に送ってきた敏腕捜査官である。

「容疑者を署で絞り上げて、自供させましょうか?」

信頼厚い部下のフレッチャー捜査官が耳の横で訊ねた。だが、ポール主任は答えた。傷つき易い瞳をレイバンで隠しながら──

「必要ない。この現場が語ってくれる

……2時間前。

ボスより下された出動命令により、刑事たちの姿は、欧州随一の繁華街と呼ばれる「プレミアシップ・ビッグ4商店街」の一角にあった。カルト教団ベニテス教信者たちの経営するスペイン雑貨の店『リーガプール』が、業績悪化により立ち退いた空き店舗。だが、そこにはコンビニエンスストア『ホットスパー・トッテナム』という真新しい看板が。

「お前か、ハリー・レドナップ。商売を拡げるつもりの様だな」
「これはこれは、ポール警部補──それに、お仲間の刑事さんたちも」
「先週は、逃亡犯のチェルスキーを足止めしてくれたそうだな。感謝状は届いたか」
「いえ、礼には及びません。御覧の通り、おかげ様で我々もいよいよビッグ4商店街に名を連ねる事になりましたよ。ははは──」

だが、そんな強気を装う店長に、ポール主任は言った。

「こっちもいいこと教えてやろう。お前は終わりだ。失せろ、蛆虫」

折角リーガプール駆除で街が「浄化」されたというのに、また目障りな奴らを蔓延らせる訳にはいかない──それが赤悪魔署の司法判断だった。そもそもこのプレミアの街には、我々「ビッグ1」だけで充分なのだ。

無論、それで引き下がる様なスパーズたちでは無かった。レドナップ店長の呼び出しに、奥から現れたアルバイト店員たち。それを見て、ポール主任は言った。

「抵抗されちゃ、こうするしかない。お 仕 置 き だ」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!



02

強制捜査が始まった。店内に突入する赤悪魔署──ポール主任率いるCSI捜査官たちの前列には、警察用語で「アタッカー」と呼ばれる、即ち「第一線クラス」の殺人課刑事たち。また背後には「ディフェンス」と呼ばれる、生活安全課刑事たち。

「私を敵にしない方が良い。お前のサッカー人生を滅茶苦茶にしてやってもいいんだぞ

そんなポール主任の圧力に怯え、幾度もボールを明け渡す容疑者たち。しかし、捜査は思うように捗らなかった。「ところで、ルーニー刑事の姿が見えないが──」と、非番の刑事長ギャリーに代わって指揮を執る胸毛警部に訊ねるポール主任。この日、捜査の最前線に立っていたのは、その英国最優秀捜査官ではなく、アンディ・ガルシア刑事だった。

かつて「一日警察署長」としてハリウッドより招かれて以来、この赤悪魔署物語にて助演俳優を勤めて来たガルシア刑事。不慣れな主演への配置転換に奮闘を見せるも、しかし彼はゴールハンターでは無い──ラブハンター、愛の狩人である。加えて今日は、裏番組のフジTV土曜プレミアム『オーシャンズ13』と掛け持ちで出演中。言わば、プレミアのダブルブッキングだ。ルーニー刑事は一体何処へ──しかし、その行方は、意外な所からもたらされた。

「イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

ザ・フーの着信音と共に届いたEメール、送信主は署の映像分析室に待機していたギブソン捜査官。「チーフ──この映像を見て下さい」というメッセージと共に、そこに添付されていたのは、現在生放送中のサッカー中継にインサートされ、全国に流されたという映像だった。ポール主任は言った。

「これは誘拐……監禁だ」

そこには、防弾ガラス張りの部屋に閉じ込められた、ルーニー刑事一家の姿が。

「ハリー・レドナップ。お前は、私を怒らせた

「違う、我々じゃない! こんな大胆な犯行声明を流すなんて、我々の流儀では──」

「残念だが、お前のことなど信じない

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!



03

捜査は後半半ばを迎えていた。スコアは1対0。だが、その殊勲のPKを奪取した生活安全課刑事エヴラの姿は、既に現場には無かった。赤悪魔署を襲った第二の事件。ポール主任率いるCSIチームは、殉職者のダイイングメッセージである、芝に残された嘔吐痕を調べていた。

「アーモンド臭……」

そう主任が呟くと、「チーフ、もしかして青酸カリでは?」と、途中から現場に投入されたキャリック捜査官が。だが主任は「慌てるな。ホットスパー店内の全ての弁当を調べるんだ。DNAは嘘をつかない」と指示した後、スパーズベンチを視線に捉えて言った。

「またやりましたね、ハリー・レドナップ。この国の騎士道は滅びた……」
「待ってくれ! これも、ルーニーの誘拐も、我々の仕組んだ事では無い」
「だが、私は心が読める。言葉と裏腹に、お前の心は笑っている」
「そりゃまあ、これで同点逆転の芽が出てきた訳ですから──」

そんな店主の言葉を遮って、ポール主任は言った。

「お前は人の死を楽しんだ。今度は自分の死を楽しむことだな」


だが、これで捜査の歯車が狂ったのは確かだった。スパーズの用心棒、レドリー・キング容疑者の一撃が、赤悪魔署のネットに突き刺さる。同点……しかし、その大男にポール主任は言った。

「私にとって、キングは一人だ。お前じゃない」

やがて捜査現場に、ラボから同点弾の弾道分析結果が届いた。原因はすぐに判明した。電話連絡を受けた主任は、双子刑事訓練生に言った。

「ニュース速報だ。お前は交替だ」
「は……はい」
「覚えとけ。人生に失望はつきものなんだよ」
「……次回こそ、頑張ります」
「状況がわかってないようだな。お前は刑務所行きだ

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!



04

「燃えろ、全部燃えちまえ!

捜査開始から90分後、闘いは終わっていた。開店間近だったコンビニ『ホットスパー・トッテナム店』は炎上し、彼らのCL圏内確定の目論見は、灰に帰した。

「キャリック、検死官に連絡しておけ。大きな解剖台を用意しておけとな」

刑事たちの足下には、焼け跡から搬出された遺体──途中からバイトシフトに組まれたクラウチ容疑者の亡骸が横たわっていた。

「キスはしないよ。ギグシー」

主任は、この日冷静に2点を決めた盟友に言った。彼の前に、手錠をかけられてCL圏外へと護送される、ハリー・レドナップ容疑者が運ばれてきた。

「俺たちは何もやっていない! このビッグ4商店街に出店したのも、より巨大な欧州市場進出への、足掛りが欲しかっただけだ!」

だが、ポール主任は言った。

「お前たちも欧州の舞台に行けるさ──但し、一つ下のカテゴリーにな」

そして最期に、こう言った。

「さ・よ・な・ら、名将ハリー・レドナップ。輝かしい経歴に『10 - 11シーズン、ヨーロッパリーグ出場』と付け足すがいい」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!



05

犯人確保──だが、ポール主任の気掛かりは別にあった。未だ掴めぬルーニー一家の行方、そして二人目の毒物の犠牲者となり、病院へと搬送されたナニ刑事。すると、

「ナニから検出された毒物は、エヴラのものと同一でしたよ」

その声に振り向く、CSIメンバーたち。彼らは見た、そこにもう一人のメンバーの姿を。駆け寄るメンバーたち。そして直属上司であるポール主任の言葉が、彼を迎える。

「お か え り、オーウェン・ハーグリーブス──いや、ハグレ刑事
「すいません。随分とハグレっぱなしで、ご迷惑をおかけしました」
「で、撃たれた両膝は、もう大丈夫なのかな?」

帰還を果たしたハグレ刑事。だが、未だ彼はベンチの椅子に。その姿に、CSIメンバーたちは以前、彼の静養先であったアルムの森のお爺さんが教えてくれた事を思い出した。曰く「医学的には、もう足は治ったはずなんじゃが……」。そして彼らは、叫んだ。

「ハグレのばか!」「意気地なし!」「給料泥棒!」

だが、その時だった。奇跡が起こった。仲間たちの声に負けまいと、懸命にその両足で立ちあがるハグレ刑事──

ハグレが立った、ハグレが立ったわ! わーい!」

そんな、粗雑な『アルプスの少女コント』を眺めながら、ポール主任は思った。

「これでセンターハーフ──CSI、全員揃ったな」

彼らは、ブラジルから派遣されていたCSIメンバー、故障中のアンデルソン刑事の事などすっかり忘れ、再会を祝した。

「ところでチーフ。ホットスパー店内の弁当からは、毒物は検出されませんでした。ルーニーの行方に繋がりそうな手掛りも……。もしかして、誤認逮捕だったのでは?」

だが、ポール主任は悪びれもせず、答えた。

「昔も今も、これからも──決して変わらないものがある。善と悪、その違いは変わらない。ハグレ刑事、我々に歯向かったスパーズはどっちだ?」
「悪です」
「そう俺は悪を始末する。それが俺の仕事だ」
「でも、真犯人は──?」
「もう、目星はついている。我々CSIは決して……そう、決してあきらめない

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!




Epilogue

「おやおや、今日はお休みでしたか──ジョン・テリーさん

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

ロンドン郊外の大邸宅の庭。前触れ無く現れた赤毛の男に、家主テリーは声を失った。

「おっと失敬、また乱暴なタックルで出場停止中でしたね」

「お前に言われたくない、ポール・スコールズ……」

「それにしても、よく手入れが行き届いた庭だ。芸術的な庭──さて芸術といえば、君とベネッサ・ペロンセル嬢のロマンスも、名作といってもいい出来栄えだ」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

「お、大きな声を出すな、折角修復した嫁との関係が──」

「思い知ったかね。真実とは不思議なもので、隠してもいつか必ず明るみに出る。君は親友の恋人ともセクスできるようだが、他には何ができるのか大いに気になるところ

「俺が何かしたとでも言うのか?」

──君の飼い主の国では、政敵に毒を盛るのが流行っている様だが?」

「俺がそんなことするか」

「さあ。君は不祥事の総合商社と、もっぱらの噂だ。ところであの現場に漂っていたアーモンド臭、あれは青酸の臭いではなかった。だが、その臭いで私は思い出した。君をだ

「アーモンドと俺が、どういう繋がりがあるんだ?」

「あの臭いは毒からでは無く、毒の混じった食品からだとしたら、どうだろう。ところで君にプレゼントだ。チェルシーの、そう……『アーモンド味』だ」

「コジツケだろ!」

「毒入り危険、食べたら死ぬで……聞き覚えはないかな?」

「それは『グ◯コ・森◯事件』で、チェルシーは明治製菓だ! 言い掛かりも程々にしてくれ。大方、お前の仲間たちは、腐った飯でも喰って腹を壊したんだろう!」

「おやおや。臭い飯を喰っているのは、君のお父上じゃないかね?」

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!

「イエーじゃねえよ! 一体さっきから叫んでるのは誰なんだよ! おい、そこまで言うのなら、俺が毒を盛ったという証拠があるんだろうな」

「それは今にわかる。お楽しみに」

「じゃあ帰れ」

「その前にもう一つ、姿を消したルーニー一家。あの犯行は、最近家庭内がギスギスして、幸福な家庭に妬みを持つ者の仕業と見ているが、君には心当たりがありそうだ」

「ねえよ! うちはもう夫婦円満だよ!」

「私が法が破らないうちに、全てを白状してお縄に掛かったらどうだ? さあて、どうする?──すんなりか、じたばたか?

「お前に、何も言う事は無いね」

「残念だ、お前はチャンスを逃した。それにしてもこれだけの財産、素晴らしい家庭を築きながら、それでも君ら一家はこぞって、麻薬売買窃盗不義密通などの違法行為を止めようとしない。そこまでして君らが得ようとしたものは何だ?」

「……スリルさ。ふん、どんなに名誉や財産を得ても、満たされないものがあるんだよ。お前の様な退屈な男には、判らないだろうがな」

「スリル……。お前みたいな蛆虫を、一生ユナイテッドより下の順位にぶちこんでやること、それが俺の究極のスリルだ

「聞いてねえよ! おいちょっと待て、ポール警部補。俺もお前に訊こうじゃないか。お前をそこまで駆り立てるものは、一体何なんだ? もう現場への情熱も失せて、引退してもいい年齢だろう。赤い悪魔への、ファーガソンへの忠誠心か?」

「さあ、考えた事も無いな。ただ言えるのは、悪党どもが大手を振って街を歩いている姿を想像すると、頭が痒くて、痒くてたまらない──ただ、それだけだ」

「いつもじゃねえか! もう帰ってくれ、俺も次節には復帰するんだ」

「では、最期に言っておこう……俺は決してお前を許さない。お前とチェルシーを必ず、破滅させてやる。これは脅しじゃない、────── 約束だ

イエーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
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to be continued...


次回、第三十七話『ハグレ刑事、現場復帰スペシャル!』。
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在する『CSI:マイアミ』とは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-04-27 17:18 | Manchester United | ▲ TOP
第三十五話『ミナリー』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

01

「あたしはミナリー、あなたの一番のファンよ」

見知らぬ山小屋の寝室。痛みと朦朧に身動き一つ取れぬベッドの傍ら、椅子に座る女の手にしたPCには、私のブログ『tototitta!』のキャッシュ画面が映し出されていた。

事の発端──この痛みと朦朧の。それは赤い悪魔たちの玉音放送、即ちブラックバーン戦のドロー劇を見届けた後だった。私は岩手県盛岡市付近の、とある山中に車を走らせていた。郷土の味覚「バッケ味噌」の材料となる、蕗の薹を収穫する為である。だが、突然に山は春の吹雪に見舞われた。岩手では、よくある事だ。運転を誤った私の車は、道を大きくはずれ、崖下に転落していった。

暗闇。そしてこの痛みと朦朧。すると女の息が私に入り込み、その声は「呼吸をして、さあ、呼吸をするのよ!」と叫んだ。全身打撲、両足の複雑骨折。私を救助して、壁一面がユナイテッドサポーターを表わす自宅の部屋に担ぎ込んだ女は、イラストレーターのミナリーと名乗った。イラストレーター……ミナ……何処かで聞き覚えがあるが、今は朦朧として思い出せない。病院と自宅への連絡を求めた私に、女は「この雪嵐で電話が通じると思って?」と言った。岩手では、よくある事だ。

「あなたは幸運よ──」と彼女は言った。そして、続けた。

「いえ、あたしの方こそね。だってあなたが本当に、『Stretford Endにほえろ!』の作者だなんて! 大傑作よ、非の打ち所がないわ、神の創造だわ!」

これは厄介なことになったぞ。この女はまともじゃない。


02

「この……この、ろくでなし!」
「いったい──」

翌朝。未だ痛みと朦朧の中にあった私を、ミナリーが揺り起こした。昨日より更に瞳を濁らせ、彼女は「ユナイテッドは四連覇するのよ! あんたがユナイテッドから優勝を奪ったんだ!」と叫んだ。哮る彼女の向こうに、私はPC画面に映る弊ブログを見た。ネットが繋がったらしい。だが、それは私に何の安堵も与えなかった。彼女は、勝ち点を失ったブラックバーン戦のエントリーを読んだのだ。

「あんたが、赤い悪魔を殺したのよ!」

私は必死に弁明した、「スコアは変えようが無いんですよ。私が作中で殺したのは、ワンダーだけ──」。だが、その弱々しい声は「最低よ! あんたは泥棒チェルスキー、薄汚いジョン・テリーと一緒よ!」という彼女の怒号に掻き消された。

「ユナイテッドサポーターを、嘗めるんじゃないわよ」

そう言うと彼女は、ポール・スコールズの様に猛然と私に襲いかかり、ギャリー・ネヴィルの様に私を押さえつけ、ネマニャ・ヴィディッチの様な肘撃ちを加えると、そして再びスコールズの様に「やり過ぎたかな?」と頭を掻いた。どうにか私が身体を起こさなかったのは、そこにカントナのカンフーキックを怖れたからだ。やがて私の耳に、車の始動音が聞こえた。ベルバトフの様にのたうつ私を一人残し、彼女は家を出て行った。

51時間経った。

ストーン・ローゼスの鼻歌と共に、彼女が戻ってきた。幸運な事に彼女のヘアドライヤーは弱風に切り替わっていた。惨めな私のシーツを替える女性に、私は言った、「お帰りなさい……私の看護婦さん」。この女は狂っているが、私にはこの女が必要なのだ。

再び現れた彼女の手には、今時何処の中古店に売ってきたのか、骨董品のシェルiMacがあった。彼女は言った、「あんたの事なら何でも知っているのよ、だって一番のファンですもの」。確かに私はマカーである。モニターに浮かぶ林檎マークを眺め乍ら、私は既に判りきっている事を訊いてみた。

「私はそれで何を書くのかな?」

私に向けられた女の目が、紅潮した顔の中で生き生きと踊っていた。

「そんなこと判ってるじゃないの! 新作を書くのよ。

 ──あんたの最高傑作、『赤い悪魔の帰還』をよ!」



03
『赤い悪魔の帰還』

……前略……

ギャリー・ネヴィルが不自然な笑顔で入場してから、時間は既に80分が経過していた。いつもの様に「市街戦」さながらのアウェー・シティ戦は、ここまで互いにスコアレス。既にピッチ上にルーニーの姿は無い。

「バルス!」

しびれを切らしたボスが「滅びの呪文」を唱えた。すると、「天空の城」からロボット兵──またの名を、おベルたんが飛来した。だが、相変わらずユニフォームの下にハンガーが入ったままの彼に、何かを起こす力があるとは、誰も思わなかった。すると、

「♪I Know It Over(もうお仕舞いだ)」

そんなユナイテッド信奉者の歌が聞こえた。敵地の客席に身を隠していた、その花を持った中年男性は、続けてこう歌った。



Good times for a change 
See, the luck I've had can make a good man turn bad
So please please please,Let me, let me, let me
Let me get what I want This time


今こそクラブが変わる時だ 運なんて巡り合わせ
ごらん かつて良かった選手も 悪い選手になってゆく
どうか どうか どうか 
今こそ 僕の欲しい選手を獲得しておくれ
……

ジョニー・マーのマンドリンの音と共に、時計は90分を回った。勝ち点4差で追いかけていたチェルスキーは、赤い悪魔たちの遠い彼方へと、消えてゆくのだっ………


「また、赤い悪魔を殺すのね! ひ と ご ろ し!」

手渡した原稿を震わせ乍ら、ミナリーは叫んだ。私は彼女に、テレビの中の現実を指差して言った、「私が殺したんじゃない、彼らが自滅したんだ──もう今季はお仕舞いなんですよ」。ロスタイムに入った悪魔たちは、むしろ無失点である事の方が奇跡的であった。

「書き直しなさい」
「もう起きてしまった過去は変えられない」
「過去なんて、ランゴリアーズに喰われてしまえばいいのよ」
「?」
「そもそも、どうしてキャリックを使わないの?」
「私に言われても──ファンだったんですか?」

すると彼女は飼っていた豚を刃にかけ、その血をバケツで浴び乍ら、叫んだ。

「キャリックを──キャリーを虐めないで!」

その瞬間、部屋のテレビが──まだ試合はロスタイム中であったが──爆発した。超能力だ。私は思った、「こいつ、何処までスティーブン・キングが好きなんだ?」。だが、これ以上ネタを拡げては、読者を置いてきぼりにするだけだ。私は渋々、彼女に命じられるままに、今書き上げたばかりの原稿を、自らマッチで燃やした。

「言ったはずよね。私を怒らせないでって!」

それでも彼女のヘアドライヤーから、熱風が止む事は無かった。彼女は「昔、言う事を聞かない悪い子を、アイルランド人がどうしたか知ってる?」と叫び乍ら、棚に飾られたロイ・キーン像を指した。私は抗うのを止めた。彼女ならば躊躇無く出来るだろう、アイルランドの闘将直伝の「選手生命殺し」を。彼女はその濁った瞳を、私の癒えかけた両膝に向けて言った。

「あなたをハーグリーブスと同じ目に合わせてやるわ」


04

「それで、チェルスキーはどうなったの?」
「──負けました」
「それじゃダメよ。もっと作家らしく、想像するのよ。彼らの屈辱的な敗北を!」
「じゃあ、友人の女に手を出したテリーが、ボールにも手を出してPK献上し、その後退場を言い渡されて、負けました」
「いいわ、それよ! 流石だわ!」

これまでは実際の試合が、キーを叩く私の指を動かしていた。だが今は、このユナイテッド狂女の妄執が、それに代わっていた。私は彼女を喜ばせる為に、生きてここを脱出する為に、想像力を働かせて、見てもいない情景を記し続けた。勿論、こんな「都合の良い展開」なんて有り得ない事を承知しながら。

私が「ついでにガナーズは、残り10分で3点取られて、大逆転負けです」と言うと、彼女は満足げに「しかもウィガン相手にね──素敵!」とシャンパンを開けた。

「さあ、あたしの可愛い悪魔たちが、優勝戦線に帰還する物語を書きなさい。ダン中尉」

ダン中尉、それは彼女曰く「ちょっとした手違い」でこうなった、現在の私の「身体的特徴」を表わしていた。

『赤い悪魔の帰還』(第2稿)

【#35 Man City 0 - 1 Man Utd】

………
赤い悪魔の奇跡は、いつもロスタイムに起きる。

ホームに於けるシティ戦の主役は、ロスタイムにゴールを決めたワンダーだった。「サッカーも競馬も、ダービーは俺に任せろ!」とばかりに。だが今、彼の姿はこの世には無い。

しかし、ワンダーは一人では無い。いや、そもそもワンダーとは、人を指す言葉では無い。そう、このマンチェスター・ユナイテッドというクラブこそが、ワンダーなのだ。

だが、残り時間は1分を切った。ギャリー・ネヴィル、かつてはベッカムの、そして今なおユナイテッドの「ボディガード」を勤め続ける男も、遂に今季の終幕……いや、その長いキャリアの終幕を悟っていた。誰よりも責任感の強い主将は、「中指立てたテヴェス相手に勝てないんじゃ、俺にもうユニフォームを着る価値は無い」と。疲れ果てたボディガードは、ホイットニーの調べに乗せて歌った──

♪If I should stay,I would only be in your way
So I'll go,but I know
I'll think of UNITED,every step of the way


もし来季も私がここに残っても きっとあなたの邪魔になるわね
私はユナイテッドを去るわ でも分かっている
いつどんな時でも ユナイテッドのことを思うだろうって


だが、その時だった。前日、来季も人気ドラマ「CSIマイアミ」主演と並行して、赤い悪魔の一員として闘う事を決意した赤毛の男が、奇跡を起こした──

「僕の頭は痒いだけじゃないんだよ、ギャリー」

ゴール、それは長年連れ馴染んだ盟友からのメッセージ。まだまだ、僕たちには出来る事があるだろう?──そんな思いを受け取め乍ら、ギャリーは思った。恐らく自分ほど、このクラブを愛した人間は、過去にも先にも居ないだろう。それは何故か? シティが、リヴァプールが嫌いだからか? いや、違う。ここにはベッカムや、弟の思い出があるからか? いや、それだけじゃない──。

今、視線の先にその真の理由を見つけた彼は、その名前「GARY」の「R」の字をかなぐり捨てて、その愛する者の立つ場所へと駆けていった。あの中指事件以来、上から「放送禁止行為」の自粛を命じられていたが、構うものか。

「ポール!」
「ギャリー!」

そんな二人を祝福するかのように、先程来途切れていたホイットニーの歌声が、再び響き渡った。ドラムのショット音と共に──



And I will always love you
Will always love you


いつも私は あなたを愛するでしょう


=FIN=


Epilogue

あれから数日後──
相変わらずの痛みと朦朧。私の身体は、未だベッドの上にあった。だがそれは、あの赤い悪魔狂信者の棲む山小屋ではなく、住み慣れた自宅のベッド。あの「牢獄」から逃れた私は、山中に倒れていた所を、偶然通りかかった熊撃ちのマタギによって助け出された。岩手では、よくある事だ。

あの女、ミナリーはどうなったのか?

私の原稿を読み終えた彼女は、あの結末──そう、あの一体何処に需要があるか判らないオッサン2人の愛の営みを目にした直後、地の底から込み上げる様な咆哮、「ユナイテッド!」という叫びと共に、床に倒れた。S・キングの「ミザリー」が燃え死んだように、ミナリーは萌え死んだのだ。

私は帰還した。だが、帰還したのは私だけではなかった。あの恐怖の山小屋で、私が強要されて書いた赤い悪魔の物語は、すべて現実と化していた。皆は口々に言う、「なんて幸運なんだ!」と。だが、私には判っていた。それは「運」では無い。私はミナリーの幸せそうな死に顔を思い浮かべ乍ら、彼女に宛てて言った。

「あなたが、赤い悪魔を帰還させたのですよ」

ミナリーとは、決して屈しない、熱狂的ユナイテッドサポーターの総称である。この現実は、彼ら、彼女たち、あなたたちの「願い」が起こした奇跡なのだ。最期まで、この物語を書き続けなくては──私も、もう諦めない。すると、部屋の向こうからストーン・ローゼスの鼻歌が聞こえてきた。

THIS IS THE ONE──そう、チェルシーとの勝ち点差は「1」。部屋に入ってきた彼女の手には、私の執筆用PCがあった。女の目は、「さあ、書くのよ」と訴えていた。

「君は誰だ?」

私が訊ねると、女は答えた。

「あたしはminaco、あなたの一番のファンよ」


to be continued...


次回、第三十六話『今度はホットだよ──襲来ホットスパー!』。
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在する小説『ミザリー』とは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-04-22 14:42 | Manchester United | ▲ TOP
第三十四話『愛は奇跡を信じる力よ』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

【#34 Blackburn 0 - 0 Man Utd】

「お前らゼロか! ゼロな人間なのか!」

最終スコアに「0」と刻まれた、イーウッド公園球技場。控え室に響いた怒声に、顔を上げた町田の先には──

「先生……」

そこには、キャリントン・アカデミー、通称「赤悪魔工業高等学校サッカー部」の新任顧問、オーレの姿が。多くの名だたる卒業生を輩出した名門の歴史も、今は遠い過去。この物語は、この荒廃した学園に戦いを挑んだ、熱血教師の記録である。(語り;芥川隆行)

オーレ ;オイ、お前たち! 俺がどうして怒ってるのかまだ判らんのか! 試合に勝てなかったからじゃない。どうでもいいやっていう、お前たちの心が許せんからだ! お前らがやったことは裏切りだ。いいか、毎朝早く起きてご飯を作ってくれたお母さんたち。汚れたジャージを毎日洗ってくれたフレッド君。仕事を休んでまで応援に駆けつけてくれたサポーター。試合の度に、無い知恵絞るブロガー。そういう陰で支えてくれた大勢の人々の信頼を、お前たちは手ひどく踏みにじったんだ!

町田  :スールシャール先生!
ナニ  :ソルスキア先生!
ギブソン:ソルスキアル先生!
エバンス:ソーシャー先生!

その返答は様々だったが、熱血教師の激しい言葉は、この屈辱的な無得点劇で再び暗闇に閉じ籠もりかけていた、かつての非行少年たちの心の扉を開いた。オーレは続けた。

オーレ :俺は英国サッカーの伝統を顧みないチェルシーやガナーズの選手よりも、お前らの方が好きだ。しかし、今日のお前ら最低だ。それはサッカーを舐めているからだ。生きるってことをバカにしている。いま自分がやっている事を、ひたむきにやらないで、この短いサッカー人生でいったい何が出来ると思ってんだ。よく考えて見ろ! ルーニーも同じフットボーラーなんだ。同じ歳、同じ背丈、髪の毛は兎も角、頭だってそう変わらんだろ! それが何でルーニーが居ないと、ローヴァーズごとき相手からも点が取れないって事になるんだ。お前らゼロか! ゼロなフットボーラーなのか! 何をやるのもいい加減にして、今季残り試合ゼロのまんま終わるのか! それでいいのか! お前らそれでも男か! 悔しくないのか! マチダ! ナニ! ギグス!

ギグス :えーっ、俺も!?
ベルバ :悔しいです!
オーレ :お前……
ベルバ :今までは本業はハリウッド俳優と思って、にやついて誤魔化してたけど……今は悔しいです!

オーレ :悔しいのは誰でもそう思う。でも思うだけじゃダメだ。お前たち、それでどうしたいんだ! 
おシェイ:勝ちたいです! チェルシーに勝ちたいです!
ヴィダ :タイトルを取りたいです!

オーレ :しかしな、この勝ち点差4を引っくり返すには、並大抵の努力じゃ無理なんだぞ! 血ヘドを吐いて死ぬほどの練習をしなきゃならん! 誰も助けてくれるわけじゃない。お前たちそれでも勝ちたいか!
一同  :勝ちたいです!

これほどの熱情が、一人一人に秘められていようとは。オーレの胸に感動が込み上げた。

オーレ :よーし、よく言った。俺が必ず勝たせてやる! そのために、これからスコールズがお前たちを殴る! いいか、殴られた痛みなど3日で消える。だがな、今日の悔しさだけは絶対に忘れるなよ! よし、歯を食いしばれ!

バキッ、ガツッ、ボコボコボコボコボコボコ…

ギャリー :校長先生、いいんですか?
ファーギー:見ろ、学級委員長。オーレ先生の涙を……。

スコールズは部員ひとりひとりに無言で殴っていった。選手を殴るスコールズに遠慮はない。顔が命の俳優アンディ・ガルシアも、また女優ハル・ベリーとして活躍するヴァレンシアも例外ではなかった。それはオーレにとって、生徒との絆をより深めたいという願いから発した行為であった。これは暴力ではない。もし、暴力だと呼ぶ者があれば、FAでもUEFAでも、出るところへ出てもよい。オーレはそう思っていた。生徒たちは目覚めた。オーレが何一つ強制したわけではないのに、翌日から目の色を変えて猛練習を始めたのである。

その輪の中に、かつて「マージサイド一のワル」と呼ばれたルーニーの姿があった。その痛めた足に、再びスパイクを履いて。それは、再びゴールを積み重ねるためだろうか。いや、違う。人間は、勝ち点とか得点数とかいう、単なる抽象的な数字の為には生き死には出来ない。だが、家族や仲間たちのような手触りのある、具体的な愛する者のためになら死ねる。ウェイン・ルーニーはこれまで何を愛してきたか。それは……フットボール、そしてマンチェスター・ユナイテッド。

「One for All,All for One!」
「This is the One!」

キャリントン練習場に響き渡る選手たちの声。
その光景を、今は亡きイソップ(マイケル・オーウェン)の遺影が静かに見守っていた。

to be continued...


次回、第三十五話『愛は奇跡を信じる力よ2〜信は力なり』。
荒廃したチーム状況の中から健全な精神を培い、
わずか残り数試合で逆転優勝をなし遂げた奇跡を通じて、
その原動力となった信頼と愛を余すところなくドラマ化した続編を、
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在するスクールウォーズとは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-04-14 22:09 | Manchester United | ▲ TOP
第三十三話『ギャリー総帥、緊急演説』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

【#33 Man Utd 1 - 2 Chelsea】
この時間は予定を変更して、崇高なるネヴィル家長男、ギャリー総帥の緊急演説をお送りします。
(元ネタ:『機動戦士ガンダム』ギレン総帥の演説)

我々はプレミア首位の座を失った!
これは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ!


チェルスキー王朝に比べ、我が「マンチェ連邦(ユナイテッド)」のオーナーの財力は、3分の1以下である。にも関わらず、今日まで戦い抜いてこられたのは何故か!

諸君! 我がユナイテッドの戦争目的が正しいからだ!

一握りのロシア人ブルジョワが、宇宙にまで膨れ上がった英プレミアリーグを侵略して数年、オールド・トラッフォードに住む我々が勝ち点3を要求して、何度彼らに踏みにじられたかを思い起こすがいい。

「パンがなければ、チェルシーを食べればいいじゃない!」
「不倫相手が身籠ったら、中絶すればいいじゃない!」

チェルスキー王朝、テリー・アントワネット妃の言である。
あえて言おう、カスであると!

ユナイテッドの掲げる、人類一人一人の自由のための戦いを、神が見捨てる訳は無い。我らのエース、諸君らが愛してくれたルーニーは故障した、何故だ!

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「坊やだからさ」
(赤い彗星のデミチェリス)



チェルスキー王朝は、聖なる唯一のプレミアリーグ杯を汚して、奪おうとしている。我々は「ユナイテッドはルーニーのワンマンチーム」などと言う評価の愚かしさを、ロンドンのブルジョワ共に教えねばならんのだ!

諸君らはこの戦争を対岸の火と見過ごしているのではないのか? しかし、それは重大な過ちである。スコールズは、諸君らの甘い考えを目覚めさせる為に、警告を貰った! 戦いはこれからである! 我々の軍備はますます復興しつつある。脚を故障していたオシェイ、ハーグリーブスの実戦投入も間近だ。脚なんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのです!

審判どもとて、このままでは済ますまい。

諸君の父も兄も、審判どもの無思慮なPKスルー、オフサイド無視の前に死んでいったのだ。球を手で扱っても咎め無しとは、ラグビーか! ラグビー発祥、再びか! 否、ラグビーとてオフサイドはある!

この悲しみも怒りも、忘れてはならない! やり逃げ、持ち逃げ、轢き逃げ……そして審判どもの力を借りた「勝ち逃げ」への、悲しみと怒り。それを今日、我がマンチェ連邦軍は、首位陥落を以って我々に示してくれたのだ!

我々は今、この怒りを結集し、残り全試合に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。その勝利こそ、同志ワンダー・オーウェンや、「殴ったね!? ヴィクトリアにもぶたれたこと無いのに!」と言い残し、マンチェ連邦軍の戦列を離れた「機動戦士ベッカム」ら、今は亡き「戦死者」全てへの最大の慰めとなる!

プレミア戦役の残りの対戦相手、かつて我らに決定的打撃を受けた残党下位クラブに、いかほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。それら、軟弱の集団がこのマンチェスター・ユナイテッドを出し抜くことはできないと、私は断言する。

プレミアリーグは、我らファーギーに選ばれた優良種たるユナイテッド戦士に管理運営されて、はじめて、永久に生き延びることができる。これ以上、愚劣なる審判どもや「外人天国クラブ」の横暴を続けさせては、プレミアそのものの存亡に関わるのだ!

FIFAの無能なる者どもにも、思い知らせてやらねばならん。宇宙世紀0910シーズン、このプレミアと共に欧州戦役も制し、クラブW杯に進撃し、今こそ再び、我々がフットボールの未来に向かって立つ時であると! 我々の本当の敵──それは必ずやその最終決戦の地に侵攻してくるに違いない、鹿島アントラーズである。チェルスキーとは違うのだよ、チェルスキーとは!

明日の未来の為に、我らマンチェスター・ユナイテッドは、立たねばならんのである!

サポーターよ立て! 悲しみを怒りに変えて、立てよサポーター!
赤い悪魔は、諸君等の力を欲しているのだ。

ユナイテッド!!……

to be continued...


次回、第三十四話『君は薔薇族より美しい』。
或る者、ギャリー総帥を称して曰く「貴公はファーギーの尻尾だな」。
ならば次週、「ファーギーの尻尾」の戦い振りを、どうぞご覧下さいませ。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在するガンダムとは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-04-05 15:27 | Manchester United | ▲ TOP
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