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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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第二十二話『ワンダーがW杯南アフリカ大会をテレビ観戦することはさせてはいけない』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

【#22 Man Utd 3 - 0 Burnley】

「ボスに会わせてくれ!」

勝ち点2を失った先のバーミンガム強制捜査の後、赤悪魔署内にはフレッド君に詰め寄るワンダー刑事の姿があった。遂に「豆豆腐(マメ・ドウフ)」とか言う、モヤシっ子訓練生にまで出番を奪われ、代表復帰が更に遠のいたワンダー。するとフレッド君は、彼に一枚の乗船券を手渡した。そういえば次の捜査までの間、中東ドバイで訓練を行うと聞いていたが、そこでボスに会えという事か。よし、この際はっきり白黒着けてやる──俺は戦力なのか、それともルーニーやヴィダに対する警告、見せしめに過ぎないのか?(前回参照)。意気込み、船に乗るワンダーであった。

しかし、彼が到着したのは日本……英国から船で来日という、なんともデビット・ボウイな旅である(古いなあ)。知らぬ間に、訓練地がドバイから変更になっていたのか。取りあえず、道々の案内板を頼りに、サッカー練習場に辿り着いたワンダー。芝の上では既に同僚パトリス・エヴラが、地元の子供たちと共に汗を流していた。

「ボスは何処だろう?」

すると、「背番号2」を着けた美少年が答えた。

「ボスは……ほら、そこに居るよ」

彼が指す先にはエヴラが。いや、違う……あれは……

「我ら鹿島アントラーズの『ボス』、小笠原満男キャプテンさ」

美少年はそう言うと、芝の上、右サイドバックのポジションに駆けていった。鹿島アントラーズ?……どうやらワンダーが辿り着いたのは、「鹿島港」と言うらしい。なんてこった、ボス違い。途方に暮れるワンダーの耳に、練習を観覧する熱心な鹿サポの声が耳に入る。

「ダニーロの代わりの新外国人選手かしら?」
                     
フッ、今じゃ俺も日本では過去の人の様だ。いや、「日本でも」と言うべきか。すると、練習場に「ボス、代表復帰おめでとうございます」「チョリース」の声が。代表復帰、それは聞き捨てならない。

早速、売店で広報誌『アントラーズ・フリークス』を一冊購入し、小笠原満男について調べるワンダー。同じ30歳、身長も同じ173センチ、膝前十字靭帯断裂、失意の海外挑戦……そして代表監督が彼を称していった言葉、「その存在感や実績を考えると、一度呼んで外したりできない選手」とは、正に自分と同じでは無いか。

しかし、彼の「存在感」とは何を指すのだろう? ワンダーはピッチサイドに佇む、アントン君に訊ねた。するとアントン君は、鹿メイツの二つのインタビューを紹介した。

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Q:Jリーグアウォーズのベスト11の表彰の際に、小笠原選手が「選ばれた鹿島の選手が少ない」とおっしゃっていました。あれを聞いて、いかがでしたか?
「泣いていました。『満男くんだけだよ、ああいうふうに言えるのは』って。正直すごいと思います。言葉では表せないくらい、すごい人だなと感じました。」(野沢)

Q:怪我もあったシーズンでしたが、1年間プレーし続けましたね。
「経験を生かさないと困るよね。反省してもっと落ち込むかと思ったけど、そういうこともあると思えるようになった。ずっと40番(小笠原)を見てきたからかな」(内田)


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アントン君は続けた──

かつての日本代表は、ラモス、カズ、ゴン、秋田といった『肉食系フットボーラー』が支えていた。しかし今、一時の『おネエ系フットボーラー』時代を挟み、いつしか『草食系フットボーラー』の巣窟と化してしまった。かつて弥生人が縄文人を、大和朝廷が狩猟民族を、仏教が土着の信仰を、それぞれに「野蛮」として駆逐したように。そして、小笠原満男は数少ない……いや最後の『肉食系フットボーラー』といっても過言では無い。そこに在るのは、今僅かに東北地方にて「マタギ」として伝承される、日本人古来の狩猟者の姿。だからこそ、彼はある種の現代人にとって理解し難く、時に疎まれ、誤解され、しかし真の日本人の強さを有している──

「茸は植物なのか?」
「………」
「すまん、アントン君。続けてくれ」

マタギの頭領(ボス)に率いられた鹿島アントラーズは、草食系蔓延る日本サッカー界に於いて、唯一の肉食系、マタギの集団として、昨年三連覇を果たした。そしてそのボスはリーグMVPという、いかに草食系メガネ系代表監督とて、もはや無視出来ない結果を残し、遂に代表復帰を果たしたのである。思えば昨年末、NIKEのキャンペーンのサインボールに、手下の鹿メイツが「努力」「継続は力なり」などといったメッセージを記す中で、彼はこう記した。

「エイズ撲滅 みつお40」
(註/「」は、恐らく誤字を塗りつぶして誤摩化したもの)

それは、エイズ禍に苦しむアフリカの地に立ち、皆を救おうという決意に他ならない。日本だけでは無い、アフリカの人々もまた、満男のW杯メンバー入りを切望しているのだ。

…………           
ワンダーは彼の説明に、伝説の闘将ロイ・キーンやカントナの姿を思い浮かべていた。なるほど、肉食系フットボーラー、肉食系クラブ──確かに売店の肉料理は美味いわけだ。それに引き換え、俺は一体何をしているんだろう。いつしか俺は、野生の本能を忘れてしまったのでは無いか。そのきっかけ、思い当たるのはドイツW杯スウェーデン戦開始1分での、膝前十字靭帯断裂。あれ以来、俺の心には弱気が住み着いている。しかし一方、満男は同じ故障に見舞われた時、こう言った──

「昔は(靱帯損傷の全治が)1年以上のケガだったのを誰かが10ヶ月にした。3ヶ月はさすがに無理だろうけど、4ヶ月では行けるかな。自分がその一歩を踏み出す」

ワンダーは悟った。俺に欠けていたのは、その闘争心なのだ。それはピッチ上だけでは無い、あらゆる困難に対しての。思えばこの日本行きも、それを悟らせる為の……。

「判ったようだな、ワンダー刑事。これは南アフリカの地で満男がファン・ニステルローイを倒し、遂にエヴラと対面し、そして決勝でワンダー、君と戦う物語の序章に過ぎないのだよ」

なぜ、俺の名を? しかしアントン君は振り返ってかぶり物を取ると、そのまま黄色いスーパーカブで去っていった。一体、彼は誰だったのか。「筆者」には知る由もない。

─────────────────────────────

マンチェスターに戻ったワンダー、定位置のベンチに座る彼の前では、赤悪魔署刑事たちによる「第二次バーンリーの長城攻略戦」が執行されていた。前回はその長城の前に苦杯を舐めさせられた刑事たち、今回も難しい闘いとなったが──。以下、目についた赤悪魔署メンバーについて、捜査報告書より抜粋。

◎よくできました/クリス・イーグルス
彼は今日の対戦相手では?……いや、悪魔は永久に悪魔なので、差し支え無し。オールドトラッフォードのピッチに、鷲が舞い降りた。かつてはキャリントン警察学校を高成績で卒業し、その顔面偏差値から「殿下」ことスパイス刑事の後継者にも挙げられていた彼。しかし、常にトップとサブの『オン・ザ・ボーダー』に置かれ、いつしか悪魔署を去り、『ならず者』の如く移籍市場を彷徨う事に……。だが、バーンリーに『ニューキッド・イン・タウン』として加入後、いよいよ真の実力を発揮。危うく赤悪魔署に今宵、『呪われた夜』をもたらす所であった。敵将が、わざわざ「拍手交替」をさせるのも頷ける、なんともゴールデン・イーグルスな、素晴らしい出来。

◎おかえりなさい/エドさん
正直、ここ最近の赤悪魔署の調子以上に気になっていたエド夫人の容態。しかし、その熱心な看病の甲斐もあってか、夫人は不慮の脳内出血から後遺症も無く回復し、エドさんも晴れてゴールマウス復帰と相成った。この日の赤悪魔署の中央DFはエヴァ・ブラウンという、聞く度に「第三帝国総統の愛人」を思わせる、未だ時折不安定さを隠せぬ二人。しかし、それでも涼しい顔で完封してしまうのがエドさんである。今日まで代理を勤めたクスチャク警備員も文句無い実力者だが、やはりエドさんは違う。GKという枠を越えている。彼のフィード、パス廻し、捕球後の素早い配球こそが、赤悪魔署の躍動の源なのだ。赤い悪魔がFA杯敗戦で負った後遺症も、彼が跳ね返してくれる事だろう。

◯がんばりました/ガルシア刑事
見るからに脚の状態が悪く、得意のポストプレーにも精彩を欠くが、それでもピッチにバラの花を咲かせるガルシア刑事。傷つき、儚くも、しかし戦い続けるのが「ベルバトフのばら」のさだめなのだ。

◯よくねてました/カイ・ウェイン・ルーニーくん
パパに似過ぎ。パパの仕事は、ボチボチ。いつも、あれくらい冷静にシュートを……。 

◯さすがです/ダーティ・ギャリー刑事長
スピードの衰えを、唯一無二の経験でカバー。最後はネヴィル神拳の最終奥義『ネヴィル千手殺』で零封に貢献。そろそろ次期ボス修行を始めるとの噂も絶えないが、まだまだ現場に彼の汚いプレーは必要だ。

◯よく、がまんしました/ポール師匠
奇跡の二試合連続カード無し。ただし、前節のばしていたヒゲを剃ってしまったのが悔やまれる。「赤ヒゲ」で一本書くつもりが……。

そして最後に、マメ・ディウフ訓練生──

─────────────────────────────

72分、2対0と勝負がほぼ決した状況で、ワンダー刑事に出場が命じられた。しかしそれは、因縁のマメ・ディウフと同時投入……。

「ボスは、この俺と『豆豆腐』を競争させるつもりか……」

しかし、この日の競争で結果を出したのは、その「豆豆腐」の方であった。現警察学校校長ベビーフェイス・アサシンの教え子とも思えぬ、ちょい老け顔のセネガル人は、マメに走った甲斐あって二試合目にして初ゴール。更には、この日も欠場(実質)のナニ刑事の、数少ない見せ場さえも霞む様な、見事な「バック宙」まで。

それは、泣き虫刑事殉職後は空席となっている、「守備を固めつつカウンターを狙う際、トップに置く選手」の座を射止めたと思わすに相応しい活躍。そしてそれは、

「俺は、新ワンダーだ!」

という、旧ワンダーへの宣戦布告──。

しかし、ワンダーの心は揺るがなかった。俺はこの闘いから退かない、諦めない。なぜなら、俺はワンダーだから。ワンダーは赤悪魔署完勝を告げる笛を聞きながら、ふと横に見つけた満男に言った、

「マタギのボスよ、南アフリカで会おう。今は最終メンバーの座、俺の方が一歩遅れているが……いや一歩どころか、多分、今日でクラブでも『第4フォワード』にまで格落ちになったが、しかし俺も必ず掴み獲ってみせる。その為にも、俺もファーギーに言わせてやるのだ──

『ワンダーがW杯南アフリカ大会をテレビ観戦することはさせてはいけない』

と」。


そう言われて、エヴラは答えた。

「ハァ? 意味わかんないすけど」


to be continued...




次回、第二十三話『またしても、ハル』。
ワンダー刑事の奮起に、どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在するバーンリーFCとは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-01-18 14:42 | Manchester United | ▲ TOP
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