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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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第三十五話『ミナリー』
(記/なるほ堂、監修/minaco.)

01

「あたしはミナリー、あなたの一番のファンよ」

見知らぬ山小屋の寝室。痛みと朦朧に身動き一つ取れぬベッドの傍ら、椅子に座る女の手にしたPCには、私のブログ『tototitta!』のキャッシュ画面が映し出されていた。

事の発端──この痛みと朦朧の。それは赤い悪魔たちの玉音放送、即ちブラックバーン戦のドロー劇を見届けた後だった。私は岩手県盛岡市付近の、とある山中に車を走らせていた。郷土の味覚「バッケ味噌」の材料となる、蕗の薹を収穫する為である。だが、突然に山は春の吹雪に見舞われた。岩手では、よくある事だ。運転を誤った私の車は、道を大きくはずれ、崖下に転落していった。

暗闇。そしてこの痛みと朦朧。すると女の息が私に入り込み、その声は「呼吸をして、さあ、呼吸をするのよ!」と叫んだ。全身打撲、両足の複雑骨折。私を救助して、壁一面がユナイテッドサポーターを表わす自宅の部屋に担ぎ込んだ女は、イラストレーターのミナリーと名乗った。イラストレーター……ミナ……何処かで聞き覚えがあるが、今は朦朧として思い出せない。病院と自宅への連絡を求めた私に、女は「この雪嵐で電話が通じると思って?」と言った。岩手では、よくある事だ。

「あなたは幸運よ──」と彼女は言った。そして、続けた。

「いえ、あたしの方こそね。だってあなたが本当に、『Stretford Endにほえろ!』の作者だなんて! 大傑作よ、非の打ち所がないわ、神の創造だわ!」

これは厄介なことになったぞ。この女はまともじゃない。


02

「この……この、ろくでなし!」
「いったい──」

翌朝。未だ痛みと朦朧の中にあった私を、ミナリーが揺り起こした。昨日より更に瞳を濁らせ、彼女は「ユナイテッドは四連覇するのよ! あんたがユナイテッドから優勝を奪ったんだ!」と叫んだ。哮る彼女の向こうに、私はPC画面に映る弊ブログを見た。ネットが繋がったらしい。だが、それは私に何の安堵も与えなかった。彼女は、勝ち点を失ったブラックバーン戦のエントリーを読んだのだ。

「あんたが、赤い悪魔を殺したのよ!」

私は必死に弁明した、「スコアは変えようが無いんですよ。私が作中で殺したのは、ワンダーだけ──」。だが、その弱々しい声は「最低よ! あんたは泥棒チェルスキー、薄汚いジョン・テリーと一緒よ!」という彼女の怒号に掻き消された。

「ユナイテッドサポーターを、嘗めるんじゃないわよ」

そう言うと彼女は、ポール・スコールズの様に猛然と私に襲いかかり、ギャリー・ネヴィルの様に私を押さえつけ、ネマニャ・ヴィディッチの様な肘撃ちを加えると、そして再びスコールズの様に「やり過ぎたかな?」と頭を掻いた。どうにか私が身体を起こさなかったのは、そこにカントナのカンフーキックを怖れたからだ。やがて私の耳に、車の始動音が聞こえた。ベルバトフの様にのたうつ私を一人残し、彼女は家を出て行った。

51時間経った。

ストーン・ローゼスの鼻歌と共に、彼女が戻ってきた。幸運な事に彼女のヘアドライヤーは弱風に切り替わっていた。惨めな私のシーツを替える女性に、私は言った、「お帰りなさい……私の看護婦さん」。この女は狂っているが、私にはこの女が必要なのだ。

再び現れた彼女の手には、今時何処の中古店に売ってきたのか、骨董品のシェルiMacがあった。彼女は言った、「あんたの事なら何でも知っているのよ、だって一番のファンですもの」。確かに私はマカーである。モニターに浮かぶ林檎マークを眺め乍ら、私は既に判りきっている事を訊いてみた。

「私はそれで何を書くのかな?」

私に向けられた女の目が、紅潮した顔の中で生き生きと踊っていた。

「そんなこと判ってるじゃないの! 新作を書くのよ。

 ──あんたの最高傑作、『赤い悪魔の帰還』をよ!」



03
『赤い悪魔の帰還』

……前略……

ギャリー・ネヴィルが不自然な笑顔で入場してから、時間は既に80分が経過していた。いつもの様に「市街戦」さながらのアウェー・シティ戦は、ここまで互いにスコアレス。既にピッチ上にルーニーの姿は無い。

「バルス!」

しびれを切らしたボスが「滅びの呪文」を唱えた。すると、「天空の城」からロボット兵──またの名を、おベルたんが飛来した。だが、相変わらずユニフォームの下にハンガーが入ったままの彼に、何かを起こす力があるとは、誰も思わなかった。すると、

「♪I Know It Over(もうお仕舞いだ)」

そんなユナイテッド信奉者の歌が聞こえた。敵地の客席に身を隠していた、その花を持った中年男性は、続けてこう歌った。



Good times for a change 
See, the luck I've had can make a good man turn bad
So please please please,Let me, let me, let me
Let me get what I want This time


今こそクラブが変わる時だ 運なんて巡り合わせ
ごらん かつて良かった選手も 悪い選手になってゆく
どうか どうか どうか 
今こそ 僕の欲しい選手を獲得しておくれ
……

ジョニー・マーのマンドリンの音と共に、時計は90分を回った。勝ち点4差で追いかけていたチェルスキーは、赤い悪魔たちの遠い彼方へと、消えてゆくのだっ………


「また、赤い悪魔を殺すのね! ひ と ご ろ し!」

手渡した原稿を震わせ乍ら、ミナリーは叫んだ。私は彼女に、テレビの中の現実を指差して言った、「私が殺したんじゃない、彼らが自滅したんだ──もう今季はお仕舞いなんですよ」。ロスタイムに入った悪魔たちは、むしろ無失点である事の方が奇跡的であった。

「書き直しなさい」
「もう起きてしまった過去は変えられない」
「過去なんて、ランゴリアーズに喰われてしまえばいいのよ」
「?」
「そもそも、どうしてキャリックを使わないの?」
「私に言われても──ファンだったんですか?」

すると彼女は飼っていた豚を刃にかけ、その血をバケツで浴び乍ら、叫んだ。

「キャリックを──キャリーを虐めないで!」

その瞬間、部屋のテレビが──まだ試合はロスタイム中であったが──爆発した。超能力だ。私は思った、「こいつ、何処までスティーブン・キングが好きなんだ?」。だが、これ以上ネタを拡げては、読者を置いてきぼりにするだけだ。私は渋々、彼女に命じられるままに、今書き上げたばかりの原稿を、自らマッチで燃やした。

「言ったはずよね。私を怒らせないでって!」

それでも彼女のヘアドライヤーから、熱風が止む事は無かった。彼女は「昔、言う事を聞かない悪い子を、アイルランド人がどうしたか知ってる?」と叫び乍ら、棚に飾られたロイ・キーン像を指した。私は抗うのを止めた。彼女ならば躊躇無く出来るだろう、アイルランドの闘将直伝の「選手生命殺し」を。彼女はその濁った瞳を、私の癒えかけた両膝に向けて言った。

「あなたをハーグリーブスと同じ目に合わせてやるわ」


04

「それで、チェルスキーはどうなったの?」
「──負けました」
「それじゃダメよ。もっと作家らしく、想像するのよ。彼らの屈辱的な敗北を!」
「じゃあ、友人の女に手を出したテリーが、ボールにも手を出してPK献上し、その後退場を言い渡されて、負けました」
「いいわ、それよ! 流石だわ!」

これまでは実際の試合が、キーを叩く私の指を動かしていた。だが今は、このユナイテッド狂女の妄執が、それに代わっていた。私は彼女を喜ばせる為に、生きてここを脱出する為に、想像力を働かせて、見てもいない情景を記し続けた。勿論、こんな「都合の良い展開」なんて有り得ない事を承知しながら。

私が「ついでにガナーズは、残り10分で3点取られて、大逆転負けです」と言うと、彼女は満足げに「しかもウィガン相手にね──素敵!」とシャンパンを開けた。

「さあ、あたしの可愛い悪魔たちが、優勝戦線に帰還する物語を書きなさい。ダン中尉」

ダン中尉、それは彼女曰く「ちょっとした手違い」でこうなった、現在の私の「身体的特徴」を表わしていた。

『赤い悪魔の帰還』(第2稿)

【#35 Man City 0 - 1 Man Utd】

………
赤い悪魔の奇跡は、いつもロスタイムに起きる。

ホームに於けるシティ戦の主役は、ロスタイムにゴールを決めたワンダーだった。「サッカーも競馬も、ダービーは俺に任せろ!」とばかりに。だが今、彼の姿はこの世には無い。

しかし、ワンダーは一人では無い。いや、そもそもワンダーとは、人を指す言葉では無い。そう、このマンチェスター・ユナイテッドというクラブこそが、ワンダーなのだ。

だが、残り時間は1分を切った。ギャリー・ネヴィル、かつてはベッカムの、そして今なおユナイテッドの「ボディガード」を勤め続ける男も、遂に今季の終幕……いや、その長いキャリアの終幕を悟っていた。誰よりも責任感の強い主将は、「中指立てたテヴェス相手に勝てないんじゃ、俺にもうユニフォームを着る価値は無い」と。疲れ果てたボディガードは、ホイットニーの調べに乗せて歌った──

♪If I should stay,I would only be in your way
So I'll go,but I know
I'll think of UNITED,every step of the way


もし来季も私がここに残っても きっとあなたの邪魔になるわね
私はユナイテッドを去るわ でも分かっている
いつどんな時でも ユナイテッドのことを思うだろうって


だが、その時だった。前日、来季も人気ドラマ「CSIマイアミ」主演と並行して、赤い悪魔の一員として闘う事を決意した赤毛の男が、奇跡を起こした──

「僕の頭は痒いだけじゃないんだよ、ギャリー」

ゴール、それは長年連れ馴染んだ盟友からのメッセージ。まだまだ、僕たちには出来る事があるだろう?──そんな思いを受け取め乍ら、ギャリーは思った。恐らく自分ほど、このクラブを愛した人間は、過去にも先にも居ないだろう。それは何故か? シティが、リヴァプールが嫌いだからか? いや、違う。ここにはベッカムや、弟の思い出があるからか? いや、それだけじゃない──。

今、視線の先にその真の理由を見つけた彼は、その名前「GARY」の「R」の字をかなぐり捨てて、その愛する者の立つ場所へと駆けていった。あの中指事件以来、上から「放送禁止行為」の自粛を命じられていたが、構うものか。

「ポール!」
「ギャリー!」

そんな二人を祝福するかのように、先程来途切れていたホイットニーの歌声が、再び響き渡った。ドラムのショット音と共に──



And I will always love you
Will always love you


いつも私は あなたを愛するでしょう


=FIN=


Epilogue

あれから数日後──
相変わらずの痛みと朦朧。私の身体は、未だベッドの上にあった。だがそれは、あの赤い悪魔狂信者の棲む山小屋ではなく、住み慣れた自宅のベッド。あの「牢獄」から逃れた私は、山中に倒れていた所を、偶然通りかかった熊撃ちのマタギによって助け出された。岩手では、よくある事だ。

あの女、ミナリーはどうなったのか?

私の原稿を読み終えた彼女は、あの結末──そう、あの一体何処に需要があるか判らないオッサン2人の愛の営みを目にした直後、地の底から込み上げる様な咆哮、「ユナイテッド!」という叫びと共に、床に倒れた。S・キングの「ミザリー」が燃え死んだように、ミナリーは萌え死んだのだ。

私は帰還した。だが、帰還したのは私だけではなかった。あの恐怖の山小屋で、私が強要されて書いた赤い悪魔の物語は、すべて現実と化していた。皆は口々に言う、「なんて幸運なんだ!」と。だが、私には判っていた。それは「運」では無い。私はミナリーの幸せそうな死に顔を思い浮かべ乍ら、彼女に宛てて言った。

「あなたが、赤い悪魔を帰還させたのですよ」

ミナリーとは、決して屈しない、熱狂的ユナイテッドサポーターの総称である。この現実は、彼ら、彼女たち、あなたたちの「願い」が起こした奇跡なのだ。最期まで、この物語を書き続けなくては──私も、もう諦めない。すると、部屋の向こうからストーン・ローゼスの鼻歌が聞こえてきた。

THIS IS THE ONE──そう、チェルシーとの勝ち点差は「1」。部屋に入ってきた彼女の手には、私の執筆用PCがあった。女の目は、「さあ、書くのよ」と訴えていた。

「君は誰だ?」

私が訊ねると、女は答えた。

「あたしはminaco、あなたの一番のファンよ」


to be continued...


次回、第三十六話『今度はホットだよ──襲来ホットスパー!』。
どうぞご期待下さい。
(タイトルは予告無く変更される場合があります)

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このドラマはフィクションです。実際の人物・団体・
実在する小説『ミザリー』とは一切関係ありません。
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by tototitta | 2010-04-22 14:42 | Manchester United | ▲ TOP
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