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イラストレーターMinacoとなるほ堂が、サッカーのこととか、映画のこととか、日々日常に関して、その情熱の総てを地球にぶちこんで叩き付け、戦い挑み、愛を説く日々の記録。
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映画で語るW杯出場国 #4
『ケス』に見る自尊心と自虐の詩とイングランド代表
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ヨークシャーの炭坑町。父親は蒸発し、残された母と炭坑で働く粗暴な兄と貧しく暮らす少年ビリーがいた。ビリーはある日森でハヤブサと出会い、興味を惹かれる。やがてケスと名付けた雛を育て始め、夢中になってゆく。「ハヤブサは人に服従しないから好きなんだ」一人の教師がそんなビリーを気に留め、理解を示してくれる。
だが、ビリーの世界は変わらなかった。ビリーが頼まれた馬券代をくすねた事にブチ切れた兄によって、ケスは殺されてしまう。ビリーはそっとケスの亡骸を葬るのだった。

これがノエル・ギャラガーとモリッシーにこよなく愛された映画『ケス』 ('69 )である。俳優は教師役以外皆素人、センチメンタルなドラマはない。でも紛れもない現実がある。監督はケン・ローチ。私のオールタイム・フェイヴァリットな1本でもある。

これがアメリカ映画なら主人公は大抵町を出て作家にでもなり、物語の語り部になっているだろう(『スタンド・バイ・ミー』のように)。しかし、何もいい事がなかったホームタウンをビリーは決して離れないはずだ。ケン・ローチは現実を安易に美化したりしない。だからこそ、この映画は今も英国映画のガチであり続ける。観る者は「これこそ自分の物語なんだ」と思わずにいられないのだ。

そしてこの映画にメタファーとして登場する「ハヤブサ」は、「フットボール」に置き換える事も出来るんじゃないかな。

イングランド・フットボールの主人公はファンだと私は思う。それも労働者階級の、ぶっちゃけダメ人間。映画の主人公もまた、廃れ行く炭坑町で希望も野心もチャンスも誇りも持てない閉塞的日常を送っている。ケン・ローチ以降'90年代にも(プレミアリーグ隆盛と時を同じくして)労働者階級を描いた佳作が英国映画を復活させた。そんな映画には「またかよ」と思いつつ、やはり泣かされてしまう。'60年代に比べると近年のダメ人間映画は「イイ話」として成立しているのが大きな違いだが。

同じく炭坑町で不様なオッサン達がストリップをする『フル・モンティ』、バレエダンサーを夢見る『リトル・ダンサー』、ブラスバンドの『ブラス!』、刑務所の中でガーデニングの才能を見つける『グリーン・フィンガーズ』などなど。舞台はアイルランドだが、アラン・パーカーの名作『コミットメンツ』もソウル・バンドで夢を見る。無職で冴えない惨めな野郎共が、ふと明日を夢見て起死回生に挑む…私は「ダメ人間がささやかな希望を見つける」というシチュエイションにかなり弱い。自分もダメ人間だから。

そんな映画の中のダーティ・タウンで、主人公達が唯一自尊心を持てる瞬間がストリップであり、バレエ、ガーデニング、バンドであり、そしてハヤブサだった。フットボールもまた同じだ(フーリガンの破壊行為すら、ひとつの自己実現ともいえる)。
それが所詮一夜の儚い夢だと解っていても。「”にもかかわらず”持つのが希望」と言ったのはミヒャエル・エンデだが、ほんの少しでもいいから、他人に尊敬されたい、誇りを持ちたいと願うのは切実な望みだと思う。(ケン・ローチの近年の対象が『SWEET 16』を除いて移民にシフトしているのは、撮るべきもの、つまり切実に希望を欲しているのが現在は移民達という事かもしれない)

特に感情を上手く表す事が苦手と言われるイングランド人には、その自己実現を託す何かが必要なのではないだろうか。だから彼らはフットボール・クラブに夢を見る。勝つ事がすべてではない。共に胸を張って歩きたいのだ。
近頃はプレミアのチケットも高額でもはやワーキング・クラスのものではないと言われるが、それでも英国フットボールはプレミアだけじゃないし、地域のアイデンティティと男達の自尊心の拠り所になるのはフットボールである事に変わりないのでは。

さて、W杯でイングランドはもう何十年も優勝していないが、彼らの闘いぶりはいつも一抹の清々しさがある。南米選手ならレフリーに見えない所でチョイと手業を使う場面でも、基本的にイングランド選手はスピードにはスピード、パワーにはパワーの正攻法(ギャリー除く)だ。それに代表チームはどうも結束だけは強く見える。映画の中の男共が古くからの小さなコミュニティの同類とツルみ、法を破る事はあっても決して仲間を裏切らず、妙に義理堅いのと同じように。生き馬の目を抜くような南米を見慣れた人には、何とものどかに映るだろう。そんなんじゃW杯は勝ち抜けないよ、と。

だが例え南米のマリーシアに打ち負かされても、イングランドはスタイルを変える事はないだろう。イングランドにしか出来ないフットボールがある。いつだってスタジアムで歌い続けるサポには、フットボールの母国へのリスペクトを贈りたい。と同時に、現実は甘くないとも知っている。自虐的に。
にもかかわらず、美しい軌道を描くロング・キックが、容赦なく正確なクロスが、肉体で削り合う勇気が、いつか再び世界を制するかもしれないとささやかな希望を持ってしまうのは、やっぱり私がダメ人間だからだろうな。


付記/ルー坊骨折でW杯出場が困難に…。正直今回は出ても結果を残す事は難しいとは思っていたが、貴重な経験の場を失うのは忍びない。ともあれルー坊がキングとして君臨するとしたら、次の南アW杯でしょう。

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(記&絵/minaco.)
by tototitta | 2006-05-02 20:55 | W杯2006 | ▲ TOP
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