(記&画/minaco.)
秋ですね。こう日が短くなると、こちらでは迫り来る冬を思いちょっぴりメロウな気分になりますね。
そんな季節にぴったりといえば、この映画。
『氷の接吻』なんて邦題があまりにアレだけど、原題は全然違って"EYE OF THE BEHOLDER"('99)。
何となく、好きな映画だ。ハリウッドじゃないみたい、まるでヨーロッパ映画みたいだと思ったら、イザベル・アジャーニ主演『死への逃避行』('83)のリメイクだそうな。監督・脚本は『プリシラ』(コレは名作)のステファン・エリオット。どおりでロケーションがとてもキレイ。
殺人逃避行を続ける謎の美女アシュレイ・ジャッドと、それを追うストーカーのユアン・マクレガー。付かず離れず、このもどかしい距離感がイイですな。ユアンが英国諜報員って設定と、尾行してんのにその真っ赤なダウンジャケットはどうなの?って気もするけど、彼のニュートラルな持ち味がアシュレイを引き立てる。
観返してて気付いたんだが、ヒロイン以外の女性登場人物が皆、きっついキャラなのだ。何せユアンの上司はいかついk.d.ラング。これもアシュレイを引き立てる狙いだったのかも。
ある種ロードムービーでもあって、場面転換に挿入されるご当地スノードームが利いている。アメリカ各地の風景、特に冬の凍てつく空気が物語に似合うし、ユアンが潜むさびれた教会の鐘つき場、図書館、駅なども情緒満点。そしてホテルの部屋の壁一枚で隔てたデ・パルマ風2ショットときたら、名場面。流れる“I wish you love”の曲がベタだがはまってる。
男と場所を変えるたびにイメチェンするアシュレイの七変化も見所である。ワタシ好みの50'S女優風ウィッグ&ファッションがよく似合うし、鼻眼鏡のウェイトレス姿も場末感溢れてグッとくる。まあそもそも肉質が柔らかそうな所がエロスで好みです。お下品ですが。加えて往年のハリウッド女優みたいに片方の眉だけ持ち上げた表情と、口元の皺がたまらんす。
例えばA.ジョリーちゃんが高級コールガールだとすると、アシュレイは場末のスナックのワケ有り美人ママ。時にやさぐれ男の愚痴を聞き、ついほだされて一緒に駆け落ちしそうな。器量は随一なのに、どうも幸薄い。
顔は若い頃の多岐川由美にそっくりだけど、おそらく一番近いのはマリリン・モンローだと思う。『ノーマ・ジーンとマリリン』でノーマ時代に扮したくらいで。
だからこの映画も、『氷の微笑』みたいな悪女と共に堕ちてゆく男の話にはならない。ハスッパで無防備で、時に少女のように儚なげなアシュレイを、そっと守ってやりたくなるのだ。
そんな訳で、ユアンの目線でアシュレイを追うのが愉しい映画でもある。決して傑作とは言わないけど、映画館で観終わった後バッタリ出くわした知人と、お互いに「なんかイイよね~」と頷いた記憶がある。このジャージーな雰囲気だけで充分だわあ。