(記/minaco.)
ベックス、ミランへ行ってよかったね。その活躍ぶりを聞くと嬉しいし、ユナイテッドで育った子ならどこへ出しても恥ずかしくない。親バカとして、そう思う。
さて、別に読むつもりはなかったんだけど、古本市で安かったのでつい買ってしまったのがこの本。
『捨てられたベッカム~ファーガソンはなぜ愛弟子を追放したのか~』
(原題 beckham and Ferguson)
ジェイソン・トマス 著 / 東本貢司 訳
そう、ベックス・ブームの頃に出たうちの一冊である。どうせスキャンダラスな暴露本だと思ってスルーしていたんだが、読んでみるとそんなにおかしな事は書いてなかった。誰もが知りたいアノ辺の真相というより、ここにあるのは原題通り「ベックスとファーギー」について。ユナイテッド・ファンには今更な事でもあるけど、興味のある方はどうぞ。そういや、キーンさんの自伝もいつか読もう。
で、読みながら今や懐かしいあの頃と、彼のサーガを辺境で偏狂のユナイテッドファンがひとり寂しく振り返ってみた。しみじみ。
【ベックスとワタシ】
誤解してる人もいるかもしれないが、唯我独尊の天才カントナは練習の鬼であった。彼が来てイングランドの悪しき慣習(例えばパブでビールにフィッシュ&チップスみたいな)を駆逐し、プロフェッショナリズムを叩き込んだいうのは有名な話。
そして誤解してる人もいるかもしれないが、ベックス最大の本領は献身性とスタミナだった。この本でも指摘するように地味な仕事を厭わず、泥臭く走り続け、時には最終ラインで守備してるのを何度も観た記憶がある。代表の体力テストで最も優秀だったというのも有名な話。
なので、マドリーで本来の魅力を評価されないのは寂しかった。まあロベカルと比べられたら仕方ないかも。
恐らくベックスは
「尽くし性」 なんじゃないかな、と思う。華やかなFKやゴールの他、彼の仕事の殆どは「縁の下」だ。ピッチで甲斐甲斐しくストライカーにクロスを供給し、家庭ではヴィクトリアに…。どっちかっつうと、ベックスが女房でヴィクちゃんが旦那に見える。さぞ尽くし甲斐のありそうな相手だから、彼も本望だろう。
彼にマッチョとはかけ離れた女性的なイメージがあるのは、そのせいもある。故に、ユナイテッドでギャリーは勿論キーンさんやルート、ミランではガッツといった、より主導的な(単純な)タイプによく懐くみたい。うい奴よ。
【ユナイテッドとワタシ】
プレミアリーグとなって最も恩恵を得たのはユナイテッドだが、名門クラブと呼ばれるには少々違和感がある。何しろファーギー以前の暗黒時代も長かった。降格などあり得ないマドリーとは違う、言わば叩き上げのクラブだと思ってる。マドリーが王立名門高校だとしたら、ユナイテッドは
公立男子工業高校 みたいなものだもん(ちなみに創立時は鉄道員のクラブ)。
ただ、公立男子校だからこそ「スクールウォーズ」並みの伝説がある。夢をあきらめていた不良生徒にバスビー先生が教えてくれた「奇跡」の力。再び弱小クラブとして迷える時に現れたファーギー先生と、転校生カントナ。大映ドラマもビックリな物語じゃないか。
【ファーギーとワタシ】
イングランドの監督はマネジャーと呼ばれるが、今の時代ほんとに実権を伴ったマネージングを出来る人は殆どいなくなってしまったらしい。
つまり
「監督はオーナーと選手に挟まれたサンドウィッチのハム」 で、しかも
「どんどん薄くなっている」 (本中よりテリー・ヴェナブルズ談)というのだ。
そんな監督家業で、ファーギーはずっとボスに君臨している。プレミアは金で動く。リーガは政治で、カルチョはマフィアで。でも、ユナイテッドはファーギーで動く。
時にファーギーは未だ労働組合のリーダーで、懐柔と粛清を繰り返す独裁者だと言われるのも間違いじゃないと思う。同時に、そんなボスを憎む訳もない。
何せカントナを操縦した人だもの。この怒れるスコテッシュなら、ジョージ・ベストさえ手なづけられたかもしれないし、あのガッサだってユナイテッドに来ていたら、もっと違った人生になってたんじゃないかと悔やまれる。
【ファーギーとベックス】
この本では、ファーギー現役時代(FW)の武勇伝も紹介されている。才能には恵まれなかったようだけど、かなり激しくて喧嘩ッ早い武闘派。キーンさんのスコティッシュ版かな。そりゃあ、近頃は随分丸くなったと言われるものの。
なので、かつてベックスとの一件は「寺内貫太郎一家」の小林亜星とヒデキみたいな、いつもの親子喧嘩だと思ってた。色気づいたイマどきの若者に、旧世代のカミナリ親父がちゃぶ台ひっくり返すのと同じ。但し、そこに嫁が介在するから厄介になっただけで。『スターウォーズ』のオビ・ワンVSアナキンと同じ道でもある。(詳細は
コチラ 参照)
本ではユナイテッドのキャプテンをベックスではなく、キーンに任せたのも退団の一因と推測している。ベックスは当たり前の自己顕示欲を満たされなかったと。
どういう真相でも、ワタシはこの件が大きなしがらみによるものじゃなく、個人的な諍いであった方が救われる。人間らしい過ちなら、それでいいんだ。
【サーガとワタシ】
きっと「スタムは何故捨てられたか」でも「ルートは何故捨てられたか」でも、同じような本が書けるかもしれない。ワタシはスタムさん退団が例の自伝のせいだとは思ってないけど、彼もまたサーガ登場人物の1人である。よしんば次が「○ンは何故~」だとしても、それはユナイテッド・サーガの一頁に過ぎないんだろう。
別にそう望んでる訳ではなくて、ただユナイテッドの道に反しない限り、何も否定しない。時々、そんな自分が痛い。
ふう、またつまらぬガチを書いてしまった…。後ろ向きな話ばかりしてきたが、彼はやっと今幸せになろうとしてる。ではミランさん、後はヨロシク。
【おまけ】
David Beckham Gary Neville
ベックス、いい嫁さんになれるよ。